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ヤンデレ彼女×サイコパス彼氏≒純愛  作者: 釧路太郎
第二部 二人だけの世界編
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三人の距離と適切な関係

 三人でいるのだから僕とみさきが隣同士になるというのは何もおかしいことは無いわけであって、その間にレベッカが入ってこようとするのはおかしいことだと思った。僕はみさきが隣にいればそれでいいのだけれど、みさきは子供とはいえ他の女が僕の近くに来ることが嫌なようだった。僕の考えを裏付けるかのようにみさきは僕とレベッカの間に入ってがっちりと腕を組んで対抗していた。

 レベッカはなぜか僕の隣ではなく膝の上に座ろうとしてきたのだけれど、さすがにそれは僕が拒否したのだ。なぜよく知らない人を膝に乗せないといけないのだろうかと考えてみたりもしたのだが、もちろんそれに対して答えなんて出るわけもないので考えることすらやめることにした。

 そう言えば、僕の膝の上に最後に乗ったのは誰だろうと思って考えてみると、旅行に行く前の夜にソファでくつろいでいた時に妹の唯が間違えて膝の上に座ったという事があった。僕がいつもの席に座っていなかったという事もあるのだけれど、僕が座っていることに気付かないでそのまま座る唯にも悪いところがあったと思う。実際に、僕よりも先に唯が謝ってくれたので喧嘩にはならなかったけれど、その後に僕がつい余計な一言を言ってしまったがために少しだけ面倒なことになったとおいう事は忘れることにしよう。帰りに何かお土産でも買って帰れば喜んでくれるだろうしね。


「ご飯を食べる時はお行儀良くしないとダメだよ」

「そんな子供に注意するみたいに言わなくても分かるよ。ちょっとふざけただけなんで気にしないでください。それと、ハンバーグも食べたいけど和食も食べていい?」

「僕とみさきで全部食べるなんて無理だからレベッカも好きなモノを食べていいよ。その代わり、好き嫌いしないでちゃんと食べるんだよ」

「うん、私はあんまり好き嫌いとか無いから何でも食べるよ。このお弁当に入っている物で嫌いなものは無いと思うから大丈夫。あと、ベッキーって呼んでね」

「好き嫌いがないのは偉いわね。でも、だからといってまー君の隣に座るのはダメよ。まー君の隣は私の指定席なんだからね。レベッカは大人しくお弁当と向き合ってなさい」

「隣じゃなくても正面から正樹を見ているからいいもん。それに、お弁当も私に食べて欲しそうにしているしね。それと、私の事を呼ぶ時はベッキーで良いよ」

「まー君の事を見るのは許可するけど、ベタベタ触ったりしないでね。まー君は私の彼氏なんだからね」

「今の正樹はみさきの彼氏かもしれないけどさ、明日になったら私の彼氏になってるかもしれないよ。だって、私はこんなに可愛くて日本の風景にもマッチしているからね」

「いや、僕はレベッカと付き合うことは無いよ」

「なんでそんなに簡単に言い切れるのよ。少しは私にも気を遣ってよ」

「だってさ、僕が好きなのはみさきだけだからね」

「そんなにハッキリ言いきれるなんて正樹は本当に日本人なの?」

「もちろん。僕もみさきも純粋な日本人だよ」

「日本の男の子はシャイなはずなのに全然違うじゃない。でもさ、私の事は可愛いって思ってくれたりしてないかな?」

「どうだろう。見た目だけなら可愛いかもしれないけど、それって人としての可愛いではなくてマスコット的な可愛いだと思うんだよね。それというのもだね、僕の身近にはレベッカみたいに金髪で碧眼の女の子って二人もいたんだよ。一人はちょっと遠くに行ってしまっているけど、もう一人は僕たちよりも年上なのに行動も見た目も可愛らしい感じだと思うな。その人に比べるとレベッカは行動の面で一段劣るかもしれないよ。でも、それって僕の完全な主観に基づく考えなんで参考にはならないと思うけど、みさきはどう思うかな?」

「そうね。私もおおむねまー君と同じような意見だよ。でも、それに付け加えさせてもらうと、その麦わら帽子と白いワンピースは狙い過ぎだと思うわ。これは私の勝手な予想なんだけど、私達の周りではたまたま外国の人と触れ合う機会があるので他の地域の人よりも外国人に親近感を抱いている人は多いと思うのよね。でも、ここみたいな集落では日常的に外国人の人と触れ合う機会なんて無いと思うし、レベッカみたいに麦わら帽子で白いワンピースを着ているような外国人は映画とかテレビの世界でしか見たことが無いと思うのよね。もちろん、世間の目から見るとレベッカは可愛らしいお嬢さんって感じなのもポイントなんだけど、そんな子を見てしまった集落の人達はどんな反応をするのか想像なんて簡単にできると思うのよね。それで、レベッカは集落の人からちやほやされる為にそんなベタな格好をしてここに来たんじゃないかしら。湖の側に麦わら帽子をかぶって白いワンピースを着ている可愛らしい外国人がいたら誰だって見惚れちゃうと思うのよね。レベッカ、あなたの狙いってそれなんじゃないの?」

