乙女ゲーム リザ視点
リザがここは乙女ゲームの世界と気付いたのは、入学式の時。
王太子にわざとらしくぶつかる女子生徒を目の当たりにした時だった。
「大丈夫?怪我はない?」と手を差し伸べる王太子。
「すみません、貧血起こしたみたいで」と手を握ってふらふらと立ち上がる女子生徒。
王太子の隣の女子生徒がハンカチを差し出しているが、華麗にスルーされていた。
リザには野望があった。「偉くなって国を牛耳ってやる!」
前世は官僚になって国を牛耳ろうと思っていた。国家公務員への就職も決まり、これからという所だった。
今は官吏を目指して、特待生として学園に入学したばかりである。
良い成績を取る事は勿論、生徒会役員に立候補し学生生活の運営を行う予定だ。
恋愛も多少は良いが、乙女ゲームによって風紀が乱れるのは困る。
リザは主人公と攻略対象から距離を置いて静観する事にした。
「真実の愛を求めて、学園に咲く可憐な花」というタイトルの乙女ゲーム。
幼い頃に誘拐され孤児院育ちの主人公が、父親の男爵と再会する場面から物語が始まる
感動の再会から半年後、主人公は王都の学園に入学する。
学園で攻略対象の王太子、宰相子息、侯爵子息、騎士団長子息に出会い、イベントを通じて好感度を上げていく。
攻略対象との仲が深まると同時に、主人公は嫌がらせを受けるようになる。
最後に一番好感度の高い攻略対象の婚約者が、いじめの首謀者と判明。
謝恩パーティーで攻略対象が主人公への愛を宣言、婚約者への断罪を行う。
全ての攻略対象の好感度が80%以上の時には逆ハーレムとなり、全ての婚約者令嬢が断罪される。
観察の結果、逆ハーレムルートに進んでいる事に気づいたリザは、被害を最小限にする裏工作を始めた。
一般生徒に対してはクラス委員を通じて「男爵令嬢と攻略対象に対し、距離を置いて静観する」旨を徹底指導。
攻略対象の婚約者にイベントの実行委員や係を押し付け、忙しすぎて余計な事に気づかない、関わらない状態にする、これらは同時にアリバイになる。
卒業間際になると、男爵令嬢が、机の中のものが無くなった。教科書に落書きされた。体操服が盗まれた。寮の自室からブローチが無くなった。階段から落ちた。と騒ぐ事件があった。
謝恩パーティーで断罪が起こる事を確信したリザは対策を講じた。
会場を1階の講堂に変更、舞台の周囲に観葉植物や花等の鉢植えを並べる。
騎士科の生徒の協力を仰ぎ、彼らを舞台のテーブルに配備。
事が起きた時には暴力行為の妨害と令嬢の逃亡を助ける様、指示をする。
一般生徒に事前に有事の際の避難誘導について説明。
生徒会役員の指示のもとに、怪我も混乱もなく静かに全員退避した。
騒動の後、断罪の内容について調査が入った。
婚約者令嬢は、多忙な学生生活を送っており全員にアリバイがあった為、証拠不十分として処理された。
「あの時”いまだ、逃げなさい”と小さな声が聞こえたの。おかげで助かったわ、ありがとう」
「お礼には及びません。元々の動機は出世欲、私利私欲ですから。」
ニッコリとリザは笑った。
「それに、クリスさんの男装姿は眼福でした」