恋の変化
恋って一体なんなんだろう。
「とーちゃーく」
六花ちゃんとのデートの待ち合わせ。30分も早くついちゃった。
待ち合わせによく使う喫茶店。いつもなら中に入って待つけど今日は気が進まなかった。
店の前のガードレールに腰掛けて、ぼんやりとあたりを見る。
親子。友達。恋人。
街はいろんな組み合わせで溢れている。
でこぼこで、ちぐはぐで、またはしっくりときたり。
組み合わせって幅広い。これだけ人がいればパターンなんて無限にあるか。
「ねえねえ」
脇から声をかけられて、顔を向けると可愛らしい女の子二人組がいた。
「良かったら一緒に遊びません?」
すごい、ナンパだ。たまにあるけど、最近の女の子は積極的だなあ。
見た目的に多分、男と勘違いされてるけど。
「あはは、間に合ってまーす」
ごめんね、と手をひらひら揺らして断る。
それ以上話す気もないし視線を外すと、彼女たちもまた離れていった。
耳にイヤホンを突っ込んで、聞く気はないから適当な音楽を流す。
また人波に視線を走らせた。
『梓は俺のどこが好き?』
昔付き合ってた男は、大抵そういう質問をしてきた。
つまんないこと聞くなあ、としか思わなかった記憶がある。
好きだから付き合ってるのに、どこがなんて聞く必要あるだろうか。
テストの問題みたいに、明確な答えなんて必要だろうか。
好きだから好き、それでいいじゃん。
そう、思ってたのに。
今は、六花ちゃんがあずのどこが好きなのかすごく知りたくなってる。
どこか一部分でもいいから、六花ちゃんに好きって認められたい。
母さんに六花ちゃんと付き合ってるって告白したとき。
それはもう見るからに落胆された。
昔からあずを可愛い女の子として育てたかった母さんは、男の子っぽくなるのをあまり良しとしなかったし、まして同性と付き合うなんてもってのほかだったんだろう。
まあ予想内の反応だな、と思ってた。
「もー梓はいつもそうなんだから…母さんの気持ちは無視なのね」
ため息をついてそう言う。でも次の瞬間、
「まあ、しょうがないわね」
そう言って穏やかに笑ってくれた。
びっくりして思わず目を丸くする。そんなにすぐ受け入れてくれると思わなかった。
「え、いいの?許してくれるの?」
「だってあなた、いつも全然折れないじゃない。言っても無駄なのはわかってるわ」
それに、と母さんは続ける。
「最近の梓、昔よりすごく可愛くなったから許してあげる」
あずの頬を軽く抓みながら、可笑しそうに笑った。
恋ってなんだろう。
自覚はないのに、何かが確実に変わっていて。
考え方を変えたつもりも、可愛くなったつもりもないけれど。
自分で把握できないところが変わっているらしい。
未だによく、理解はできてない。
すぼん、とコードを引かれてイヤホンが抜ける。
びっくりして顔をむければ、六花ちゃんが呆れたようにこっちを見ていた。
「店入っててよかったのに、なにしてんの」
「えーと、走馬灯?」
「なによそれ」
吹き出すように笑ってイヤホンを返してくれながら、行くよ、と先を歩く六花ちゃん。
未だ、理解はできない。でも、別にいい。
六花ちゃんは恋人で、誰より近くにいる権利をあずは持ってる。
この権利を誰にも渡す気はないし、これからもずっとあずのもの。
私だけの、もの。
「ふふ、だーいすき」
「こら、外であんまりくっつかないの」
駆け寄って腕を絡ませれば、そう言いながらも笑ってくれる。
愛しいなあ、と心底思った。
梓視点。
付き合って馴染んでしばらくしての話。