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悪い魔女子の異世界征服計画  作者: ぷぷ。
プロローグ
1/5

魔女の存在理由

「ぬしさま、準備はいいか」


 俺の右肩に左手を添えたヤコが、耳元で囁く。それに対しそっと頷いて、前方を睨みつけた。

 目の前で、血が舞っている。赤い花びらのように点々と周囲の木々に跡を残していた。


 ついさっきまで一緒に戦っていた、町の戦士の血。


 戦士を殺した化け物は、存在意義として化け物でしかなく、俺の華奢な身体は恐怖に震えた。


 どうしようもなく怖い。


 これが……本物の魔物。


「た、頼む! 助けてくれ!」


 へたり込んだ戦士の一人は相手が人型だからと懇願するものの、言語が通じるわけはない。

 魔物は支離滅裂に叫ぶ男を敵だと認識して、唸り声を上げた。


 また、殺す気なんだ。


「や、やめてくれ、やめて……」


 ついに言葉を発することもできないほどの恐怖に駆られた男は、足だけをしきりに動かして少しずつ後ろに下がって行く。

 思わず助けようと動きかけるが、ヤコがそれを制した。


「ぬしさまは詠唱に集中せんか。でなければやれんぞ」


「ッ……」


 ヤコの長い爪が肩に食い込んでいる。深く食い込むほどに、右肩に刻まれた紋章が疼いた。

 もう少し、あと少しで呪文の詠唱が終わる。非力な俺にできる、唯一のことがこれだった。


「そうじゃ、いいぞぬしさま。魔力の流れが安定してる」


 ヤコは楽しそうに笑った。口元を歪めて、わが子を褒め称えるような優しさで。


「やはりぬしさまには才能があるな」


 詠唱が終わる。自分でも慣れない声高の透き通った音色で、呪文名を読み上げる。

 瞬時に脳内に流れ込んできた情報で、魔物の全てを理解した。


『終わりにしよう、インリヒ』


 魔物の持つ真名を口にすることで、魔物は動きを止めた。


 こちらをまじまじと見るインリヒに、俺は笑いかけた。


『みんな殺して』


 魔物の言語で語られる、残酷な一言。


 インリヒは頷いて、その場にいた戦士たちをあっさりと皆殺しにした。


「フフッ、さすがじゃぬしさま。それでこそ――古の魔女」


 あぁ……なんて嬉しそうな顔をしてるんだ、ヤコのやつ。


 ヤコはまた笑う。本当に、本当に楽しそうに。


 俺はどこまでも憂鬱な気分で、ヤコに疲れた笑みを返した。

 

 改めて実感する。


 俺は世界を滅ぼす、悪い魔女なのだと。

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