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夕食屋  作者: プリン
27/32

落ちる

ゼラニウムの花が家々の庭を飾る頃、王都から手紙が届いた。


時を同じくして温泉工事も終わった。

休暇中の船乗りをかき集めて岩堀作業を行い、オーシャンビュー、源泉かけ流し温泉が出来た。

海を見ながらの温泉は、極楽的な絶景である。


春からロバートは港町の騎士団へ転属となった。

海からの外敵侵入の可能性、船の出入りによる人の増減。

港町の治安維持の大切さを切々と訴えて、転属を勝ち取ったらしい。

あの事件さえなければ、近衛騎士団でエリート然としていたのだろうに、

傍から見れば王都騎士団から更に辺境の騎士団に左遷されたように見えるのだが

本人はとても幸せそうである。


「クリス!一緒に!王都に帰ろう!」最後にもう一回クリスを口説いたら、

「頼む!俺にクリスを返してくれ」とロバートに言われた。


ロバートに、学園時代にヒロインに夢中だったのは何だったのと聞いた事がある。

よく覚えていない。

気付いたら卒業パーティーで大好きな女の子に拳を振り下ろそうとしていた。

愕然として固まった瞬間の彼女からの反撃で全治一ヶ月のけがを負った。

怪我に関してはクリスやりすぎと思ったが、それが幸いして軽い処分で済んだという。

ゲームにありがちな強制力でも働いたのだろうか?

ドラクエの村人Aみたいな「ようこそ、マルセオの町へ」とか、

5秒前にあいさつしたのに「よお、イザベル久しぶりじゃないか」

とプログラム通りにしか動けないキャラみたいな。


王都から手紙が届いた。王太子からの手紙だ。

オリビアさんを王太子妃に迎える。

慣れるまで大変だ。味方が必要だ。助けてほしい。と書いていた。


「悪役の王太子に、悪役未亡人が嫁ぐ。それを手助けする悪役令嬢か」

と手紙を見て呟いたら、

「今流行の物語の悪役令嬢は最後に悪役商人のもとに降嫁するんだ」

後ろにウォルフさんが立っていた。


あたふたしていたら、ふわりとウォルフさんに背中から包まれた。

嫌だったら振りほどける強さ。問題は嫌じゃない事。


「今はその気じゃないと言ったら」

「今は…じゃあその気になってくれるつもりがあるんだね」

ぎゅっと体に力が入る。

「ドキドキするけど、驚いているからなのか、恋なのか解らない」

「どっちでも一緒だ。たとえ君の勘違いだとしても、一生勘違いさせる」

「親友の結婚と親友との別離に寂しくなっただけかも」

「そのさみしさを、全部僕が埋める」

「おとぎ話のお姫様みたいに末永く幸せにしてくれるのかしら?」

「それは違う。2人で幸せになるんだ。」

最後の言葉がすとんと心に落ちた。

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