氷の中のアリエット
「まさかこんなガキが侵入・・・」
俺は瞬時に動いた。先手必勝だ。身体強化を使い、相手の顎を殴った。相手は油断していたため、一発でノックアウトできた。そういえば、ギルド長は確たる証拠、と言っていたな。盗み聞きだけではちょっと弱いか。俺は気絶した男の所持品を探る。こいつはバカだった。教団の紋章の入った指輪をはめていた。隠れ蓑でこの指輪を付けていたら駄目だろ。俺は指輪を抜き取ると握りしめる。問題はここからだ。
外に出て、ギルド長と連絡を取れればいいのだが、一階は警戒中だ。裏口から出てギルド長がいる正門までいけるだろうか。それなら表玄関から出て、無理やり正門まで走ったほうが確率は高くないか。見取り図を見て確信する。階段から表玄関、正門までの距離は短い。俺は意を決した。
正門では2頭の馬がいまだに暴れていた。それを抑えるために屋敷のゴロツキ2名と偶然通りかかった、という理由でギルド長が抑えようとしていた。さらに馬車の運転手とそれを拘束するように一人に冒険者がいた。もちろん、馬車の運転手は冒険者の変装だ。時間がなかったため、用意できた馬は思った以上に狂暴だった。やっとのことで2頭の馬を取り押さえたギルド長はブレットとメナートのことを心配していた。
「無事かな。彼ら。」
というのも、明らかに館内部があわただしくなっているからだ。おそらく侵入者がいる、とばれたのだろう。彼ら二人が見つからないことを祈っていると、表玄関がさらにあわただしくなった。男が吹っ飛ばされて出てきた。その後、一人の少年がこちらに向かって走ってきた。あれは、ブレット君。見つかったのか。彼は判断に迫られた。見捨てるべきか、庇うべきか。確たる証拠なしで自分たちは動くことはできない。
「これを。」
彼はそう言うと、何を自分に向かって投げてきた。受け取るとそれは指輪だった。教団の紋章入りの。これは教団員の証だ。
「全員、突撃。捕縛しろ。」
ギルド長が叫ぶと、馬車の運転手、その横にいた冒険者、さらには周りに潜んでいたもう二人の冒険者が屋敷に突入した。
俺は手傷を追っていたため、この場に残った。冒険者達はあっという間に屋敷を占領したようだ。ギルド長が俺の元にやってきた。
「ブレット君、傷は大丈夫かい。屋敷の占拠は終わったよ。」
「アリエットは見つかりましたか?」
「いや、まだ見つかっていない。この館の主人も見つかっていないんだ。おそらくどこかに隠し部屋があるみたいなんだ。今探しているところだ。」
アリエットは無事だろうか。攫われてかなりの時間が経っている。心配だ。・・・そういえば、メナートの姿が見えない。メナートはどうしたんだろうか。
「ブレット、無事かい?」
ちょうどメナートの事を考えていると、メナートが帰って来た。彼は無事だったようだ。
「ああ、なんとか。アリエットは道かったか?」
「いや、アリエットは見つからなかったよ。かわりに秘密の地下室の入り口は見つけたよ。ちょっと中が怪しいから、一緒に来てくれないかい。」
秘密の地下室。この館にそんなものがあったのか。
隠し扉は巧妙に隠されていた。普通の廊下の途中にあり、不自然さもほとんどない。開閉スイッチも二つに分かれ、それぞれが離れたところに設置されていた。
「良く見つけれたな。こんな隠し扉。」
「二回の主人の部屋にこの隠し扉が載った見取り図があったんだよ。」
俺とメナートと冒険者の一人が一緒に地下に降りていく。先ほどの地下と違って、降りていくにつれて寒くなっていく。この先に何があるのだろうか。先ほどの倍以上の深さまで降りてきた。ここなら少々のことが起こっても地上の人は気づかないだろう。
道が終わり鉄の扉が目の前に現れた。かなりの寒くなっている。目の前の鉄の扉は凍り付いている。部屋の中はかなり寒いのだろうか。冷気が漏れ出てきている。中に人の気配はないため、扉を開けようとしたが、凍り付いていて開かない。
「しかたない。炎の魔法で破壊しよう。」
一緒に来てくれた冒険者はそう言うと炎の魔法を唱える。炎が扉にぶつかるが、扉は壊れなかった。少し氷が溶けただけだった。冒険者はもう一度魔法を唱える。まだ溶けない。もう一度・・・・・・。
5度目の魔法でようやく凍り付いた扉は溶けて、開くようになった。「この氷、絶対変だ。」冒険者はぶつくさ言っていた。俺は慎重に扉を開けて中に入った。そこで俺が目にしたのは凄まじい冷気を放つ巨大な氷とその氷に閉じ込められているアリエットの姿だった。




