世界はいつだって優しくない
前回、評価してくれた方有難う御座います!
もっと、精進していきます。
地下空間は思ったよりも明るく目を細めてしまうくらいだ。
まるで太陽の陽が射しこんでいるかのようだが、陽に暖かさはなく、周りには岩石の壁が広がっているのが分かる。
本当に、地下なのだと実感させられる。
にしても、本当に異世界に来たんだと認識できた。ここまでくると、異世界召喚に驚くことはないけれど、世界間の違いと、異世界に立っている自分に驚きはする。
目新しい景色。人々は、中世ヨーロッパに近しい服装をし、まばらに、剣や、槍、斧など様々な武器を見せている。
遠距離武器がないのが少し気になるのと、ミユウの話的に、魔法概念が存在するとのことでイネプトレスにも使えるとのことだけれど、杖などの武器を所持している人が見当たらない。
それよりも、異世界『グレードスフィア』のイネプトレスが住むこの場所は、想像よりも反映していて、文化レベルも高そう。
建築物は、地下なのにもかかわらず木材も利用されていたり、所々に見せられている大型建造物なんかは、細かい装飾や、ガラスが使用されていて、やはり人間の美的感覚の聡明さが伺える。
舗装されてる道の先に見えるド派手な建築物はまるで壁だ。その大きさに屈服しそうだ。
「――ここは、ダンジョン入り口。戻ってきたんだ!わたし」
始めて来た世界に圧倒されていた意識は、ミユウにボロボロのブレザーの裾を引っ張られて戻る。
「ダンジョン?」
「そう、地上に出るための唯一の通路みたいな感じかな?」
首をかしげて、ミユウは俺の顔を覗き込んできた。整った顔立ちと、澄んだ宝石のような青い瞳、肩まで伸びた銀色の髪。
きめ細かい白い肌が、薄い布切れだけで遮断されているだけで露出度は高く、ミユウに魅了されていく。
だって、薄い布から繰り出される鎖骨や、太もも。すらっとした身体は胸こそ張っての途上という感じであるが、それがまたミユウの魅力を際立たせていて、なんというかなんというか……
「っん……ん」
「えっ……わっ!」
唇に柔らく暖かい、あの草原を思い出させる感覚が襲う。キスされていると思った瞬間に、後方に飛んだ俺に対して、ミユウは頬を少し赤らめて、照れたように笑った。
「えへへ、またしちゃった」
「あ、うん。あー、こほん」
周りの通行人の目が凄く痛い、そりゃこんなに人通りの多い場所でキスしている奴がいれば気になるよね。
「地上に出るためには、このダンジョンを攻略しないといけないの」
「ダンジョン?」
キスをしたことを気にせず、ミユウは話に戻りつつダンジョンに向かって左方向に歩き始めた。どこかに向かっているようで、小走りで追いつき横に並んで歩く。
すると、ミユウは俺に近づいてきて、時頼肩と肩が触れ合う。
「うん、地上に住む権利をはく奪された二種族は覚えている?」
「イネプトレスとビーアライアンスだったけ」
「後者の種族は魔王によって滅ぼされたの」
ミユウによればこうだ。
この地下空間は階層によって分けられていて全12。そのうち11階層を魔王の軍勢が占領している。
魔王軍は、デウス・エクス・マキナによって選定された種族ではなく、勢力分けするとしたら、完全な第三陣営らしい。何らかの目的をもってこの世界グレードスフィアに侵攻した。
もとイネプトレスの領土を含めた地下空間をダンジョン化させている。
そこで、冒険者や、正規軍が組織され、ダンジョン攻略を行い資源の調達や、逃げ遅れた国民の開放を目的にダンジョンに潜るという。
だから、地上に出たければ、まず魔王の盗伐が必須事項。
その後、地上にて領土獲得のための戦争が必要とのこと。
ミユウに付き添うといった手前、あれだけれどずいぶんと遠いな。俺たちの目標。
一個人が、国を変えなくてはいけない。それか、新しく国でも興すのか?
