第4話 人気者?
それなりの長さです。
「おーい、逢人!」
「ん?お、侑李!」
朝。学校の支度を終えた僕が外に出ると、いつものようにタイミング良く侑李がやってきた。
今日は晴天。小走りでやってくる親友をみて、相変わらず晴れの似合う男だなとそう思えた。
「それにしても…」
侑李が僕の元までたどり着いたので、2人で学校へと向かっていたのだが、その道中で突然侑李がそう話し始めた。
「どうしたの?」
僕は首を傾げる。
「いやさ、折角会えると思ったのによ、何で昨日の入学式に透咲春乃が居なかったのかと思ってさ」
「あー、確かにね」
僕も疑問だった。侑李は知らないと思うが、あの後僕は教室で透咲さんと会った。
つまり、学校に居たのである。
しかし、入学式には参加しなかった。
会う前は風邪でもひいたのかと考えていたこともあったが、そうではなかった。
……本当によくわからない。
「まぁ、でも今日は会えるでしょ?」
そう。恐らく今日透咲さんは来る。同じクラスなのだ。透咲さんがくれば、必ず会うことができる。
「そうだな!今日が楽しみだわ」
侑李はそう言うと、ニコニコと笑い目を輝かせた。
そんな彼の様子を見て。やはり、侑李は透咲さんのことを少なからず良く思っているのだと感じるのと同時に、かっこいい侑李に思われている透咲さんに僕何かが相手にしてもらえるのかと不安を覚えた。
◇
学校についた。
その間も話題に上がるのは透咲さんの話ばかりだ。
もう好きなアイドルのことでも話すかのように目をキラキラさせ、饒舌になる侑李。
頷きながら、笑みを浮かべながら聞いてはいるが、内心は透咲さんに相手にされないのではないかという不安が支配していた。
「さて、いよいよだな」
「え?う、うんそうだね」
そんなこんなしているうちに。いつの間にか教室の近くまできていた。
侑李は待ちきれないといったばかりにそわそわとしており、僕の返事が淀んでいたのはさして気にならなかったようだ。
「よっしゃ、いくぞ!」
と。侑李はそう言うと勢いよく教室に入り、
「おはよう!」
と、元気よく挨拶をした。
一瞬教室に静寂が訪れるが、挨拶をしたのが侑李だとわかると、クラスの皆がばらばらと挨拶をし始めた。
そんな侑李の後を若干縮こまりながらついていき教室に入る僕。
教室内を見渡し、しっかりと対面するのは今日が初めてである筈なのに皆笑顔で挨拶をしているのを見て、僕は改めて侑李の人望の深さに感嘆の声を上げた。
そして、同時に。
教室内を見渡してわかったことがある。
それは……
「あれ?透咲春乃は?」
そう。教室内に透咲さんの姿はなかった。
◇
「皆さんおはようございます」
と、クラスの担任の先生が挨拶をする。
その後、担任の先生は簡単な自己紹介を始めた。
それが終わると、新学期ということもあり、配布物が配られた。
そして、その後。いよいよ生徒側の自己紹介が始まった。
因みに席は番号順ではなく、恐らく先生が決めたのだろう、バラバラになっていた。
なんでも番号が近い人は何かと話す機会もあるだろうから、それなら他の生徒ともっと交流を深めろということらしい。
因みに僕の席は窓側の一番後ろの席。つまりは端の席だ。
そして、驚いたことに。
透咲さんの席はそんな僕の横の席だった。
嬉しい筈なのに。
しかし、今は違う感情が僕を支配していた。
それは心配であるという感情。
「透咲さん、どうしたんだろう」
僕は右側、つまりは透咲さんの席を見て、小さい声でそう呟いた。
入学式の教室でであったあの時。
桜吹雪を背に黒髪を揺らしながら佇むあの時。
入学式を欠席した理由は病気ではなかった。
つまりは、気まぐれか何かだろうか。
侑李は言っていた。
透咲春乃は変な人であると。
ならば、気まぐれというのもおかしくはない。
ということは、今日も気まぐれで学校にこないという可能性も考えられる。
しかし、それでも僕は透咲さんのことが心配であった。
と。
「次!透咲春乃!」
先生がそう声を上げた。
しかし、当然ながら返事をする者は居ない。
「なんだ、透咲は休みか」
