変わらない日々
ルークさんの妹さん(主婦)と、ルークさんの店で働いていた給仕のミーナさんがやってきた。
てか、ミーナさんってルークさんの奥さんだったんですか?
ルークさんは、酔っ払いの多い飲み屋で嫁が遅くまで働くのは嫌だった。
でも、ミーナさんは「家でじっとしていたら私駄目になっちゃう!」というタイプ。
夕食屋は食事をする人の店だし、ルークさんと一緒に家に帰るから問題ないという事。
2週間の試用期間を決めた。夕食屋のレシピを教えていく。
彼女たちに言わせると、夕食屋の味付け、香草、ソース類の工夫は、新鮮で興味深いらしい。
二人とも手際が良い。特にルークさんの妹さんは兄弟が多い中、家で家事をこなしていたとの事で、揚げ物をサクサクと揚げていく。
私の役割は教えるだけではない。
王都に戻ったら1人で夕食屋をやっていかなければならない。
美味しいパンがあって初めて料理が生きる!
夕食屋のパンを焼けるようになりなさい!
とクリスによるパンつくりの鬼指導が始まった。
気温、水温、素材の種類により、パンの発酵も焼き上がりも変わる。
「分量通りに!目分量はやめなさい!」と何度も叱られた。
他は変わらない日々だ。
ウォルフさんは変わらず買い出しの手伝いにやってくる。
彼の気持ちを考えたら本当は断るべきなのかもしれない。
でも一緒にいる時間は心地良くて…つい甘えてしまう。
ずるい女だよね。
もしも彼に向き合うとしたら、私の事情も知らせる必要がある。
例えば、家族と縁を切っている事は伝えなきゃフェアじゃない。
それを知った彼に軽蔑されたら、辛い。
ウォルフさんは歩きながらこの町の事を教えてくれた。
港町マルセオは商人たちが自治権を勝ち得た町だと言う。
自分たちに必要な事を自分たちでやる代わりに、自由な裁量で動くことができる。
今回の温泉開発でも、商業ギルドが中心になり自治の範囲内で行った。
船の補修中で、手が空いた船乗りに仕事を与える事が出来たのは幸いだった。
「作業を与える事で、港町の治安も良くなったからね」と言う。
ウォルフさんはこの町の出身なのだろうか?と思って聞いてみた。
父親は王都の商人だが、母親はこの町出身らしい。
祖父は50年前に亡くなり、母を1人で育て上げた祖母も数年前に亡くなったと。
「おかげで東方行きの船にも乗せてもらえた。僕にとってこの町は第二の故郷だよ」
静かな目で海を眺めながらウォルフさんが言った。




