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悪い魔女子の異世界征服計画  作者: ぷぷ。
第一章 魔女の死んだ世界
2/5

公務員女神とチェリーブロッサム

 少し、どうでもいい話をしよう。


 鶏と卵の話を知っているだろうか。

 鶏と卵どちらが先にできたのかという、因果性のジレンマを孕んだ哲学的議題。


 まあこの場合、そんな結論のない話自体に興味はなくて、流れだけ把握してもらえればいい。


 つまり、俺の人生にジレンマが発生したわけだ。


「あなたの寿命はここまでです」


「はぁ?」


 早朝で車通りの少ない交差点を渡っているときに、そんな声をかけられた。

 思わず振り返ってみるが、何もいない。


 そりゃそうだ。


 前も後ろも、人の気配なんて少しも感じなかった。


 そんなことに気を取られていたら、スピードを出した軽自動車に轢かれた。




「――んで、気がついてみれば真っ暗なわけだが?」


「はい、あなたは死にましたからね」


「寿命が尽きたと」


「はい」


「そう伝えたのは誰だ?」


「私です」


「お前は誰ですか」


「女神……みたいな? えへっ」


「アァッ!?」


 何照れ臭そうに役職名乗ってんだこのクソ女神。


「まあ百歩譲って、お前が女神なのは疑わねえ。だが――」


「疑わないんですか!? 女神を!? このご時世に!? ……ちょっと頭大丈夫ですか?」


「心配すんな! 頭おかしくなったとすればお前のせいだよ!」


 そう。俺はこの、目の前でふわふわと浮き沈みを繰り返す、いかにもといった格好のふざけた女神に殺されたんだ。


「殺された、だなんて失礼な。私はただ寿命を教えただけです」


「それが原因で轢かれてんだろうがこっちは。めちゃくちゃ痛いんだぞ車で轢かれんの」


 そう、めちゃくちゃ痛かった。振り返った状態に横当たりされたわけだから変な具合に骨が折れ、血管や内臓を派手に傷つけた。

 車はスピードを出しすぎてあの道を100km近くで走ってたわけで、その衝撃たるや悲惨なものだ。

 だから撥ねられたときに感じた痛みなんて一瞬で、頭から地面にぶつかって即死だった……。


「ううっ、思い出しただけで寒気が走る。一瞬でも案外痛みは覚えてるもんなんだな」


「自分でそこまで説明できるなんて、それはそれで気持ち悪いですね」


「うっさいわ、お前が死因の説明したからだろうが」


 この真っ暗の中で目覚めてすぐ、俺はこいつに意味不明の説明をされた。

 聞き返すたびに具体性をます死因の説明に、俺の鳥肌はそのまま羽毛が生えそうなほどに乱立した。


「大体よ、俺の寿命が来る原因がお前じゃ、それは寿命が来たんじゃなくてお前による確信的殺害だろうが」


「そういうわけじゃないですよ。私はただ、ろくな人生を送れてない人に寿命を告げるのと死者の世話が仕事なだけですから」


「それは俺の人生がろくでもなかったっていう神の証明か?」


 笑顔で頷くな公務員女神が。


「寿命を告げるお前が原因で寿命が尽きるパラドックスが起きてるんだよこちとら」


「パラドックス、ってわけじゃないですけどね。人間界的に言えば存在証明不可の神に殺されてる時点で矛盾なんでしょうけど、別に寿命を告げる神が寿命を尽きさせちゃダメな法則はないですから。この場合はジレンマが近いですね。『死んだのは寿命が尽きたからなのか、寿命を告げられたからなのか』っていう」


 ……とまあよくわからない話をされて、冒頭の鶏と卵を思い出したわけだ。


「結局、お前が原因で死んでんだから変わんねーよ公務員女神」


「その呼び方、微妙に腹立ちますね……ご立腹ですね、私」


 腰元まで闇に沈んだ女神が頬を膨らませて抗議してくるが、そんなもんに応じる俺ではない。


「いいですか、こう考えてください。神に殺されたのではなく神に召されたのだと。珍しいですよ、科学が発達したこの時代、しかも多宗教で無宗教の日本人が神に選ばれるなんて」


「うるせえ、お前の言葉は面接テクニックかこの野郎」


「野郎じゃありません、女神です。それにしても口が悪いですね。『清水(キヨミズ)(サクラ)』なんて可愛らしい名前してるのに、似合ってないですよ」


「似合わねえようにしてんだよ、わざと」


 清水桜なんて大層な名前と生まれ持った女性的な容姿のせいで、俺の人生は散々だった。

 男友達からはだいたいよくない感情を持たれるし、女からは男として見てもらえない。


「それでそんな荒っぽい話し方に……大変だったんですね。それで死んでしまうなんて……」


「そう、大変だったんだ。いっそ女に生まれたかった……って、殺したのはてめえだろうが!」


「あ、バレました?」


 しみじみと語る女神に一瞬乗せられかけたが、よくよく考えたらこの女神がやったのだ。


「まあまあそんな怖い顔なさらずに。そんなあなたに二つプレゼントがあります」


 プレゼントだ?


「死んだ人間にプレゼントって、それお供え物って言うんだぞ人間界では」


「そんな俗物的なものではありません。私のプレゼントはあなたも望むとーってもいいものですよ」


 俗物思想に染まりきった女神の言葉なんかひとかけらも信用しちゃいないが、こう摩訶不思議な空間やら浮遊やら見せられたんではいよいよ何を渡されるか分からなかった。。


「覚悟は決まりましたか?」


「一ついいか? 断ったらどうなる?」


「死にます。消滅です」


「よし、受けよう」


 どうせ失った命だ。断る理由もない。

 どんなプレゼントだろうが、甘んじて受け入れるつもりだった。


「それじゃ、はい」


 実に緩慢な動きで、女神が手を振るった。

 次の瞬間に、俺の足元から光が広がっていく。


「向こうには案内人がいますから、よろしくお願いしますね」


「は? なんのこ――」


 俺は、広がった光の中に落ちていった。



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