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「明日出発なんだろ?こんなところに居て大丈夫なのかよ」
「俺は直前であたふたするような誰かさんとは違うんだよ」
「……そうですか、それはすいませんね!」
ロニーは拗ねた声をだし、手に持った麦酒をグイッと流し込んだ。
「ピース!おまかせで、何か軽めのつまめる奴持ってきて!」
「あいよー!」
ウエイターのピースはロニーの適当な注文もお手の物だ、通い詰めた店ならではの対応であった。
「で、帰りはいつくらいになるんだ?」
「ここまで大規模な遠征は久しぶりだから、一カ月くらいの予定みたいだけど……まぁ天候やら何やらの絡みで変わるだろうけどさ」
今回の遠征にあまり乗り気ではないアンドレアが発した言葉の声のトーンはいつもより低い。
「途中、ポルトグレイロにもよるんだろ?楽しんで来いよ」
「あぁ、一泊な。でも楽しめるわけないだろ。どうせお前の事ばかり聞かれ、嫌になるのがオチさ」
「……わるい。でもあれだろ、妹に合うのも久しぶり、そういやあいつも……もう十五歳くらいか」
「あぁ(つーか実家に行っても会えないけどな……)」
懐かしい人の姿を思い浮かべるロニーは、あの頃は良かったと語りだし始めた。
「はいよー、おつまみお待ちっす!」
ガシャンと音が鳴るくらい乱雑に、持ってきた料理を適当に置く。
「ピース……」
もういいやとロニーも投げやりな反応、幸いなことに盛り付けは無事だ。
「明日出発っすねー、お土産期待してますよアンドレさん」
ではでは~と、軽口を叩きながら軽やかに次のテーブルを目指す(店内限定の)旅人は去った。
「旅行じゃねえぞ、ピース……」
呆れ顔のアンドレアであった。
「結局アレの出所はわかったのか?」
ロニーは、タナシーの一件で彼が持ち帰った魔道具の出自を聞く。
「いあや、まだだ。シャビエルに調べてもらってるから、わかったら何か言ってくるだろ」
「そうか、そういや七番隊だもんなアイツ……」
【一桁騎士団・ナンバーズ】の七番隊は主に研究を主としている部隊である。
「じゃ、それはシャビエル待ちか」
「そうだな」
二人は、先ほどピースが持ってきたつまみに手をつけ、麦酒で喉を潤し、何気ない会話を交わす。
ふとロニーは民衆の間で噂されていることを思い出した。
それは、今回の遠征に【一桁騎士団・ナンバーズ】が四番隊を除く全てが帯同する、その間の王都の守りは大丈夫なのかという疑問。
「そういや、王都の守りは大丈夫かっていう噂が出てんの知ってる?」
「あぁ」
「で、大丈夫なのかよ?」
「全然大丈夫だろ?四番隊を除いた全部隊の遠征って言っても、部隊全員とは言ってないんだぜ?」
「残るやつも居るの?」
「居るよ、そりゃ防衛のために何人かは部隊関係なく残るに決まってるだろ」
そりゃ当たり前か、と納得するロニー。
「まぁ、気を付けて行って来いよ」
明日の事もあり、夜深くまでとはいかないので、適当に良い時間で切り上げる二人であった。
今宵の代金はラスグライドからの見舞金的な奢りで済んだのであった。
   




