第二十八話:劣勢と重役
強くなれたのは嬉しかったけど、戦況は最悪。本来の魔族領まで押し返されてしまった。幹部が三人もやられりゃ崩されるか......。魔族のみんなもどうするか必死に会議してるけど、三人に比べたら、焼け石に水だ。私だって、普通の高校生だったわけけだから、優秀な指揮官にはなれない。だから、どんどん追い込まれていく。ぐぬぬ、私が優秀な将軍とかだったらいいんだけど、こればっかりはどうしようもない。
でも、悪いことばかりじゃない。魔王様は生まれたのだから守りに徹すればいずれは元通りになるはずなのだから。
そんな矢先、魔王様による緊急会議の通達が来た。珍しいと思いつつ私は魔王様のもとへと向かった。
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「あ、シキミちゃん......」
「リリムさん......」
魔王城に着くと、元気をなくしたリリムさんと出会った。
「大丈夫ですか?」
「うん、ありがとうシキミちゃん......」
「果実水を持ってこさせるね。」
私は、メイドに頼んで果実水を二つ用意してもらい、リリムさんに渡した。私もほんのりとレモンの香りがするそれを口に含む。ふわっとしたレモンの匂いと味が、少しだけ気分をスッキリさせてくれる。
「心配させてごめんなさい」
「いえ、リリムさんは今とっても辛いよね。ずっと一緒にいた三人がいなくなったもんね......」
私は会って数年の仲だけど、リリムさんは何千年と一緒にいてたのが、この数年でみんな殺されてしまったのだから私の辛いとは天と地の差だ。
「自殺はしないでくださいよ?」
「そんなことしたら生まれ変われないし化け物になっちゃうわ。」
この世界では自殺を行うと蛮族からも蔑まれる怪物へと変貌してしまうらしく、それは魔物も人間も蛮族もかわらないそうだ。うーん、病んでる人には厳しい世界だ!
「ふぅ、落ち着いたわ......ありがとう、シキミちゃん」
「なにもしてないですよ。」
「いいえ、そんなことないわよ。」
リリムさんはふわふわした笑顔で私の頭を撫でてくれた。母性を感じる......。
すこしにやけた顔をしていると、メイドに案内する準備ができたと伝えられるので、顔を引き締めて魔王様の謁見室へと向かった。
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「二人とも、来てくれて感謝する。」
「いいえ、魔王様がお呼びとあれば」
「我々は何時如何なる時でもお応えしましょう。」
リリムさんと声が揃う。
「うむ。では早速本題に入る」
「かしこまりました。」
「知っての通り我々は劣勢である。そこで、次期魔王を人間の国で隠し育て、魔族を立て直すことにする。」
ま、魔王様を人間の国で......かなりハイリスクなことをするんだな......。
「リスクがあるのはわかっている。だが、この城を落としたとき、次期魔王を隠してもしらみつぶしに探され見つけられてしまう。だから変化をおこない人に変化して紛れ込むのだ。もう一人には時間稼ぎとしてこのあと即戦場へと出てもらう。」
なるほど、その間に教養や戦闘技術をつけて......。となると、適任はリリムさんだな。時間稼ぎくらいなら私だってできるしね。
「魔王様、時間稼ぎをどうか私にやらせてください。」
「......え?」
手をあげようとした瞬間、リリムさんが自ら申し出た。
「ちょ、ちょっと、リリムさん......?」
「......ごめんね、シキミちゃん」
「リリムか。よい。行け」
「はっ。この【堕落の指先】リリムがご子息様が逃げおおせる時間を大いに稼ぐことを約束いたします。」
「リリムさんどうして......!!」
リリムさんは答えるかわりに私の唇にキスをした。柔らかい感触とともに、魔力が......【恩恵】が流れ込んでくるのがわかる。私は、あぁ、彼女は死んでしまうんだと確信してしまった。
離された時、私は涙を流していた。止まらなかった。リリムさんの姿が見えなくなるまで、私は泣き続けた。
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「魔王様、お見苦しいところをお見せしました。」
「いや、友や仲間との別れが辛いのは我も知っている。さて、お前の配下の人間と、グラズの配下で魔族の教育者であるユーギアを連れて逃げてもらう。」
「かしこまりました。【死者に苦悶を与える者】シキミはご期待に応えてみせましょう。」
私は私でがんばらねば。へまをしたら全部水の泡だ。魔王城を後にして私は自分の城に戻り、すぐにアルニカちゃんとユグルくんに伝え、ユーギア先生を迎えに行った。
ユーギア先生は驚いていたけど、すぐにうなずいてついてきてくれた。
私は魔王城へ戻り、全員を次期魔王様と顔合わせをした。次期魔王様こと、オーギュスト様......本人はギュスでいいと言うからギュスさ......ギュスくんはすぐに受け入れ、即座にかわいらしい人間の男の子へと変化した。
かわいい。すごく好み......。
っと、ニヤニヤ顔を引き締め直してギュスくんの手を握る。この幼い魔族にすべての魔族の命運があると思うとその手すら重たく感じる。
私はギュスくんの手を引き、人間の街へ向かう準備を始めた。