と、先生が言い、名簿に欠席であると記そうとした
──その時であった。
ざわざわと。教室の入り口に近い方の生徒が小さな声で騒ぎ始めた。
その声は少しずつ広がっていき、そして窓側に座る僕の耳に入った。
突然のざわめきに僕は首を傾げながらも、その声の先──つまりは、教室の入り口へと目を向けると。
そこには、あの透咲春乃の姿があった。
思わず口を紡ぐ僕。
しかしそれも仕方がないことだろう。
何故なら自然とそうなってしまう程、透咲さんは美しいのだから。
「おう、透咲。初日から遅刻なんてどうしたんだ?」
そんな透咲さんに先生はそう質問する。
先生の疑問も当然だろう。初日から遅刻とはそれなりの理由が無ければ中々ないことである筈だ。
と。そんな先生の質問に。
透咲さんは先生の方に顔を向けると、
「四つ葉のクローバーを探していた」
と言い、手に持っていた四つ葉のクローバーを眼前に持ってきた。
恐らくこの時、この瞬間で。
世界一頭上にハテナマークを浮かべた人間の集まっている場所と聞かれたら、この教室であると断言できるほどに。
教室にいるその誰もがハテナマークを浮かべていた。
この人は一体何を言ってるのだろうかと。
当然言葉の意味がわからないわけではない。
四つ葉のクローバーを探すという行為自体は何もおかしい所はない。
問題はそこではないのだ。問題は何故学校が始まる前に四つ葉のクローバーを探していたのかという所である。
僕は先生の方を見た。
先生も、まさかそんな理由で遅刻したなんて思わなかったのだろう。結構面白い顔になっていた。
と。そんな皆の雰囲気などさして気にした様子もなく。
透咲さんは四つ葉のクローバーを手に歩くと、僕の方へと向かってきた。
いや、それは語弊であったか。
自分の席、つまり僕の右隣へと歩いて向かってきた。
そして、緊張で固まっている僕をよそに、クラス全員の視線を浴びながら、しかしそれがどうしたという風に席へとついた。
クラスに静寂が訪れる。
しかし、そんな静寂は先生が自己紹介の続きをしようと皆に言ったことで破られた。
そして、すぐにざわざわとすると、クラスの視線は一点に集中した。
そう、次の自己紹介は彼女、透咲さんの番なのだ。
透咲さんはクラスを見回し、そして黒板に書かれた文字を見て察したのだろう。すぐに立ち上がるとこう言った。
「透咲春乃。よろしくね」
と。
その後、残りの生徒が自己紹介していき、最後に僕も自己紹介をしたのだが、透咲さんのインパクトが強すぎて僕が薄れてしまったのは、言うまでもないだろう。
◇
昼休み。
僕は1人首を傾げていた。
おかしい。おかしいのだ。
今の状況は侑李が言っていたこと、そしてクラスのあの雰囲気から見てもあり得ないと言って良い状況なのだ。
うちの学校は初日から午後まで授業があり、当然昼食をとることになる。
……それは良い。
昼食は基本常識の範囲内であればどこで食べても良く、新学期とは言え、クラスなどで仲の良い人と食べるのが普通である。
……それも良い。中には1人で食べるような人も居るが、別に普通の人ならばそれも良い。
なら何が問題なのか。
僕は、チラリと右隣を向いた。
そこには、当然隣の席である透咲さんの姿があった。
彼女の横顔にどきりとしたが、今はそれは良い。
お弁当を開き、小さな口で黙々と食事をする透咲さん。
そんな彼女の周りに。
……一緒に食べている人が居なかったのだ。
だから何だと思う人もいるかもしれない。
授業間の休み時間から何かおかしいと思ってはいたのだ。
あんなに人気者であると言っていたのに、侑李に限ってはあんなにはしゃいでいたのに。
それなのに、休み時間に彼女に近づく人は居なかった。
謎であった。本当に彼女は人気者なのだろうか。
と。
「……あ」
考えごとに集中していたからか、気付かなかった。
そう。今僕は透咲さんの方を向いていたのだ。
当然、ジロジロと見られていれば、何かと気になるというものだ。
──僕と、透咲さんの目が合った。
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