アリエット
あたりを見渡すと人影はまばらとなっていた。みんな学生寮に向かったのだろうか。カストールも入学手続きが終わったらしい。こちらに歩いてくる。
「ブレット、お前も寮に行くんだろ。一緒に行こうぜ。」
「ああ。行こうか。」
俺は短く答えると、地図を見て学生寮の位置を確認する。学園の南東に位置する。ここから1キロメートルほどだろうか。学生課を出て、最初の分かれ道を左に曲がり、道なりに進んで行けば着きそうだ。荷物を手に持つと俺たちは歩き出した。
(それにしても、この学校でかいな。)
地図を見た俺の感想であった。端から端まで10キロメートルはある。まちがいなく俺の育った村よりでかい。なにしろ敷地には川も流れていて、小さな山まである。洞窟らしき記号まであった。おそらくこれらの場所で実地訓練が行われるのだろう。
しばらく進むと分かれ道に差し掛かった。確かここを左に曲がればよかったはずだ。よく見ると立て看板があり、
←学生寮 校門→
と書いてある。
俺たちは学生寮に向かって歩き出そうとした時、後ろから声をかけられた。
「君たちも新入生だよね。学生寮に行くんでしょ。一緒に行こうよ。」
振り返ると身長は140ほどの小さな銀髪の少女が立っていた。
(かっ、かわいい)
ブレットは雷に打たれたような衝撃を受けた。まさに自分の好みにどストライクだった。村には同年代の女の子がいなかったため、女性に対してほとんど免疫がなかった。あっという間に緊張して固まってしまった。
「初めまして。ボクの名前はアルエット。よろしくね。」
「おう、よろしく。俺はカストールだ。」
俺は固まったままだった。カストールは俺を見て苦笑すると
「おい、なに緊張してるんだ。一目ぼれでもしたのか。・・・おい、ブレット大丈夫か。」
と余計なことをいってくれた。
「よ、よろしく。」
俺はそういうので精一杯だった。変な目で見られてないだろうか、と心配したが大丈夫そうだった。彼女は笑いながら俺たちと握手をした。俺の顔は真っ赤になっていた。それを見てカストールが笑い、アルエットも笑いながら言った。
「ボクが美少女だからって、そんなに緊張しないでよ。これから一緒に学ぶ仲間なんだし。」
「おいおい、自分で美少女っていうのか?」
「いいでしょ。それより、学生寮はこっちでいいのかな。道に迷って30分ぼど彷徨ってるんだ。」
と反対方向を指していた。
「逆だな。こっちだ。30分も迷うなんて相当方向音痴だな。」
「失礼だよ。カストール君。少し方向音痴なだけだよ。」
アルエットは頬を膨らませて反論していた。
二人のやり取りを見ていて、俺は少し緊張が解れてきた。
「アリエットさん。案内するよ」
俺が声を掛けると、アリエットは不満そうな表情になった。
「ボクのことはアリエットと呼んで。同級生だろ、ブレット。」
「わかったよ、アリエット。」
「うむ。よろしい。」
アリエットは満足そうに答えた。
俺たち3人はしゃべりながら学生寮に向かっていた。アリエットは王都の服屋の子供で、服を買いに来た魔術師に才能を見出されて冒険者になることをきめたそうだ。王都にも冒険者学校があったのだが、その魔術師にこちらの学校を勧められたため、フィリップス冒険者学校を受験したそうだ。
ちなみに、アリエットの成績は
受験番号 33 アリエット
剣術 23
魔術 90
筆記 65
総合 178
だそうだ。この3人の中では一番成績が良かった。
「すごいね。魔術で90点か。」
俺は素直に驚いた。
「攻撃魔法が使えると、これくらい誰でも取れるみたいだよ。」
と彼女は答えたが、その攻撃魔法を使えることがすごいのだ。
「ところでさ。ブレッド。合格掲示板に書いてあった、特別補講ありって何なの?」
アリエットも俺の成績を知っていた。どうやらかなり目立っていたようだ。
「実技試験の結果が悪かったんで、授業についていけるようにってことらしい。俺は攻撃魔法は使えないし、剣技もいまいちだしな。」
俺はばつが悪そうに答えた。
「でもさ。筆記試験の100点はすごいね。・・・まさかとは思うけど、カンニングはしてないよね。」
「して無いよ。」
どうして、みんなカンニングだと思うんだ?そんなに難しい試験だったか?俺は疑問に思った。
そうこうしているうちに、俺たちは学生寮に到着した。