いずれにせよ大変気ままれない。けれど、何もない自分はもう嫌だ。やること、ミユウに約束したんだからやるしかない。
「ところで、キミ。名前は?」
そう聞かれるまで気が付かなかった。人には名前聞いておいて自分のことを名乗っていなかった。一つ咳払いをすると、ミユウが俺の正面に立って、その青い瞳を輝かして見つめてきた。
「俺は、成神ミズキ」
「ナルカミ、ミズキ?」
「あぁ、ミズキ」
*************
「ここは?」
しばらく歩くと、さっきまでいたダンジョン前とは雰囲気の違う、まるで別の空間にでもついたような場所に着いた。
もっと詳しく言えば、地下空間なのにもかかわらず木々が生い茂る場所。
「わたしの住んでいるところ」
控えめに言って家とは名ばかりで、大樹の幹の抉れているだけである。生活跡は少なく、火がたかれていたであろうところがあるくらいだ。
「ミユウ……キミは本当に何者なの?」
さっきまでの言動や行動。それに、人里離れた位置に住むミユウ。いくら捨て子なり、盗賊だとしても、この場所は些か理解しがたい辺境の地だ。
「ん~。えへへ、やっぱりバレちゃうか……」
手を後ろで組んで、伸びると無くなった俺の右腕に触れた。
「ん?何やってるんだよ」
「纏う光りに奇跡よ歌え 紡がん命に御手の果てより 恩寵よ来たれ」
ミユウから光が沸き起こる。
触れられている右肩には暖かな光が幾重にも覆いかぶさってくる。魔法を初めてみた。これが、この世の奇跡である魔法というものだろうか?
ありえない現象を起こして見せる魔法。俺の元居た世界では、世界の法則的に不可能とされ妄想じみた奇跡。
「光が、腕の形に変わってる……」
ミユウが俺に向かって手招きをしてきた。
顔を近寄せてやると、あの柔らかくて暖かい感触が唇を覆った。
「っん。はっう、ん」
「んっ!」
なさないとでもいうように後頭部を押さえつけられたキスは、先ほどのキスより少し長くて、心地よさが身体を火照らせた。
「ミユウ?」
ようやく唇が離れると、ミユウがその場に座り込んでしまう。急いで手を貸す。
「うん、ありがとうミズキ」
「あれ? 手繋いでる……」
無くなったはずの右腕が復活して、ミユウの手を取っている。
あのときから、もう気に無くなったのはなんでなのか、なんとなくわかった。利き腕を失っているのにもかかわらず、痛みどころか、感覚、認識が分からなかった。
「わたしは、わたしたちの家系は居ないはずの存在。神にのみ許された禁呪とも呼ばれる再生の魔法を使えるの」
「そんな、魔法の需要は計り知れないはずなのに、居ないはず?」
「うん。王家の魔法。この地下を照らしたり、傷を癒す王家の光魔法を上回るから、権威の失墜を招きかねない。この狭い空間で争わないために、王政はわたしたちを……」
本当に思う。これだから人権運動が起こる前の世界はと……
己の為に、権力に身を任せて平気でこういうことをする。権力者はいつだってそうだ。ファンタジー物語だけでない、どこの世界でも、歴史を見れば、こうやって気に食わない奴を迫害する。
「最低だ」
「わたしは」
「俺は約束する。ミユウがミユウでいられる。ミユウが青い空を見て好きなように暮らせるように俺がして見せる!」
「ミズキ?」
「ミユウの夢に付き添うんじゃなくて、ミユウに自由な世界を見せてやる。それが俺がこれからすることにする」
ミユウに瞳を合わせていった。初めて自分からするべきことを決めた。俺は変わるんだ。自分が特別になるためじゃない。特別にしてもらうためじゃなくて、ただ、ミユウに、この女の子に俺はそう生きて欲しいと思うから。