いのち短し恋せよ少女
ーー夢を見た。
世界が終わる夢、あるいは人が数え切れないほどたくさん死ぬ夢
そんな夢を見たときはいつも怖くなる。いつか死ぬという現実が
とてつもなく怖く、とてつもないほどに死に怯える
世界はいつまで続くのだろうか
百年後かもしれない、千年後かもしれない。あるいはもっと先ーー
いや、もしかしたら明日かもしれない。
だからこそあたしたちは今日を生き抜く。
明日死ぬのなら今日を精一杯生きる
ただでさえあたしたちはいつ死ぬかすら分からない白昼夢症候群なのだから
「早くこっちに来なよー“うさぎ”
そんな外ばっかり見ても面白くないでしょー?」
後ろから声が聞こえてきた
「うん!今行くー!」
そうしてあたしは足を引き返す
ーー箱庭のような施設の中へ、いつかこの戦争が終わることを期待しながら
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「そういや今日から新しい監督役が来るんだって!
どんな人かなー、格好いい人だったらいいなー!」
「若い男の人らしいわよ、蟻期さん。
さっき職員の方から盗み聞いてしまった限りの話ですけれど」
今あたしたちはお茶会をしている、まあるい机を囲むように
午後2時はお茶会を毎日決まってするのだ
私の正面には右側にショートの黒髪、黒目、服装は動きやすいようにTシャツと青い半ズボン
男勝りの性格の蟻期 李子ちゃん。もう少し女の子っぽくなって欲しいものだ
左側には大きなハットの帽子を被った銀髪に灰色の目、ゴスロリっぽい服を着た
クールな少女 キーウェル=アルマティアンさん。お願いだからその死んだ目であたしを見ないでほしい
「ねぇ、次の出動はいつなの?キーウェル」
「そうですわね、今の所は未だ決まっていませんわ。
ですがこの交戦状態からよると次の出動は三日後が妥当だと思われます」
「…ってことは最低三日は遊べるってことだよな!
お茶会終わったらトランプしようぜ!トランプ!」
キーウェルが上品にお茶を飲んでいるところを見ると
本当に蟻期ちゃんはガサツだなー。とそう感じてしまう。
私もキーウェルちゃんのような人になりたいとある意味憧れている
「ダメだよ蟻期ちゃん!司令役のキーウェルちゃんはともかく
あたしたち戦闘員は戦争でちゃんと戦えるように訓練しなくちゃいけないんだから!」
「……分かってるよ分かってる。冗談に決まってるだろうさぎ
あたし達、呪われた子供達は戦わなきゃ価値がない
この呪われた力はお国の為に使わなくちゃならねぇもんな…」
あたしたちはセカンド・ヒューマンと言われている
セカンド・ヒューマンとは白昼夢症候群を発症している子供達を指し
白昼夢のような儚く短い寿命を対価に白昼夢のような奇跡の魔法を扱うことができる。
女性ホルモンの中に発生するためその多くが女の子である。
そんなあたしたちはまさに中世の魔女狩りのごとく世間から排他された
この力は奇跡などではなく悪魔の力なのだとみんなが言った
それは親友や親戚、果ては両親すらも例外ではなかった。
そんなあたしたちの末路は決まっていた。つまるところ金で国に売られたのだ
大金をもらう代わりにあたしたちを差し上げる。
親からすれば忌み嫌っていた子供から解放され尚且つ大金が手に入る。と一石二鳥でしかなく
あたしたちには拒否権などなく流れるままに彼らにここまで連れてこられた
あたしたちは戦争を終わらせるための兵器、あるいは舞台装置として扱われ
敵と国が呼称した者たちと戦われさせられた。
幾人もの敵が死んだ。幾人もの味方が死んだ。
それでも戦争は終わらずもう記憶が薄れるほど前から戦争は続いている
あたしたちも早く戦争が終わればいいのにね、と思いながら敵を殺す。
いつからか誰かを殺すという事にさえ躊躇すらしなくなった
「……ってそんな辛気臭いこと考えるのやめよーよ!
今はお茶会を楽しむ!こんなんじゃ全然楽しくないよ!」
あたしこと“宇沙木うさぎ”はそんな辛気臭い雰囲気をなんとかしようと話を変える
「そうだな!今はお茶会を楽しむ時間だもんな!
ーーで、キーウェル。新しい監督役はいつくるんだ?」
「…そうねーーーーもう施設の前にいるわ」
「えぇ!?ほんと!じゃあ片付けなくちゃ!」
その刹那、扉がギー、ギー、と重い鉄のような音を上げながら開いていく
扉が完全に開くとそこには1m90cmはありそうなスーツにメガネをかけた巨大な男が立っていた
男は無表情なまま言葉を紡ぎ始めた
「俺は刻削帝だ。貴様ら魔女の監督役であり
貴様ら魔女をこの戦争で役立たせるため派遣された
ーーーなので弱者はいらん、せめて死ぬのなら国のために戦い国のために死ね」
まるで「俺は貴様らとは馴れ合う気はない」とでも言いたいのかと思うほどの言葉が待っていた
「またなんかめんどくさいのが来た…」
心の中で溜息をしたくなるあたしなのであった