第三十八話:現実逃避は楽しい。
今日も今日とて心を無にしてクエスト中。帰れば勇者がしつこくリィン王国にくるように誘ってくる。正直かなり辛い。
従者のみんなもあきれているようだが、当の本人はお構いなしだ。
ユグルくんやアルニカちゃんも鬱憤を晴らすために蛮族をぼこぼこにしている。
たぶん、勇者は私がいることを報告して一緒に暮らしたいのだと思う。何せ一応一緒に異世界に来た仲だからなぁ。
昔の私なら喜んで応じただろうけど、今は違う。この異世界の事情を知ってしまった。人間が隠した魔族の秘密も、魔族が蓋をした人間の秘密も、全て。だから戻れないし帰るきもない。
そんなことを頭の中でもみくちゃにしながら、今日の討伐相手のハイオーガを打ち倒してギルドに戻った。
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「お疲れ様です。報酬でございます。」
そういって受付嬢が金貨50枚の袋を目の前に置いた。
「ありがとうございます。」
私は受け取ってマジックボックスに突っ込む。
「東雲さん!」
勇者が飛び付いてくる。
「あの」
「はい。」
「何回も言ってるけど」
「何でですか!」
このやり取りも何回目だろうか。
どれだけ言い訳したりしても全てはねのけられる。うーん、手強い。
「もう家に帰るから。」
「僕もついていっていいですか!」
「え」
ギュスくんやユーギア先生は人間が来てもいいように常に変化しているが、私達はギルドにいるために変化をしている。だから家は本来の姿に戻れる憩いの場なのだ。
あ、変化といっても骨格丸々変わるとかそんなんじゃなくて、せいぜい顔や髪の色を変えるもんだけ。それでも、この世界じゃ通用するんだから楽なもんだ。幹部のときはフードで隠してたから顔を見られている可能性はかなり低いけど、念には念を、ね。
「ダメですか......?」
「どうする?ジョエ、エリン」
「サプライズ訪問されるよりはましだから俺はいいぜ。」
「私もです。」
「ん。じゃあいいよ。」
「わぁい!ありがとうございます!」
どうしてこの勇者はこんなにテンションが高いのだろうか......?まあいいや。そんなこんなで私は勇者をつれて家に戻った。
「おかえり、シノノメ。それと、この人は......?」
「ただいま、ガルフ。この人は勇者のユウキ様だよ。」
「勇者......!」
ガルフ......ではなくギュスくんは一瞬警戒する。勇者はと言うと、警戒心なく接触している。
「こんにちはガルフくん!僕は勇者のユウキ!」
「......こ、こんにちは。」
ここで始末したい気分になるけど、がまんする。
だってそんなことしたら真っ先に私が怪しまれて牢に放り込まれたりする可能性大だからね。
「ほら、お菓子なら用意してるよ。」
「え!本当ですか!?」
勇者は目を輝かせてお菓子の単語に反応する。そこへ、ユーギア先生がひょっこりと出てきた。
「タンデスさんだよ。タンデスさん、こっちはユウキ。」
「ほう!これはこれは、勇者様ではないですか!いやぁ、粗末な我が家へようこそ。ごゆっくりしてください。」
ユーギア先生の対応には舌を巻く。なにせ、目の前でリーダーであるグラズさんを殺されているのに、その殺した本人に笑顔で握手をしているのだから。勇者のほうは誰一人と気づいてないようだ。
そして、お茶会を始めた。といっても、私がいなくなったあとのことをとことん聴かされただけだが。それでも、情勢がどうなっているかはほぼ把握したからよしとしますか......。
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翌日、勇者は明日帰ることを宣言した。盗賊もいなくなった今、これ以上の長居は無用と判断したからだろう。ふぅ、これで私たちも解放される......。
勇者が帰ったあとも私達はひたすら蛮族の討伐を続けた。現実逃避のためだけに。ひたすら。
最近魔族の奴隷を持つものが増えたという、勇者の報告を反芻しながら。




