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第1話 ソメイヨシノに誘われて

遅くなりました。

今回はそこそこ長いです。

「うわぁ、凄い良い天気だ!」


一面に広がる青空。辺りを見回しても雲一つ身受けられない。所謂快晴というやつだ。


高校指定のバッグを片手に僕、羽山逢人はそんな天気の良さに笑みを浮かべた。


何故なら今日は春休み明け、久しぶりの学校なのだ。

そんな日に雨が降るという事ほど気分の悪いものはないだろう。


辺りを見回すと、恐らく今日が入学式なのか、不安や緊張、そして新しい学校への期待の入り混じった顔をしている中学生や高校生、また母親の手を引っ張り笑顔で歩いている小学生など、様々だ。

しかし皆同様に新しい何かが始まることに対して、各々色々と感じているようである。


かく言う僕も、今は期待と不安が入り混じっている状態だ。

しかしそれも当然だろう。


新しく学年が変わる。つまり、それは今まで仲の良かった友達と違うクラスになってしまう可能性があるということなのだ。


元々あまり人付き合いの苦手な僕だ。当然、友達と呼べる存在は少ない。

その友達も向こうから話しかけてきてくれたから、今友達として仲良い存在として居れるのだ。

つまり、僕には自分から友達を作ったことなど殆ど皆無に等しいという訳だ。


当然、不安に思うだろう。


しかし、内心新クラスに期待している自分もいる。

もしかしたら友達が今以上にできるかもしれない。

そう、友達作りに積極的に行動できないくせに考えているのだ。


と。


「おーい、逢人!」


突然そう声が聞こえてきた。

ゆっくりと振り返ると、そこには此方へと手を振りながら走ってくる少年の姿が見えた。


僕は、彼のことを知っている。


「おー!侑李(ゆうり)!久しぶり!」


相坂侑李(あいさかゆうり)。1年生ながらにそれなりに強豪なサッカー部のスタメンに選ばれており、その容姿の良さも相まって女子にモテモテなイケメン君だ。そして、彼は僕の親友でもある。


