第三十七話:一緒にいたくない。
「ねぇ、東雲さんでしょ!無視しないでくださいよ!」
勇者は子犬のように目を輝かせてこちらに迫る。私は顔をひきつらせて後ずさる。
当然、周りの人間たちはざわついていた。だって無名の冒険者が勇者にこんな風に迫られているのだから。
「ゆ、勇者様ちょっと落ち着いて......」
「落ち着いていられません!再会できたんですから!魔族領での戦闘中も行く先々であなたを探してたんです!」
「そ、そうですか......と、とりあえず個室に案内してもらいましょう?」
「そうですね!ゆっくり僕も話したいです!」
勇者はすぐさま宿屋に個室を用意するように指示した。宿屋も二つ返事で用意を始める。
勇者の従者たちも次々と再会を喜び挨拶をした。
ん、私勇者達の名前忘れてるな。まあいいか。
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個室では菓子や高いお茶なども用意されていて、しっかり長居できるようになっていた。まずい、早く出て行きたいのに。
「魔族領から逃げ出して、ここに来てたなんて......。」
「そうなの。奴隷にされてて辛くて混乱に乗じて逃げ出したんだ。」
「鑑定......はしません。だって見られるの気持ち悪いですしね。」
「ありがとう。私も奴隷落ちの部分を見られないからうれしいよ。」
鑑定を人にすると舐めまわされるように見られている気持ちの悪い感覚に襲われるのだ。お陰でばれずにすんだけど、早く切り上げて帰りたい。
「そういえば勇者様、どうしてここに?」
「勇者様何て言わないでよ、東雲さん。ちゃんとユウキって呼んでください!」
「う、うん。ユウキくんはどうしてここに?」
「それはですね、盗賊が出現したから倒して欲しいって依頼だったんです。でも一日休めってみんなに言われちゃって......そして向かおうとしたら東雲さんがいるじゃないですか!しかも盗賊を倒したって......」
あー、なるほどなぁ......見つかんなくてよかった。
「僕から感謝状で特別進級をさせてもらいますね!」
「特別進級?」
「はい。盗賊などを倒した人たちに与えられる、特別なポイントみたいなものです。村長や町長が送る感謝状よりも僕らの感謝状のほうがよっぽど価値があるので、おそらくBまで飛び級で上がれますよ!」
「へぇ、そうなんだ。ありがとう......。」
「そういえば、パーティーの方々の名前は?」
「ん、男のほうがジョエで女の子はエリン。同じく魔族領出身。」
「そうなんですかー。いいパーティーですね。」
「ありがとう。」
「ところで東雲さん、僕たちと一緒にリィン王国に戻って暮らしませんか?王さまも大目に見てくれますし。」
「いや、遠慮するよ......」
まだあそこには戻りたくないからね。それに、いつこの嘘がばれるかわかったもんじゃないし。
「ところで、今日は疲れたから帰っていいかな?」
「盗賊を退治して戻ってきた直後にこんなに付き合ってもらいましたし、もちろんです。どうぞスイートルームで休んでください。お金は出しますよ?」
「いや、家買ってあるから平気。」
「わかりました。また気が変わったら教えてくださいね!」
元気に見送る勇者の気配を感じつつ、私は家へと戻った。
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それからは毎日のようにつきまとわれ、リィン王国に来ないかとひたすらしつこく絡まれた。アルニカちゃんやユグルくんも絡まれてるらしく、最初は愛想よくしていたが最近はうんざりしてきたらしく、少しよそよそしくしたが、失敗しているようだ。
だが、無事に感謝状はギルドに届けられ私達は晴れて飛び級でBランクまで上がることができた。
依頼も歯応えのあるものが増え一応やる気だけは保つことが出来るのだが、帰る度に勇者がすっ飛んでくるのはとても疲れるし、他の人たちにじろじろ見られるのもかなり辛かった。
早く帰ってほしい......。




