第3話 人気者
遅くなりました。
「んんんんんんんんっ!」
まるで女の子のように。
僕はベッドの上で枕に顔をうずめながら声を出し、そしてゴロゴロと転がっていた。
脳内を埋め尽くす桜色の景色と流れる美しく艶やかな黒髪。
あの時の光景、そして少女の笑顔が頭から離れない。
「………はぁ」
まさか一目惚れをするとは。
あの失恋から、恋愛をしないと決め今日まで生活してきたのに、たったの一目でその誓いは簡単に破られてしまった。
それだけの魅力が、あの少女にはある。
──そう。あるのだ。
僕は動きを止め、枕をどかし天井を見つめた。
彼女が有名で可憐だからこそ感じることがある。
それは、侑李が掲示板の前でしていた顔からもわかること。
そう。彼女は有名で、そして恐らく人気者なのだ。
人気者といいことは、きっと言い寄ってくる男は少なくはないだろう。
もしかしたらあの侑李もが言い寄っている可能性もある。
あの侑李だ。サッカー部レギュラーでイケメンで人気者なあの侑李なのだ。
…正直勝てる気がしない。
仮に侑李が言い寄っていないとしても、あの透咲さんの美貌ならば、他のイケメンな人達も言い寄っているかもしれない。
もしそうだとしたら……尚更勝てる気がしない。
何故なら…。
僕は近くに置いてあったスマホを手に取り、鏡アプリを開き自分の顔の前に持ってきた。
そこに映った顔。その何とも頼りなさそうな弱々しさに、僕は苦笑いを浮かべた。
「はははっ。こんなんでどうやって透咲さんに好かれることができるんだろう」
別に醜悪な見た目をしているわけではない。
恐らく普通の、何の特徴もない顔だ。
それでも、弱々しい顔で苦笑いを浮かべている、そのあまりにも自信のなさげな表情には、とても女の人に、それもあんな綺麗な人に好かれる要素が全く感じられなかった。
「はぁ……」
深い溜息。
この時僕の心の中には一つの情景が浮かんでいた。
そう、あれは中学生の時。大好きだった幼馴染に振られたあの時の情景が。
それを思い出す度に、僕の中からは自信が失われていく。
「ダメだ……」
自信がなくなり、僕はそう言葉を漏らす。
我ながら情けないとも思う。
しかし、こうして1人になると、どうしても幼馴染に振られたあの時の情景が浮かび、僕から自信というものを奪っていくのだ。
「………」
長い沈黙が部屋を支配した。
その間頭に浮かぶ、振られたという記憶と、先程出会った透咲春乃の笑顔。
……どちらにせよ、透咲春乃とは同じクラスになったのだ。ほぼ毎日同じ教室という空間で過ごすことは確定だ。
ということは、自ら行動しなくても、もしかしたら何かしらのイベントで話をする機会があるかもしれない。
となると、今僕にできることは…。
「………寝よう」
僕は布団を頭まで被った。
そして目を瞑る。
透咲春乃と同じクラスということへの期待と、他の男と透咲春乃が話している場面を目にしてしまうかもしれないという不安を胸に秘めながら。
今別に応募用の小説を書いています。恋愛物です。
落選した場合は、恐らくなろうで公開できると思うので、お楽しみに。