新店舗準備
後ろに、給仕のお姉さんとエプロン姿の男性が立っていた。
「店長のルークだ。よろしく」男性が自己紹介をする。
「イザベルです。よろしくお願いします。ところで、お店の件なのですが…」
「飲み屋街から離れた少し寂しい場所にはなるんだが」
ルークさんにお店の話を聞く。
お爺さんが店を畳んだばかりで、貸すか売るか悩んでいるらしい。
実物を見た方が早いと、ルークさんの休憩時間に案内してもらう事になった。
市場から海沿いの道を進む。
浜で女性達が魚や海藻を天日干ししている。
魚の開き、昆布、テングサ、ワカメ…。
更にその先では子ども達が潮干狩りをしている。
「内陸で干物や海藻が売れるらしくてね、奥さん達の小遣い稼ぎなんだ」
とルークさんが教えてくれた。
7分ほど歩いた場所にその店はあった。
中に入り、窓を開けて風を入れ替える。
1階はカウンターとテーブル席。キッチンには大きなオーブン、調理道具、食器が一通り揃っている。2階は寝室とリビング。
裏庭には洗濯物を干すスペース、小さな花壇、小屋。
飲み屋街と住宅街の中間地点。宿屋街からも徒歩5分。
「立地はあまり良くないんだ。宿泊客は飲み屋街に向かう直通ルートを使うから流れてこない。爺さんがやってた頃も、夜遅く住宅街に帰る奴らが立ち寄る程度だった。」とルークさんが話す。
「適度な距離で中心点に位置するお店、働く女性、帰り道。面白い要素がいっぱいあるわよ。2人はどう思う?」
「すぐにでも美味しいパンが焼けるわよ」とクリス。
「お前らが酔っ払いに絡まれる心配を、しなくて済むのはありがたい」とロバート。
ルークさんのお店に戻り、お爺さんのお店を借りる契約をする。
暗くなる前に掃除をして、寝る準備をする。
たらいに湯を張って交代で体をふく。
「贅沢な旅だったな。あの温泉ってやつが欲しい」とロバートが話す。
6日間の旅で、泊まった宿には全て温泉があった。そのうち美咲さんの経営する民宿は2か所。他は美咲さんの影響で温泉好きが高じた人たちが財力と労力と時間を投じて温泉を発掘したもの。
さすがに港町に温泉は無いよね。掘っても塩水しか出てこない気がするよ。
今日はみんなで手分けして掃除をした。
明日は買い出し、明後日には開店の予定だ。
王都の店は大丈夫かな。
トラブルを避けて、港町まで逃げて来たけど。
ここから逃げるとしたら、今度は船か?
風と海流に影響される帆船とか無理、色々な意味で怖いよ。
ベッドに潜った後にそんな事を考えていたら、大きな船に乗って旅に出る夢を見た。




