017.王子さまの溜息
『異世界転生 海の見える領地でやりたい放題(仮)』と同時更新
アレッタが口にすることによって、答えはすぐに分かることになったが、理解することが出来なかった。
「怪我をした仲間の治癒…………今日は回復魔法使いが不在なので無理だと返答しておきました。後はダンジョンにいる仲間を助けて欲しいと言ってきています」
は?
アレッタは何を言っているんだ?
冒険者の救援?
それもダンジョンにまで行ってだと?
怪我をした仲間の治癒もついては理解出来た。
いつもなら、ここに冒険者ギルドから派遣されている回復魔法使いはいる。
オレたち衛兵の訓練時に何かあったときのためにだ。
国お抱えの回復魔法使いがいればいいが、そこまで、数が多くない。
だから、どうしても、回復魔法使いの派遣については、冒険者ギルドに頼むことになり、冒険者ギルドの言いなりになってしまう。
今日も、王都エリス西門の方で行われている衛兵の大規模演習があると言う理由で、回復魔法使いは派遣されていない。
大規模演習と言うことで、普段よりいい金額が提示されたんだろう。
そんな状況だったので、ここでは安全のために訓練を行っていないんだ。
訓練をしていなければ、回復魔法使いは必要ないからな。
『怪我をした仲間の治癒』については、オレに確認せずに返答したアレッタの対応は問題ない。
いや、ノーとしか言えない状況なんだ。
回復魔法使いは冒険者を治療するために常駐しているのではなく、自分たちの訓練時の安全のために派遣して貰っているんだ。
と言うか、今日の回復魔法使いの不在は、冒険者ギルドの都合による不在なのだ。
だから、恨むなよ。
そもそも、普段ならダンジョンのところに怪我した冒険者のために復魔法使いがいるし、今、ダンジョンが進化中だと言うのが、運が悪かったとしか言いようがない。
そう、『怪我をした仲間の治癒』については、ちゃんと理解出来ているんだ。
理解出来ないのは、『仲間を助けて欲しい』って方だ。
「ダンジョンの仲間の救出? オレに確認するまでもなく、ダンジョンは冒険者ギルドの管轄なんだから、衛兵が出張る必要はないだろう」
セリフの通り、ダンジョンは冒険者ギルドの管轄だ。
国は国民を守る義務はあるが、責任はない。
自ら危険なダンジョンに入って、そのダンジョン内で襲われたからって、そんな国民まで守ると言う責任はないんだ。
その責任を持っているとしたら冒険者ギルドだ。
国と冒険者ギルド、冒険者と冒険者ギルドとは、そう言う契約になっているんだ。
「はい、普通なら、殿下にご確認するまでもなく、対応していたのですが、その冒険者は、ダンジョンに現れた『ファイヤードラゴン』に襲われたと言っているんです。冒険者の言ったことの真贋の判断しかねるので、殿下にご判断を仰ごうと思った次第です」
アレッタのセリフが頭に入ってこない。
いや、途中までは、入ってきたんだが、予想外の単語で思考が止まった。
「はぁ? 『ファイヤードラゴン』?」
いかん、予想外すぎて、素で聞き返してしまった。
なんで、こんなところで『ファイヤードラゴン』と言う単語がでてくるんだ?
聞き間違いなのか?
「はい、『ファイヤードラゴン』です」
聞き間違いではなかったようだ。
アレッタは、『ファイヤードラゴン』はいるかどうか不明と言っていたが、平民がオレに会ってまで伝えようとした情報だ。
ウソであるはずはない。
『ファイヤードラゴン』は絶対にいるだろう。
アレッタもそう判断しているはずだ。
そう、上級ダンジョンのボス級のモンスター『ファイヤードラゴン』。
確か、ダンジョンはつい最近まで進化中だったな。
初心者から中級者向けのダンジョンがいきなり上級ダンジョンになったとは聞いたことがないが、世界は広い…………あり得るのかも知れない。
「あ、ああ、ボスか。それこそ、自己責任であり、衛兵が出る必要がないだろう」
ああ、そうだ。
一点集中の戦力アップ。
ダンジョンコアを守るボスでなら可能性がある。
そうであって欲しい。
「いえ、ボスかどうかは分かりません。殿下。『ファイヤードラゴン』は、ダンジョンの入り口まで来ており、クラウンなるモノの仲間がダンジョンから出ないように頑張っているようですが、抜かれてしまうと『はぐれ』になり、ここも襲われる可能性も捨てきれないそうです」
必要な情報のピースが揃った。
最悪のケースだ。
いや、まだ、なんとかなる。
『はぐれ』にならない限りは…………。
空を飛べる『ファイヤードラゴン』…………ダンジョンの中から自由自在に動ける外に出られたらお終いだ。
行動制限があるダンジョン内にいる間に倒さないといけない。
戦略級の魔法使いのフレイムマスター卿に応援を出せないのが残念だが、幸運にも衛兵の中に火属性の『ファイヤードラゴン』の弱点属性である水属性の魔法使いがいる。
考えるまでもなく…………そんなことを考えている時間が勿体ない。
『ファイヤードラゴン』は倒さないといけないんだ。
「アレッタ。なに悠長なことを言っているんだ。仲間の救出はしてやるから、冒険者ギルドで怪我人を治療して貰え。だから、さっさと東門を通してやれ。それと、兵の準備を!!」
そうだ。
時間だ。
時間が勝負だ。
「そう仰られると思いまして、すでに殿下の名前で許可してあります。兵もすでに準備を始めております。殿下、事後報告になって申し訳ありません」
さすがアレッタ抜かりはない。
「謝る必要はない。アレッタ、よくやってくれた。それでいい。城と西門の規模演習と冒険者ギルドに…………」
遅れて到着したとしても、そう、回復魔法使いを手配して、生存確率を上げるんだ。
貴族であるオレはともかく、部下は死なせなくない。
「殿下、申し訳ありません。そちらも事後報告になりますが、すでに伝令を向かわせてあります」
先に動いてくれるのはありがたいが、オレ、必要ないんじゃないか?
はぁっと、少し溜息をついた。