「そ、そんな事ないもん。あそこのいるおばあちゃん達は皆私の事を可愛い可愛いって褒めてくれてるもん。今日はなぜか誰とも会わなかったけれど、出会った人はみんな私の事を可愛いって褒めてくれるもん。だから、わざわざみさきが言ってるような事をしなくたって私は可愛いんだもん」

「そう興奮しないでさ。このジャガイモの煮つけを食べて落ち着きなよ」

「ありがとう。ちょっとムキになってしまったかもしれない。ねえ、その美味しそうなジャガイモを正樹が私に食べさせてよ。ほら、あーん」

「そう言うのはやらないよ。自分で食べなさい」

「ちぇっ、食べさせてくれてもいいのに。って、みさきには食べさせてあげてるのズルい。私にも食べさせてよ」

「わがまま言うんじゃありません。みさきは右利きで、その手が今は使えない状態なんだから仕方ないだろ」

「仕方ないって、みさきは正樹の腕にくっついてるだけじゃない。そんなの離れて自分で食べればいいだけでしょ。私のパパとママだってそんなにべったりくっついたりしてないってのに、私が思っている以上に二人の想いって強いのかしら。そんなんじゃ、私が入り込む余地なんて無いじゃない。ねえ、私も仲間に入れてよ」

「そうだね。恋人というくくりでは仲間にすることは出来ないけど、友達だったらいいよ」

「そうね。私も友達だったらいいわよ。ただし、まー君に手を出そうとはしないでね」

「ありがとう。なるべく二人の邪魔をしないようにするね。それで、みさきにお願いがあるんだけで聞いてもらってもいいかな?」

「どんなことなの?」

「私ね、温泉に行ってみたいんだけど、ママは温泉が好きじゃないって言って一緒に行ってくれないの。それで、良かったらなんだけど、今晩一緒に温泉に行ってもらってもいいかしら?」

「それくらいだったらお安い御用だよ」

「良かった。でも、ここの温泉は男女で別れているみたいだから、正樹は別の機会にね」

「僕はレベッカとは一緒に温泉に入るつもりは無いよ」

「そんな真顔で答えなくても冗談だからね。ほら、みさきもそんなに怖い顔しないで楽しく行きましょ。せっかく友達になったんだし、怒らないで楽しみましょうよ。それにしても、このジャガイモ美味しいわね。懐かしい味がするわ。おばあちゃんの味ってやつなのかな。私のおばあちゃんは二人とも日本人じゃないけど、このジャガイモはおばあちゃんの味って感じがするわ。ねえ、間違ってないよね?」

「そうだね。間違ってはいないけれど、そのおかずを作ってるのっておばあちゃんじゃなくておじさんだったよ」


 どうでもいい事とはわかっていたけれど僕はそれを指摘してしまった。食堂でご飯を食べていた人なら誰でもわかることなのになと思っていたのだけれど、レベッカたち家族は食堂ではなく部屋で食べていたという事を思い出した。食堂に出てこないで部屋で食べているのならあの料理の上手なおじさんに会うことも無いのかと思うと、僕がどうでもいい事を指摘してしまったという事が途端に恥ずかしくなってしまった。レベッカの顔を見てみるとうつむいているのだけれど赤くなっているように見えた。きっと僕も顔が熱くなっているという事を考えると、レベッカに負けないくらい赤くなっているような気がしてきた。

 次からはどうでもいい指摘なんてしないでちゃんと相手の事を考えて発言した方がいいなと思う出来事だった。


 あれだけたくさんあって食べきれるか不安だったお弁当は何一つ残すことなく綺麗に平らげることが出来た。きっと、三人ではなくみさきと二人だったとしても食べきることは出来たと思うのだけれど、そうなっていた場合は満腹感と幸福感で夕方まで動けなくなってしまいそうだなと思っていた。

 いつの間にか蜘蛛が少しずつ増えてきてはいたのだけれど、相変わらず抜けるような青空が広がっていることには変わりがなかった。

 これだけ自然が豊かな場所であるのならば、何か変わった動物でも出てきたらいいなと思って周りを見ていたのだけれど、レベッカのサンドイッチを食べてしまった犬たちも見当たらなくなってしまったし、この近くには僕たち以外誰もいないんではないかと思えるくらい静かな空間になってしまっていた。


 聞こえてくるのは風が草木の間を縫って奏でる音だけなのだが、僕にはその音が何か不吉な物のように聞こえていた。まるで、これから先に何かとんでもない災いが僕に襲い掛かるようにも思えていて、まだ陽も高く暖かいというのに体の芯を冷たいものが通り抜けたような感触を覚えてしまっていたのだった。

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