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018.居酒屋『妖精の家』へのダメ出し

『異世界転生 海の見える領地でやりたい放題(仮)』と同時更新



 末席とは言え、貴族であらせられるフレイムマスター卿。

 こんな小娘でも、失礼があってはいけないと、最敬礼を越えるお辞儀の角度である約75度上体を傾けて、深々と頭を下げる。

 長年、クリス家の執事や家令としてやっておったのだ。

 いつものことながら、ビシッと決まる。

 何代、貴族相手の礼儀を伝えてきたと思っておるのだ。


 仕事とはいえ、小娘相手に、ここまでやるのは訳がある。

 酒好きと名高いフレイムマスター卿のお墨付きを貰えれば、『妖精の家』の宣伝にもなる。

 クリス家の家令として長年勤めてきたこの手腕を振るうときが来たのだ。


「ようこそいらっしゃって下さいました。フレイムマスター卿」


 人の顔を見たら忘れない。

 家令として最低限必要な能力である。


 そして、よく通る声。

 代々伝わる発声法で、大きく、高く、明るくを心がけて話すことで、周囲にもよく聞こえる。

 ご先祖さまに、この発声法があったからこそ、クリス家に家令として招かれたのだ。


 スッと頭を上げると、一瞬ムッとしたような表情をしたフレイムマスター卿。

 何か失礼が?


「はいはい。来てあげたわよ~~ん」


 手を振りながらおちゃらけた態度で歩いてくるフレイムマスター卿。

 貴族階級は絶対だが、く、この小娘が……貴族とは思えない人をバカにしたような態度だ。

 いや、小娘とは限らない。

 ああ、そうだ。

 相手はエルダーエルフ。

 見た目と実際の年齢は異なって見える。

 それに、冒険者上がりの貴族で、5年も王都エリスから離れておったのだ。

 礼儀なんて、すっかり忘れておるのだろう。

 心を落ち着かせて、すぐ心に折り合いを付ける。

 もちろん、心に思ったことはおくびにも出さず、表情は崩さない。

 不躾なことを考えていても表情を崩さなければ伝わらないからな。


「どうぞ、こちら席へ、フレイムマスター卿。本日は何を召し上がれますか?」


 近くの居酒屋をベンチマーキングして、売れ筋をピックアップし、その中でも腐らせて破棄するモノが無く、ひとりでも店が回せるようにさらに厳選しメニューを決めた。

 お酒は、ワインやエール、僅かしか残っていないがザーン村のミードがある。

 つまみも定番の干し肉とピクルス。

 こだわった干し肉は、オーク、野ウサギ、イノシシ、鳩と取り揃えておる。

 ミノタウロスの干し肉は美味いが肉自体がそんなに出回っていないので、残念だが、取り扱えていない。


 経営を学んでおらん儂でも、こうやって運転資金の減少を最低限に抑え程度のことは出来るのだ。


「ミード、ザーン村のミードってある~? あるなら、水割りで、えっと、なければ、う~ん、ワインでいいか。それと、何かおすすめのおつまみをちょうだ~い」


 さっきから本当に人をバカにしたような態度だ。

 まるで、平民と変わらないではないか。


 だが、さすが酒好きと名高いフレイムマスター卿。

 今、王都で一番の人気のお酒であるザーン村のミードの水割りをご注文なされた。


 僅かながら残っていたミード。

 ちょうど1杯分はあったので、木製ジョッキにミードを入れ、水で薄める。


「フレイムマスター卿、どうぞ。ただ、申し訳ありません。これで在庫が切れまして、ザーン村のミードの水割り、これが最後の1杯となります。こちらのおつまみは、鳩の干し肉になります」


 残り少なかったが、ザーン村のミードがあって良かった。

 ザーン村のミードが売れると分かったから、部下を使って、ザーン村の居酒屋まで、買いに行かせているが、なかなか手に入らない。

 手に入ってもごく少量しか手に入ってこない。

 出回っている量が少ないのだ。


 だからこそ、このミードが定期的に手に入れられることが出来るように、部下には頑張って貰わないといけないのだ。

 在庫を切らさずに確実に提供出来るようになれば、それだけで、店の宣伝になる。


 おつまみは、鳩の干し肉をチョイス。

 鳩自体取れる量が少なく、また、捕った鳩からも少量の肉しか取れない。

 そして、干し肉にすることで、さらに料が目減りする。

 それだからこそ、希少価値の高く、良い値段もするのだ。


 フレイムマスター卿も、儂のチョイスに、驚いて目を丸くし、あっけにとられた表情をしておった。


「ありがと~。ナプディスさん。それと、後、フレイムマスター卿なんて、堅っ苦しい呼び方をしないでよ。シャディで良いわよ」


 やはり、冒険者上がり。

 貴族の礼儀を全く理解していない。


「いえ、フレイムマスター卿。いくら居酒屋とは言え、わたくしはクリス家の家令を任された家系ですので、貴族さまに無礼を働くわけにはいけません」


 こちらとしても、元家令としての教示もある。

 いくら態度の悪いフレイムマスター卿でも、軽々しく呼べるわけがない。



     バンッ



 フレイムマスター卿がカウンターを叩きながら、立ち上がり、儂を睨んできた。


「ほんっと、堅っ苦しいわね。だから、このお店はダメなのよ~。TPOって分かる? 時と場所、場合に応じて態度や服装とかを合わせないといけないの。私だって、国王さまと弟子…………今は私の子だけど、時や周囲の状況によって接する態度は変えるわよ。ここは平民街にある居酒屋。貴族街にある貴族向けの洒落た食堂じゃないのよ。そう言った扱いがして欲しかったら、普通の貴族は、こんなお店は使わずに、そう言うお店に行くわ。だから、貴族が来るとしたら、お忍びよ。お忍びで来てる貴族のことを、よく通った大声で、周りに貴族だってバラしてどうするのよ。ナプディスさん、今、貴方はクリス家の家令では無く、居酒屋のマスターなのよ。そこを理解しているの? 平民だって、居酒屋には気持ち良く呑みに来てるのよ。堅っ苦しい居酒屋で呑んで美味しいと思うわけ? それと、ナプディスさん、あなたの目、私のことどんな風に見えてるの? 『目は心の鏡』と言うのを知っている? あなたは、本当に心からお客をお店にお迎えする気持ちを持っているの? ここまで言われて、私の目を、目をそらさずに見ることが出来る?」


 まさかのダメ出しだ。


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