「久しぶりだな〜。宿題はしっかりやったか?」


僕の近くへ着くと同時に侑李はそう話題を振ってきた。

僕は侑李に目線で合図をし、2人学校へ向かってゆっくりと歩きながらその問いに答えた。


「うん、やったよ。侑李は?」


「あー…はははっ。……まだ終わってない」


「…………」


全くいつも通りであった。

彼はどうやらその能力、そして好奇心というものがスポーツ側へと傾いているようだ。

つまり何が言いたいかと言うと、侑李は勉学というものに対して興味もなければ、能力もあまり持ち合わせてないのである。


別に僕は侑李を馬鹿にしているわけではない。


今言ったことは以前彼が僕に言ったことだ。

僕はただそれを輪唱したに過ぎないのである。


その後も僕たちは会話をしながら学校へ向かい歩いた。

登校中の話題は当然新学期についてだ。

特に今日発表されるクラス分けについての話題は盛り上がった。


誰々と同じクラスになりたいや、また同じクラスになれると良いななどそれはもう色々と話した。


そんな中で、不意に侑李から吐かれた言葉に僕は首を傾げることになる。


「1番はあれだな!透咲春乃(とうさきはるの)!」


透咲春乃。初めて聞く名である。


「……誰?」


僕は侑李にそう聞いた。


そんな僕の反応に、侑李は普段の整った顔が台無しになる程に変な顔をすると、驚きの声を上げた。


「おま…まじで言ってんの!?あの透咲春乃だぞ!?」


「あのって言われてもわからないよ」


「………」


侑李は僕の反応から冗談ではないと気づいたようで、再び変な顔と共に大きなため息を吐いた。

しかし、すぐに侑李は何かに気がついたのか、ぼそりと声を上げた。


「……そういや、逢人は色々あったんだよな。そうか、そりゃわからなくてもおかしくはないか…」


「……かもね。全く気にしていなかったから」


そう。侑李は2年前の僕の話について知っている。

侑李とは高校からの付き合いだが、何故だか彼には話しても良いかなとそう思い今年の1月頃に成り行きで僕の中学時代の話をしたのだ。


恐らく信用できる人ならば誰でも良かったのだろう。

ただ誰かに聞いてもらいたかっただけ。

きっとそうだったのだと思う。


…何だか湿っぽい空気になってしまった。

僕は慌てて侑李に話を振った。


「で、その透咲さんって人はどんな人なの?」


「変な人」


「……はい?」


先ほどの話し方から、てっきり可愛いだったり美人といった言葉が聞こえると思っていたのに。

まさかの変な人ときた。


「あ、でも凄く美人。あと頭脳明晰で、運動神経抜群」


美人ではあるようだ。


「凄い人なんだね。何でもできる」


「そうだな。だけど変な人」


変な人という部分が引っかかる。


「変な人ってのは具体的に?」


「時々話が通じないんだよ。常人には理解ができない」


「頭が良すぎて、言っていることが難解ってこと?」


「うーん…そうとも言えるのかな。…わからん。こればっかりは自分で話して貰わなくちゃ」


何とももやもやする形で話が終わってしまった。

ここまでくると、透咲春乃という人物について興味が湧いてくるが、それでも…。


「気になる…でも、うーん」


「まだ駄目か?」


「うん。まだ駄目…かもしれない」


「そっか」


あの時の光景がトラウマとして僕の心を支配している。

やはりまだ…女性と仲良くなるのが、なろうとするのが怖い。


「まぁ、まだ時間はあるし、ゆっくり克服していけば良いよ。そうすりゃいつか透咲と話すこともできるだろ」


僕のことを思ってか、侑李が優しい言葉をかけてくれる。

やはり侑李には話して良かったとそう思う。


「そうだね。ゆっくりと頑張ってみるよ」


「おう。そうしな」


頑張ろうと、そう思えた。

いつまでも女性を避けているだけでは、駄目なのかもしれない。

少しずつ。本当に少しずつでも、女性と仲良くなれるように。


侑李の言葉を聞いた僕はそう決意を新たにした。



ワイワイと賑わう昇降口前。


今そこには多くの学生が集まっている。


うちの学校の特徴として、校舎を囲むように並ぶ桜の木が挙げられるのだが…。

その校舎の佇まいとマッチして綺麗な光景となる筈が、学生が集まりすぎていてその欠片も見ることができない。


「すげぇ集まってるな」


「そうだね」


僕と侑李は苦笑いを浮かべた。


何故ここまで人が集まっているのか。

その理由は知っている。


「クラス…見えるかな?」


「頑張れば、何とか」


そう、クラス発表である。

1年の頃は最初に発表がされていた為、今回のようにクラスを確認することはなかった。

だから、僕たちはこの光景に驚いているのである。


…バリケード。

目の前の光景はまさにそうであった。


これを抜けるのは中々骨が折れそうだ。


だが…。


「いくか」


「うん」


僕たちは生徒たちの集まるその戦場へと身を投じた。



ついに光が見えた。

僕は目的の場所への道が開けた時そう思った。

しかし、そう思うのも仕方がないといえるだろう。


何せ僕は背が低い。


それはもう女子に負けることもそれなりにある程にだ。


その為か、やはり人の海とも言えるあの場所へと潜ると、周囲の人によって視界が遮られてしまうのである。


ハァハァと、僕は息を吐いた。


ついに目の前にはあのクラスの貼られている掲示板が。


まず先にと、一緒に海へと身を投じた侑李の居場所を探すと、その姿は人3人ほど挟んだ左隣にいた。


「おーい」と、僕は侑李に声を掛けようとして…やめた。


何やら様子が可笑しいのだ。


というのも、クラスのかかれた掲示板を見て、ポケーっとしているのである。


僕は目の前の掲示板を見た。

そこには3年1組から7組までのクラスについてかかれていた。


ということは。


僕は再び侑李の方を見た。


未だにポケーっとしている侑李がいる場所。

恐らくあそこに僕たち2年のクラス分けが書かれている。


僕は、侑李のその様子に頭上にハテナマークを浮かべながらも、彼のいるその場所へと動いた。

そして、僕が隣にきても気づかず掲示板を見ている侑李のその視線の先へと目を向けると。


そこからは2年5組という組の番号と、その下にはずらっと規則正しく並んだ名前が見て取れた。

僕はその名前の部分へと目線を動かす。


そこには、上の方に僕と侑李の名前がかかれていた。


侑李と同じクラスだ!


