フィリップス冒険者学校
今回、初投稿です。皆様よろしくお願いします。
初代フィリップス伯爵、パレッソ・フィリップスは偉大な冒険者だった。魔物に攫われた王族の姫スピカを助け出したパレッソは王都の東に位置する未開拓の地を切り開き、国王の許しを得てスピカ姫と結婚し、フィリップス伯爵となる。
彼は自身が冒険者であったことから、冒険者の保護・育成に尽力した。その一つがフィリップス冒険者学校である。 駆け出しの冒険者の死亡を少しでも減らすため、伯爵自らが新米冒険者を指導していたという。 王国最古の冒険者学校であり、最も多くの著名な冒険者を輩出した学校である。
近年では、現近衛騎士団団長ルナルド・エルダーも卒業生である。彼はエルダー男爵家の3男であった。家督を継げない彼は冒険者を志し、フィリップス冒険者学校に入学する。
卒業後、冒険者として活躍した彼は、当時の近衛騎士団団長の目に留まり、近衛騎士団に入団する。その卓越した剣技により騎士団でも活躍をし、昇進していく。 元々貴族であったことから、近衛騎士団団長の推薦により、彼の後を継いで騎士団団長となった。
他にも、龍殺しのトロー、疾風のリンチェ、伝説の格闘家ルーポなど名前を挙げたらきりがない。
フィリップス冒険者学校の入学試験は年に1度行われる。受験資格は12歳から15歳の間である。毎年、100名ほど入学するが、卒業時は2~30名ほどになっている。授業についていけず、やめていく者が多い。それだけ、冒険者になるのは過酷なことなのだ。
入学試験は実技と筆記試験からなる。実技試験は剣術と魔術があり、筆記試験では冒険や戦闘に必要な知識から一般常識まであらゆる分野が問われる。
最も、筆記試験を白紙で合格したものもいるらしく、一番問われるのはやはり実技である。ちなみに剣術・魔術・筆記試験、それぞれが100点満点である。
先日、入学試験が行われたのだが、試験官は困惑していた。今年は稀にみる不作の年であった。
通常、300点中150点以上が合格の目安となる。そして、剣術と魔術のどちらかが50以上あることが望ましい、という判断基準が存在した。
今年の受験者は308名であった。このなかで150点以上は50名しかいなかったのだ。
合格者判定会議で議題となったのが、合格者数を定員割れにするかどうかと、ある受験者の点数であった。
「今年の新入生は不作です。150点以上が50名しかいませんでした。例年通り100名合格にすると最低点の者は95点になります。」
「さすがに95点はまずいでしょう。授業についてこれませんよ。少なくとも120点はいるんじゃないですか。」
「150点以上と決められている以上、それを破るのはまずいでしょう。」
「だが、50名では収入の面で問題が・・・。」
なかなか結論が出なかったが、「学生の質を保つためには定員割れも仕方ない。」という校長の意見により合格者は過去最低の50名となった。
次の議題となったのが、受験番号103 ブレットの点数であった。
受験番号103 ブレット
剣技 40
魔術 13
筆記 100
総合 153
総合点数は153点と150点を越えているのだが、実技試験である剣術と魔術が50点に達していなかったのだ。魔術は13点と底辺である。
合格の目安となる「50点以上が望ましい」という文言は「なくても合格は可能」という意味なのだが、慣例として今まで合格したものはいなかった。
冒険者で必要なものは、結局は力である。力のない冒険者はすぐに命を落とす。そのため、「どうせ死ぬぐらいなら不合格にしよう」となっていたのだった。
「受験番号103 ブレットですが、総合点数160と合格ラインを越えています。実技はどちらとも50点に達していませんが、剣術は47点と近い数値はあります。彼の合否はどうしましょうか。」
試験官の問いかけに他の教員は困惑した。筆記試験が100点で実技が50点を超えない受験生など初めての経験である。
「150点以上が50名しかいない状況でこの点数の受験生を不合格にするのは無理かと。」
「しかし、冒険者になって苦労するのは彼ですよ。ここは心を鬼にして不合格にするのも有りかと。」
「まあ、この点数なら途中で退学の可能性も高いですし、心配しなくてもよいのでは。」
「そうですな。不合格にすると学費ももらえませんしね。」
「それでは、合格でよろしいですね。ただし、入学後に補講を受けさせましょう。」
反対意見も一部あったが、ブレットは合格となった。このような会議があったことは本人は知らない。
「・・・それにしても、魔術13点。どうやったら取れるんでしょうか。」
魔術担当の教官はぽつりと呟いて退出していく。