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013.居酒屋『妖精の家』

 儂は、ナプディス・パモール。

 2年前、シャルロットお嬢様がはぐれミノタウロスに襲われた事件の責任を取ってクリス家の家令の座と家督を息子に譲った。

 はぐれミノタウロスに襲われて、シャルロットお嬢様は服を少し破られた程度だったが、近くにフレイムマスター卿がいて、はぐれミノタウロスを倒してくれなかったら、服が破れただけでは済まずに、大惨事になっていたことには違いない。

 『たら』『れば』を言ってはキリが無いが、シャルロットお嬢様がお亡くなりになるという最悪の事態もあり得たのだ。



 だからこそ、ダレかが責任を取らねばならなかったのだ。



 エリザベッタお嬢様が嫁がれたマンゴーシュ公爵家。

 当時、儂の目を盗んで、シャルロットお嬢様が、そのマンゴーシュ公爵の娘であるエルダさまを連れて、先の戦争での英雄フレイムマスター卿に、英雄譚を聞くために会いに行ってしまわれた。



 そして、運悪く、はぐれミノタウロスに襲われた。



 『今回の件は全て私にあり、私が責任を取る』とエルダさまが必死な形相で仰られていた。

 儂も見ていたが、シャルロットお嬢様の服が破れた程度のことで、まるで致命傷を負ったかのように雰囲気だった。

 でも、事件の原因であるシャルロットお嬢様はもちろん、武芸に優れたエルダさまにも責任を取らせるわけにはいかなかった。

 王国民に人気のあるシャルロットお嬢様やエルダさまを処分したら、クリス家の立場が悪くなってしまう。

 シャルルさまには悪いですが、王族一武闘会で順位を落としているクリス家は、今までの威光が利かなくなってきている。

 これ以上、悪い評判が上がると、王位交代の声も上がってきそうだ。

 それだけは、回避しないといけないのだ。



 そのための準備がまだ出来ていない。



 様々なところから資金援助を受け、養子縁組や婚姻で力を付けてきているソードブレーカー家。

 一番のスポンサーが先の戦争の相手国であるリトルクラブ帝国に本拠地を置くシェームレス商会。

 それ故に、ソードブレーカー家には、きな臭い噂もある。

 一番きな臭いのは、3年連続で王位継承権第1位のスティーブン・ソードブレーカーの存在。

 クリス家の諜報機関『妖精の目』に確認させている最中で、まだ裏が取れていないので確かではないが、元々は敵国であるリトルクラブ帝国にいた戦災孤児だと言う。

 その戦災孤児をシェームレス商会が養子にし、さらに、ソードブレーカー家が養子縁組したと言われている。


 王位を取るために、手段を選ばないソードブレーカー家は、王族とは言え、すでに初代国王の血筋とはかけ離れてきている。

 そう…………ソードブレーカー家を使って、合法的にリトルクラブ帝国が侵略していると言う見方も出来てしまうんだ。



 だから、絶対にソードブレーカー家に国王の座を渡してはいけないのだ。



 それには、マンゴーシュ公爵家も手を貸してくれるだろう。

 2年前の件で、マンゴーシュ公爵家に貸しを作ることが出来た。

 貴族の貸し借りは、金塊より…………いや、場合によっては命より重いからな。


 エリザベッタお嬢様の嫁ぎ先であり、貸しを作ったマンゴーシュ公爵家の手助けが貰えると言うカードは、クリス家に万が一のことがあった場合に役に立ってくれるだろう。


 本当に、最後に良い奉公が出来た。

 そう思っていた。

 気がかりだったソードブレーカー家のことを息子に任せて、事件の責任を取ることを最後の奉公とし引退するつもりだったのだ。



 だが、クリス家が経営する小さな居酒屋を任された。



 もう少し、頑張って欲しいとのことだ。

 本当にありがたい。

 ソードブレーカー家のことも儂がケリを付けてやれるからな。



 建国時から、貴族年金と王族一武闘会の分配金でかなりの収入を得ていたクリス家は、他の王族の収入源を潰してはいけないと言う理由でサイドビジネスには手を出していなかった。

 クリス家、最後の希望であり、最後の砦である居酒屋『妖精の家』。

 現金収入と情報収集をするには最適のサイドビジネスだ。

 今回が初めてのサイドビジネスと言うことで、気合いだけは入っている。

 そう、気合いだけは入っているのだ。


 残念ながら、スポンサーをよしとしないクリス家の経済状況では小さな居酒屋くらいしか作れなかっただけだった。

 それに、真似が出来たのは建物だけで、運営の知識までは真似出来ていない。

 『妖精の家』も、ゼロから初めて、約2年、頑張っているが、なかなか、運営の知識の蓄積はまだ出来てないし、売り上げも乏しい。



 そんな中、今日は、シャルロットお嬢様の命の恩人であらせられるフレイムマスター卿がご来店いただいた。



 お城から連絡があったし、今日、王都エリスに戻られたフレイムマスター卿を接待しろと言うことだろう。

 貴族であらせられるが、冒険者上がりで、堅苦しいところを好まないフレイムマスター卿だからこそ、国王さまが、この居酒屋『妖精の家』を選んだのは、間違いではない。


 そのことを、長年、家令として礼儀作法を磨いて来て、約2年間試行錯誤してきた儂の接客をフレイムマスター卿に証明してやろう。





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