脳筋とケーキ
「思った以上にパンが売れちゃった」と申し訳なさそうな顔でクリスがいう。
バケットが残り3本、ぎりぎり10食というところだろうか。
「いらっしゃいませ」
「今日のごはんは何?」今日も第一号は見習い文官さん。
「チキンと野菜のトマト煮ですよ」
夕食屋、営業始めました。
「姉さん、こんばんは。今日はロバートと一緒なんだけどいいかな」
「・・・おとなしくしてくれるならいいよ」
弟が筋肉バカと一緒にやってきた。
「今日はパンが切れちゃってね、あとはオムライスだけなの」
「オムライスって何?」「パン、もうないの?」弟と筋肉バカが同時に言う。
「百聞は一見に如かずっていうでしょ。黙って食べなさい。」
「ひゃくぶん…って何?姉さん時々難しい事言う」
コンソメで炊いたご飯にとろふわに焼いた卵をのせて、一口大に切ったチキンと野菜のトマト煮をかける。
「うまい。米をこんな風に食べるなんて初めてだ」と弟が呟きながら食べている。
ふふふ、美味しいでしょ。今日初めて知った、この国にはオムライスが無いらしい。
ニマニマしていたら「クリスは元気か?」と早々に食べ終わった筋肉バカが聞いてきた。「元気だよ。あと最近モテモテみたい」
「えっ!」と動揺する筋肉バカ。
「近所の女の子とか主婦にね。カッコいいって評判なの」
昼はクリスがパンとお菓子を販売している。背が高くすらっとした美人、喧嘩で負けなしのクリスには気付いたらファンが出来ていた。
学校でも隠れファンは多かった。謝恩パーティーで男装させた時にはいい仕事をしたと思った。
結果的にとても助かった。クリスがこの筋肉バカを叩きのめしてくれなければ、私たちはあの場から無傷で逃れる事は出来なかっただろう。
「そんなにクリスが作ったパンが食べたかったの?」
「ゴリラ女がパンを作れるとは思わなかった」と筋肉バカが赤い顔して悪態をついている。
「パンが無ければケーキを食べれば良いじゃない」とバカの前にケーキを置く。
イチゴのショートケーキ。ふわふわスポンジにしっかり立てた生クリームとイチゴでトッピングした一品。
「これって」
「昼間出すケーキの試作品。クリスが試食してって置いていった」
「甘い。なんで可愛いんだよ。ゴリラ女には似合わなすぎるだろ」と呟きつつ大事そうにちびちび食べている。デカイ筋肉バカが小さいケーキをちびちび食べるって。子供か!
「姉さん、僕には」
「無いよ。食べたいなら昼に来なさい」
「「ずるい!」」と弟と筋肉バカが同時に言う。
「ずるいじゃない!。あと、ロバートはケーキ代払ってね」