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007.セリアの血

 ダンジョンの進化…………ダンジョンの防衛機能とも言われている。

 2年前、反則級の魔法使いである『フレイムマスター』がお姫様と公爵さまの娘をを助け、褒美を貰うために王都に戻ってきたときにもダンジョンの進化が起こった。

 強いモノが近くに来ると、ダンジョンが反応して、ダンジョンコアを守るために進化すると言う学説がある。

 その学説を唱える学者は。今回は、『フレイムマスター』の養子が学園に通うために、『フレイムマスター』が王都に戻ってきたのが原因だと言っている。

 前回と今回だけに絞ると、この学説もあながち間違いではないと思う。

 と言うか、学説が正しければ、『フレイムマスター』…………まじヤバくない?

 あ~いやいや、『フレイムマスター卿』でしたね。

 今まで、貴族さまであらせられる『フレイムマスター卿』に敬称を付けなかったこと、平に謝ります。


 実際、ダンジョンの進化は、初心者には悪いが、オレたち高ランクの冒険者にはありがたい。

 モンスターが強くなるから、素材の買い取り価格も上がる。

 まじで、『フレイムマスター卿』様々で、マジで頭が上がらない。

 貴族さまだけに………………なんちって。


 いかんいかん、余分なことを考えすぎた。

 この試験に集中しないといけない。



 そう、この試験を無事に終わらせて、子供のことから好きだったセリアと結婚するんだ。





     ゾクリ





 ボス級の強いモンスターと出会ったときのように、背筋に冷たいモノが走ったような感じがした。

 と言うか、ダンジョンに入って、数メートルだぞ、超高難易度の未踏破ダンジョンじゃあるまいし、ありえねぇ。

 このダンジョンの難易度は、初心者から中級者向けのモンスターしか出なかったんだぞ。

 いや、前回の進化で、モンスターが多少強くなっている。

 それでも、中級者向けの域を出なかったんだ。

 初心者から中級者向けのダンジョンが進化して、いきなり超高難易度のダンジョンになった?

 そんな話、聞いたこともねぇ。


 たぶん、空気が冷えているんだろう…………な。


 この考えは、今まで頼っていた直感を否定することになった。

 ただ、このことはすぐに後悔することになる。


「何か寒くないか?」


 思ったことを口にした。

 いや、そうあって欲しいことか?

 オレは、みんなに同意して欲しかったんだ。


「進化したてで、冒険者がひとりも入っていないからか?」

「そうか~、空き家に入るようなモノだもんね~」

「こんな体験初めてだから、そう言うモノかもな」


 みんなのセリフで、少し落ち着いた。


「入り口からの通路から変わっているな。なんで、こんなに広くなって、カーブしているんだ? 前方が分かりにくいな」


 シーフであるクラウンがトラップに注意しながら先頭を歩いている。


「これだけ広いと大きな馬車でも通れちゃうね」


 暢気なセリア…………まじ、オレの天使だ。


「はは、(ちげ)えねぇな」


 周囲を警戒しつつ、セリアのセリフに反応するセプター。


「おい、広間が見えたぞ」


 そう言う、クラウンのセリフに反応したオレは無警戒で広間に飛び込んだ。

 広間にはトラップはないし、目の前にはモンスターもいなかったからだ。


「クロービス!!」



     ドンッ



 セリアに、後ろから名前を叫ばれて、突き飛ばされた。

 突き飛ばされて2、3歩前に進んでから、何をするんだと思って、後ろを振り返ると………………セリアの血が顔にかかった。

 いや、全身にだ。


「あ、あ、ああ………………」


 なんだこれ?

 現実なのか?


 セリアの顔が苦痛で顔を歪ませているのに笑顔なんだよ。

 そして、スローモーションのように倒れていく。


 手を伸ばせ。

 セリアを抱き抱えるんだ。





 動けねぇ。

 なんで、動けねぇんだ?



 ああ、恐怖か…………恐怖だ。

 オレは、恐怖で動けねぇんだ。


「おい、クロービス。しっかりしろ。【ヘイトアップ】、こっちを向きな」


 タンクであるセプターがそう言い動き出した。


「傷は深そうだが、息はまだある。クロービス、どうするんだ?」


 クラウンが倒れる前にセリアを抱き抱えてそう言った。


 しっかりしろ。


 本当にセプターの言う通りだ。

 リーダーであるオレがいつまで恐怖に怯えていてはいけない。

 セプターやクラウンがオレをリーダーにしてくれたんだ。


 オレやセリアのために…………いや、セリアの幸せのために…………セプターとクラウンが小さい頃から好きだったセリアの幸せのために……。


 オレは動いた。

 動き出したんだ。

 いつものように、セプターの後ろに立って、敵を牽制しつつ、攻撃する。


「ここは、オレとセプターに任せろ。クラウン、王都から応援を呼ぶんだ。そして……セリアを頼む。王都で治療してもらってくれ」


 リーダーらしく、指示を出す。

 セプター、クラウン…………そして、セリア、3人がオレを引き立ててくれたから、リーダーでいれたんだ。


「おうよ」


 盾や剣で応戦しながら答えるセプター。


「分かった任せろ。応援を呼ぶのとセリアは任された」


 出口に向かって走り出すタイミングを見計らっているクラウン。


「【ヘイトアップ】、そっちには行かせねえぞ」


 セプターがそのタイミングを作る。

 打ち合わせも無しに、さすがだぜ。


「セプター、サンキュー」


 クラウンは、お礼を言って、セリアを抱き抱えたまま走り出した。


「ああ、セリアのこと頼むぞ」


 セプター、それは、オレのセリフだ。


「お前に言われなくても、バッチリ任せとけ。オレとお前の誓いのために……」


 クラウンはそのセリフを置いて、走り去った。


 マジで頼むぜ。


 と言うか、なんだよ、その誓いってヤツは?

 まぁ、後で聞き出してやる。


 こうやって、対峙して、冷静になってみれば、壁の影に隠れていた……いや、壁の向こう側にいたモンスターにオレは背を向ける形になったんだ。

 ダンジョンが進化して、壁の向こう側も広間になっていたんだ。

 初見殺しの凶悪な配置だ。


 そう、オレに向けた、その初見殺しのモンスターの攻撃の間にセリアが割り込んでくれたんだ。

 きっとセリアも怖かっただろう。

 オレでも、怖いと思うセリアの魔法が全く効かない最悪のモンスター。


 ああ、もう、一生セリアに頭が上がらない。

 いや、それでもいい。

 無事に治療されて、生き残ってくれ…………。


 オレたちも、生きて、その報告を聞けるように頑張るからな。


 本当に、頼むぞ、クラウン。


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