温泉ですか
「姉さん、気を付けて」
「あなたも危なくなったらすぐに逃げなさい」
残りのカレーパンを弟に渡す。賞味期限も念押しする。
「さて、どこに行く?」とクリス
「隣国の反対、南の海を目指しましょう」
「港町マルセオまで早馬で3日、馬車で6日か」
南に行く駅馬車を探して乗り込む。
この世界にはバスや電車等の便利なものは無い。移動手段は馬。
他の乗客は里帰りする騎士、地方に帰る商人、王都に遊びに来た貴族。
休憩地点でカレーパンを振る舞う。日持ちするものでもない。
「どうやってつくるのか」「王都で食べる事が出来るのか」
と聞かれたので王都のお店の宣伝をする。
半日馬車にのり、夕方にリズミクという大きな町についた。
「この先はしばらく大きな町は無いはずよ。泊まる場所を探しましょう」
「宿屋があれば良いなあ」
「そんな気の利いた物は無いだろう。教会や騎士団を当たるか。」
と歩きながら話していたら、温泉マークが揺れているのが目に入った。
「この町、温泉があるみたい。探しましょう!」
30メートルおきに掛けられた旗を辿って歩いていく。
「イザベルが怪しい旗を追いかけているのだが、大丈夫か」
「宿探しをしながらついて行ってみましょうよ」
「どんどん山道の方に入っていくぞ」
「そうねえ、暗くなる前に宿を見つけたいわね」
「こうやって、2人で歩くのは久しぶりだな」
「そうね。」
「クリス、あの時は悪かった」
「どの時?子供の頃、私の帽子にバッタを入れた時?それとも~」
「謝恩パーティーの事だ」
「あの時は十分すぎる反撃をした自覚があるわ」
「クリス、俺と、もう一度!」
「再戦の機会が欲しいの?良いわよ。いつでも受けて立つわ。」
「そうじゃなくて!」
「ストップ!女にはね、心の準備とか、体の準備が必要なの!」
「はぁ?」
「一日駅馬車に乗って疲れて、汗かいて、髪の毛も顔も砂埃で汚れていて、こんな時に大事な話をするのはやめて!」
「クリス、ロバート、ここ泊まっても良いって~」
山道からイザベルの元気な声が聞こえる。