その2つの名が目に入ると僕は直ぐにそう喜んだ。


友達が少ない僕の、その中でも貴重な親友が同じクラスだったのだ。

これで新クラスでも少し安心して生活できるというものである。


…しかし、何故侑李はポケーっとしているのだろうか。

そこが疑問だ。


「おーい、侑李〜」


このまでは埒があかない。

そう思った僕は侑李の肩を揺すりながらそう声をかけた。


すると侑李はハッとすると、僕の方に顔を向け、目を見開いたままとある場所を指差した。


そこは、2年5組のクラス表があって。

侑李が指をさした先には、一つの名前が見て取れた。


その名前は。


「透咲春乃…」


そう、透咲春乃である。

先ほどまで話をしていた侑李が変な人というあの人だ。


…確かに驚いた。

まさか本当に同じクラスになるとは思わなかったから。


しかし、侑李の反応は些か大袈裟過ぎやしないのだろうか。


と。


そう考えて、しかし僕は直ぐにそれを否定した。


透咲春乃という人物について何も知らないのに、侑李の反応を否定するのは駄目だとそう思ったのだ。


もしかすると侑李の反応が普通になる程の、それ程の人物なのかもしれない。

そう考えると、益々興味が湧いてきた。


同じクラスなら、恐らく始業式で目にすることになるだろう。


僕は普段は面倒としか感じない式というものに、初めて楽しみを覚えることとなった。



始業式が終わった。


そんな僕は今自分の教室に向かっている。

学校として今日集まることはないが、どうせなら教室を確認しようとそう思ったのだ。また、2年の教室が1階にあるため、校舎を囲うように咲く満点の桜が教室から綺麗に見れるのではないかという淡い期待もあった為、向かうことにしたのである。


と、僕はここで先ほどの始業式を振り返った。

全く残念な始業式を。


学校の式としては恒例となる校長先生の長い話。

それを眠気の支配する空間にたたずみながら、うつらうつらと聞く。

ただ、それだけの行事が始業式だ。



…いや、もう一つあったか。


うちの高校では始業式を終えると、その日はそれで終了だ。自分のクラス集まるということはない。


とはいえ、始業式の時にクラス毎に座るため、同じクラスのメンバーの顔を拝むことはできる。


それがうちの学校の始業式というもののもう一つの意味だ。


確かに昇降口前でクラスの発表はあったが、高校ともなると人数が多いため、名前だけではわからない生徒も多い。

そんな僕たちの初顔合わせの場が始業式だ。


当然大きな意味を持つと言える。


そんな大切な時に、楽しみにしていたというのに、始業式を行う体育館に透咲春乃が現れることはなかった。


風邪か何かにでもなったのだろうか。

侑李が変な人ともいうぐらいだ、気まぐれということもあるだろう。


…なにはともあれ、透咲春乃は現れなかった。


誠に残念であるが、仕方がない。


同じクラスなのだ。会えるのが今日ではなくなったというだけで、どうせ直ぐに会うことができる。


…と。


そこで。


「ん?」


僕は数メートル先に、小さな何かがひらひらと落ちているのを目にした。

興味があった僕は駆け足でその場所へと向かい、その何かを手の中に収めた。


ぎゅっと両手で握った何か。

僕はゆっくりとその手を開いた。


そこには。


…桜の花びらがあった。


左に目を向けるとそこには窓があり、何故かその部分だけ窓があいていた。

きっとそこから入ってきたのだろう。


……それにしても。


「綺麗だな」


手の中にある桜の花びらはとても綺麗な形をしていた。

…それも当然か。不思議なもので、この世界はそういう風にできているのだから。


と。


「ん?」


前方に。


再び何かヒラヒラしたものが飛んでいた。


大きさ、形からそのものがなにかはわかるが、僕は駆け足でその場所へ行き、手の中に収めた。


…やはり桜の花びらであった。


僕は再び左に目を向けた。


そこには先ほどと同じように窓が開いて…いなかった。


「あれ?」


僕は驚きの声を上げた。

開いていると思っていたはずの窓が開いていなかったのだ。


「なら…」


それなら、この花びらは一体どこから飛来してきたのだろうか。


と。その時であった。


ビューっと、大きな風が吹いた。


僕は驚きと共に風の吹いた方向である、窓とは反対側つまりは右側に目を向けた。


と。


「………っ!」


息が詰まった。


僕が目にしたそれは、その光景は、余りにも、暴力的なまでに…美しかったのだ。


一面桜色に染まる校庭と、ヒラヒラと風に流され教室の机の上に落ちる桜の花びらと、そしてその桜色に包まれたサラサラと靡く黒髪と。


まるで絵画のような、美の全てを詰め込んだかのようなその様相に。


僕は思わず目を奪われた。


しかし、すぐに直視することが恥ずかしく感じるようになり、思わず目線を上げると、そこには2年5組という文字が。


驚きと共に僕は再び目線を教室の中へ移し……。


僕とその少女の目が合った。



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