撤退
「神の悪戯に翻弄される冒険者」という連載作品を始めました。よければこちらもよろしくお願いします。
「ブレット。死なないで。」
アリエットの声がする気がする。
意識が朦朧としている。俺は魔人に剣を突き刺して・・・、魔人に反撃されたはずだ。
「アリエット、体を揺らさないでください。まずは止血を行います。」
ルナールの声も聞こえる。
「いい。魔物をブレット君に近づけちゃだめよ。」
ペコラさんの声もする。
俺は意識が少しはっきりとしてくる。それと同時に腹部に熱いものを感じ出し、全身が酷く痛み出す。
「誰かポーションを持ってないですか。ブレット君がこのままでは死にます。」
ルナールの悲痛の叫びが聞こえる。えっ。俺が死ぬって。
俺は腕を動かし、腹部に手をやる。ぬるっとした生暖かいものが手に付く。この感触は血?
どうしたんが。・・・・・・そうか。魔人の反撃で腹部に傷を負ったんだ。ちょっとまずそうだな。
「ブレット、意識が戻ったの?」
アリエットが俺に問いかけてくる。どうやら俺が手を動かしたのに気がついたようだ。
「アリエット。魔人はどうなった。」
俺は一番気がかりだったことを聞く。
「大丈夫だよ。ちゃんと倒せたよ。」
アリエットの声はひどく暗かった。顔は泣き顔だ。魔人を倒したのになぜ?
・・・
・・・
そうか。俺が死にそうだからか。そんなに俺の傷は深いのか。
「もうちょっと頑張ってね。すぐに傷を治すから。」
アリエットは俺を励まそうと笑顔を作りながら言う。その作った笑顔が逆に状況の悪さを物語っている。
「ポーションはまだですか?」
ルナールの声がまた聞こえる。
ポーション・・・。何か忘れているような。
そうだ。俺は持っているはずだ。エリクサー級のポーションを。ムートンさんに2本貰い、1本をアリエットに使用した。もう1本はポケットの中のはずだ。
アリエットに知らせようと思うが、声が出ない。仕方ないので、腕を必死に動かし、ポケットを探ろうとする。腕が上手く動かない。その様子をアリエットが気づく。
「ブレット?どうしたの?ポケットに何かあるの。」
アリエットが俺のポケットを探し、黄金に輝くポーションを見つける。
「アリエット、そのポーションはエリクサー?すぐに飲ませて。」
ルナールの言葉にアリエットが頷き、ポーションを開けようとする。その瞬間、ポーションのビンが割れて、中身がこぼれ落ちる。先ほどの魔人の一撃でポーションのビンびヒビが入っていたようだ。
アリエットが崩れ落ち、俺の上で泣き始める。
「ごめん。ブレット。」
アリエットは泣き続けていた。俺はアリエットの頭をやさしくなでる。なんだか。痛みが引いてくる。体が暖かくなってきている。
「アリエット、何したの?」
ルナールが驚きの声を上げる。アリエットも顔を上げ俺を見て驚く。俺の体が輝いていた。
「なんで、ポーションを溢したのに・・・。」
アリエットは困惑していた。しかし、俺はムートンさんの言葉を思い出していた。
「傷にふりかけても効果があるよ。」
溢したポーションが傷にかかったようだ。
あとは周りの怪物を退けつつ、撤退するだけだ。残っている怪物はまだたくさんいる。
「みんな、あと少しよ。撤退するわよ。」
ペコラさんが声を上げる。しかし、その声は暗い。俺たちの疲労は大きい。特にペコラさんたちは初めから戦っているので疲労はピークだろう。俺たちはまだ戦えるが、かなわない怪物が何匹も残っている。
撤退戦は思った以上に大変だった。怪我人が多く、なかなか移動できないからだ。しかも、逃げきるには隣町まで行かないといけない。・・・無理じゃないか。
もうだめだ、と思った時、西の方に砂ぼこりが見えた。
あれは・・・騎馬団?100騎ほどの騎士だんだ。騎士団は瞬く間に怪物を倒していく。
一人の騎士が俺たちの方に使づいてきた。
「無事か。ルナール。」
「お父様。お早いお着きで」
「全速力で来たからな。おかげで100騎ほどしか付いて来れなかった。」
どうやら、ルナールの父親のようだ。ということは彼はルナルド・エルダー、現近衛騎士団団長だ。
「ところで、魔人はどうなった?」
「私達で倒したわ。」
「お前たちで」
そういうと俺たちを見渡す。
「ほう、若い英雄の誕生ということか。後は我々、近衛騎士団が処理しよう。」
彼はそういうと、怪物討伐に戻っていった。




