008.ジャグリング
冒険者になるためには、武器が必要です。
いや、防具も必要なんですけど、防具は当たらなければ必要ないです。
武器も、魔法があれば必要ないんですけどね。
でも、魔法ばっかり使っていると身体が鈍っちゃいそうです。
もちろん、御鏡流や上杉流に無手の技もあります。
そもそも、御鏡家及びその分家の流派は活人系じゃないです。
一撃必殺で、かなり凶悪な技…………仙術もあるんですよ。
ただ、それを使うとほとんど魔法と変わらなくなっちゃうんです。
と言うことで、武器の手配です。
そう言いながらも、残念ながら、この世界にはボクが欲しい武器は売っていないんですよ。
西洋の中世に魔法文化を追加したようなこの世界…………忍者御用達の武器なんて置いてないんです。
碧ちゃん。
そう、御鏡家の19ある分家の1つである武器や消耗品の製作や補修を担当している真技家…………その、真技碧ちゃんの銘入りの武器が懐かしいです。
まぁ、無い物ねだりをしても仕方がないです。
無ければ作れば良いんですよ。
座学で刀とかの製法も教えられていますから、設備さえあればなんとかなるでしょう。
頑張りマスタングです。
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「嬢ちゃん、見てて面白いか?」
そう、聞いてきたのは、鍛造の剣を叩き上げている最中のヒゲもじゃの背の低い鍛冶師。
たぶん、ドワーフだろう。
いや、ドワーフ以外考えられない。
これで、エルフとか言ったら、世界観ぶち壊しだ。
転生受付カウンターのお姉さんに文句言ってやる。
声を掛けてきたドワーフの年齢は…………よく分かんないけど、10代から30代もしくは40代から50代かそれ以上だろう。
くっくっくっくっくっ、警察OB直伝のかなり広い視野のプロファイリングでの分析は一瞬にして年齢を絞り込むことができるほど『完』『璧』です。
ドワーフのほとんどがヒゲ面の人で、ヒゲのあるドワーフのお手伝いをしてるのがヒゲがないドワーフだ。
ヒゲが無くてもドワーフだと判断したのは体型です。
と言うか、この状況、ドワーフ以外ありえないっしょ。
そして、そのヒゲがないドワーフは、きっと女性だと思う。
動きに女性らしさ…………女性そのものだ。
骨格からして異なっているんだから、歩き方も当然違う。
ボクも『嬢ちゃん』って言われるような格好をしているときは、その歩き方に近付くようにしてますからね。
そう…………今いるのは、鍛冶屋さん。
『キンキンカンカン』と音がする方に、やって来たら、鍛冶屋が並ぶ一角があった。
その中で、一番上手いと思われる鍛冶師が、この話しかけて来たドワーフだ。
もちろん、ボクの独断と偏見と経験による判断ですよ。
「うん、面白いよ。この辺りの鍛冶屋で、おじちゃんの動きが一番洗練されていて、格好良いもん」
元いた世界とは違う作り方…………そう、魔法や魔道具があるから、見ていて本当に面白い。
ふいごも無いし、火炉に燃料が入っていないところを見ると、火炉はきっと魔道具なんだろう。
温度調節用のダイヤルっぽいのも付いていますしね。
「お世辞にしても、嬉しいこと言ってくれるね~。どうだ、嬢ちゃん、やってみたいかっ?」
ヒゲに手をやりながら、ちょっと意地悪そうな感じでニコニコとした表情でそう言ってきた。
「うん」
即答です。
そのためにお世辞を言ったんです。
いや、一番、腕が良いのは確かだと思います。
「でも残念~。悪いが、女子供には難しいんだよ。嬢ちゃん、その怪我した右手で、このハンマー持てるかい?」
ドンッって、持っていたハンマーを床に置いた。
意地悪でそう言っているわけではない。
『女子供には難しい』そう言うだけあって、かなり凶悪そうな重さのようだ。
感覚的にボクより重いんじゃないでしょうか?
ちなみに、右手は包帯っぽいのを巻いているので、怪我してると思われても仕方が無いです。
右手の黒炎竜の封印だから仕方ないんですよ。
厨二病による弊害です。
「大丈夫、持てるよ」
ボクより重そうなハンマーの柄の部分に手をやり、持ち上げようとする。
くっ、重い。
こんなこと、想定内です。
おっちゃんがニヤニヤする。
もう一度、ハンマーの柄を握り治して、右手に力を入れて持ち上…………がりません。
分かっています。
分かっていますとも…………プニプニした二の腕を守るために筋トレをしていないから、それほど力が入らないんです。
それは冗談ですが、身長が伸びやすいように、筋トレは程々にしているんですよ。
でも、筋肉が無くても、弓が引いて、矢を射ることが出来るんです。
力学です。
力が弱くても、最大限力が入るように身体を動かせば良いんですよ。
動作の最適化です。
そう、体幹強化魔法を使わなくても、力任せで無くても、工夫や努力さえすれば、出来ないことは無いんです。
足の位置、膝の角度、腰の向きや角度、視線、腕の角度など、ハンマーを持ち上げるために動作を最適化させます。
ハンマーの柄を握った右手に力を入れた。
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『片手槌装備スキル』を習得しました。
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スッと持ち上がる鍛冶師のハンマー。
感覚的には、普通の金槌くらいの適度な重さです。
ボクは、ニヤニヤしてたおっちゃんを見返すように、調子に乗って、大道芸人のように、鍛冶師のハンマーでジャグリングしました。
ジャグリングは、苦無で良くやっていたので結構上手いですよ。
駅前とかでやったら、チップを稼ぎまくれるくらいです。
だから、そのジャグリングを見せつけようとしただけなんです。
でも、そのジャグリングを見てか…………おっちゃんを始め鍛冶屋で働いているドワーフたちが信じられないモノを見たって表情のままフリーズしてた。




