12 王宮にて②
四番隊が退出した後、女王であるジョルカ・パッロは【ドンッ】と大きな音をたて玉座に腰を下ろした。
「はぁー、これ毎回思うけど何の意味があるのよ。どうせ私が猫かぶっているなんて、みんな知ってるじゃない」
恨みがましい目で、ジョルカは隣のゲルトと呼ばれる男に話かける。
「はっはっはっ、まぁそう言いなさいな。形式も大事じゃて」
先ほどまでとは打って変わり、これぞ好々爺という雰囲気を放ち始めたゲルト。
その見た目に反して、彼は王国騎士団の騎士団長並びに一桁騎士団・壱番隊から玖番隊の【総隊長】である。つまり、女王やマラナカンの学院長と並びこの国の最重要人物の一人である。
女王へフランクに言い返し、逆向かいに立つジョゼと呼ばれる【一桁騎士団・参謀/総副隊長】男に同意を求めた。
「そうですな。規律のない軍隊程怖いものはありません。締めるところは締めて頂かなければ」
「……むー!」
ふたりの正論返しにジョルカは肩を落とし、不満のジェスチャーとして頬を膨らませた。
「さて、儂はここにおっても仕方なかろう――失礼させて貰うとするかの。ジョゼよ、陛下のお守りは任せたぞ」
「なっ!いつまでも子ども扱いしないでよね」
ゲルトは「はっはっはっ」と笑いながら「今のやり取りが陛下自身が望んだことじゃろ?」と先ほどのジョルカの態度を上手く言い訳にし部屋を後にする。
「んもー。なんなのよ!」
「歴戦の勇者を相手にするには、まだまだ陛下は未熟。彼からも色々と学んで貰わなければいけないですね」
ジョルカは大きな溜息をつくと、苦々しい表情でジョゼを睨む。
「これ以上(自分に対する帝王学)は増やさないでね」
「何のことですかな?」
ジョゼはわざとらしくジョルカが何を言っているか分からないとはぐらかす。
ジョルカは、今後自身に降りかかる災難(雑務)から逃れる事を諦めざる得ないと悟るのであった。
「これだから歴戦の猛者って人達は……」
そう呟いたジョルカの目の端には大量の書類が用意された執務事務室の中が見えた、仕方ないと諦め一枚づつ片付けていく心を整えた。
ジョゼを同伴し移動した執務事務室で、真剣な表情のジョルカの口が開く。
「ところで……ジョゼ。以前の約束は覚えていますよね?」
「なんの事でしょうか?」
あまりいい予感のしない台詞に訝し気な表情を浮べるジョゼ。
「ロニーの……いえ、ロニー・ポルトグレイロの件です。何回もはぐらかされて来ましたけど、今度という今度は答えてもらいます」
「はて、そんな約束しましたかな?」
【バンッ】と執務室の机を叩く音が響く。
「ふざけないで頂戴!今回、私が嫌々行く遠征と引き換えに【三年前のクオリティジャッジ】で何が起きたのか、教えてくれる約束だったじゃない!分かっていると思うけど、これに関して私は引くつもりはないわよ」
突如、ジョゼの纏う空気が変わる。それは、まるで殺気とも言えるほどの、殺伐とした威圧感がジョルカを襲う。
常人ならば、其れだけで気を失ってしまいかねない空間の中、ジョルカは瞬き一つせず、ジョゼを睨み続ける。
ほんの数十秒という長さではあったが、ジョルカにとっては数分、数十分の長さに感じた。
その空間は唐突に終わりを告げる。
ジョルカの意志を固いと感じ取ったジョゼが、仕方ないと肩を竦め渋々、口を開くのであった。
「……しょうがありませんねぇ。約束は守らねばですな、陛下の教育係としても――分かっているとは思いますが他言無用でお願いしますよ。現時点であの一件を知るものは、当時の一桁騎士団、壱から玖までの各隊長、副隊長のみですし。【それ】自体が禁句という事でもありますからな。先王、もとい、あなたの亡き父が苦渋の決断で下した箝口令ですからな。よいですかな?」
「……父が?箝口令っ……」
思いもよらないジョゼの発言は、ジョルカの喉を鳴らし、固めて動かなくするには十分だったようだ。
「ジョルカ様、そろそろよろしいですかな?」
【ハッ】と、ジョルカの止まっていた時間が動き出す。
ジョルカは、二度ほど両の手で頬を叩き、覚悟を決めた視線でジョゼに向き直る。
「ごめんなさい、もう大丈夫よ」
でもねぇ、とジョゼに先ほどの行為を問いただす。
「その前に、さっきの私に対する行為は、不敬罪と言えるんじゃないのかしら?」
「いいんですよ、女王陛下に対する教育の一環ですから」
「……便利ね、教育係って」
そしてジョゼは【三年前のクオリティジャッジ】で起こった出来事を一部始終余すことなくゆっくりと語り始めた。




