野良ゴーレムとドレインと。
――ってなわけで、今魔物とやらに襲われてるわけだが。
「てなわけでもクソもあるかーっ!」
一番近場にある人間の街に出向こうということで歩く道すがら、デカい岩の魔物に出会った。
ヤコいわく、空気中の微量な魔力を吸って生きる雑魚、らしいのだが……。
「うおぉーっ! なんだコイツっ! バケモノ!」
慣れない身体の拙い操作で必死に走り回る俺を、ヤコは大あくびしながら眠気眼で鑑賞している。
「おのこみたいに喚くないぞぬしさま、みっともない。それはバケモノではなくただの石ころ(2m)に手と足と目と耳と口と内臓と自我がついただけの魔物じゃろうが」
「それをバケモノと言わずしてなんというんだよ!!」
「バケモノとはわしのような力のある魔族を指すんじゃ。そんな人間でも寄って集れば殺せるような雑魚、バケモノではないわ」
「いーやバケモノだ! これに比べたらお前の方が億万倍可愛いね!」
「なっ、何を抜かすかっ……! わ、わしが可愛いなどと世迷言を……」
「………………ちょっとだけ、喜んでしまったではないか……」
「長え!! 溜めが! 異様に! つーか岩と比べられて照れんな!」
「ふ、ふんっ。仕方ないの! わしが直々に相手してやるわ! いいか、別にぬしさまのためじゃないんじゃからな!」
「テンプレが古い! ……が助かる! 早くしてくれ!」
「まあ任せておけ。こんな石っころが意思を……石っころが意思っころを持った程度、軽く捻ってくれる!」
「途中で思いついて言い換えんなババァ!」
「なっ……! 誰がッ……」
瞬間、岩の上であぐらをかいていたヤコの姿が消える。
直後にピシッと音がして、岩が砕けた。
「えっ!? なに!?」
そちらに気を取られていると、石のバケモノの方から甲高い音が鳴り響いた。
慌てて振り返れば、ヤコが魔物に人差し指を立てている。
「いいか、わしは長いこと生きて来たからの、ぬしさまより何倍も年を取っておるかもしれん」
「お、おいそいつは……」
「じゃがっ! 我が一族の中ではダントツに若いのじゃ! 花も恥じらう乙女なのじゃ! だから、2度とババァと呼ぶなぬしさま! さすがのわしも傷つくぞ!」
ヤコがグッと力を入れると、石のバケモノは元からただの石ころだったように砕け散った。
「す、すげえ……」
「腰を抜かしとる場合か、早く魔力を吸え」
「え? 魔力?」
「魔物は魔力の塊じゃからな、魔女なら吸っといて損はないぞ」
「どうやんのかも分かんねえし……そもそも魔法なんて俺一つも使えないじゃんか」
「魔術に頼らずとも、魔力の塊を放つことくらいはできるわ」
「マジか!?」
ちょっとやってみたい……。
「まあ高位の魔物や、人間どもにはろくに効かんがな」
「え? なんで?」
「魔術とは、複雑で難解な形式を通して使われるものなのじゃ。その術式に対する解術式を知っとらんと抵抗ができん。数学における数式みたいなものじゃな。じゃが魔力を飛ばすだけのそれは、数式ですらないただの数じゃ。6の魔力を飛ばされても10の受け皿を持つ魔物には効かんし、人間どもは魔力に抵抗する技術を持っておる」
「へー。で、吸収ってどうやんだ?」
「本当に分かっておるのかぬしさまは……まぁよい。ほれ、肩の紋章をなぞれ」
「こ、こうか?」
指でなぞると、紋章は淡い緑色に輝き始めた。
そしてその光がなぞった指先にも宿る。
「それを吸いたい相手にくっつけたらあら不思議、簡単に吸い出せるぞ」
「え?それだけでいいの?」
「障壁を張ってるやつなら別じゃがな。死人に障壁なしゆえ、石っころからは簡単に取れるぞ」
「なんか追い剥ぎみたいだな……」
死人から髪の毛を抜くオババ様を思い浮かべながら、俺は身震いした。
とりあえず言われた通りに指先をヤコがついた石に触れさせる。
すると皮膚の内側がゾワッと震え、何か液体じみた感覚が流れ込んで来るのを感じた。
「うう……これキツいな、腹の辺りがグツグツする……」
「なんじゃぬしさま、本気でおなごじゃなかったのか」
「は? え、なんで今更納得してんの?」
「魔女にとってドレインはオーガズムを得る行為でもあるからな。普通は恍惚とした表情をするんじゃが……というかわしもその表情が見たかったんじゃが。ぬしさまは全然平気な顔しとるからな」
「え? 気持ちいい? これが? っていうかお前サラッと問題発言したな」
「何を言うか。自他共に一切の害を為さずドレインできるのは魔女だけなんじゃ。そんな高尚な行為をわしは"従者"として見たいだけじゃ」
「恍惚とした表情が見たいって言ってただろ」
「あ」
「あ、じゃねえ。だいたいお前の場合従者っていう自覚が――ッ!?」
「おや? 来たみたいじゃな……」
「な、なんだこれッ!?」
下腹部の辺りがジンジンと痺れるようになり、全身の感覚が張り詰める。
布が擦れるのでさえ、ヤコの声でさえ、快感へと置換されてしまった。
「ふふ。いいのー、ぬしさま。初モノのドレインは足腰が立たんくらいに気持ち良くなるらしいからな。普通は幼少期に1人でドレインを経験してしまうゆえ、わしも初めて見るわ」
「んぁっ……こ、これッ……手が離れないッ……!」
「吸い切るまで延々と続くぞ。慣れれば無防備な相手からサラッとドレるんじゃがな、最初はまぁ、無理じゃろなー」
「ドレるってなんだ! 楽しそうにすんなよッ……! 呪うぞ……」
「ほほう? 何の魔術も持たぬペタヌシさまが、一体どうやってわしを呪うのか見ものじゃな?」
「んんっ……はぁっ……!」
「む、何じゃもう限界か?石ころの魔力なんかたかが知れとるだろうに、堪え性のないおなごじゃの」
「――〜〜ッ!!」
「おお、これはすごい。絶景じゃなー」
「お前っ……流石に股の間に入るのはやめろっ……!」
腰が浮いて女の子としてはキツい格好になりながら、手だけでヤコを追い払う。
しかしヤコは力の入らない拳など簡単に避けて布切れの中に潜り込んできた。
「このっ……バカエロリババア――ッ!」
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