プロローグ
一目惚れなんて存在しないと、そう思っていた。
いくら綺麗だろうと、いくらカッコよかろうと、目が離せなくなることはあっても、それが恋となることはないのだと、恋愛経験のない一端の高校生である僕が偉そうにそう思っていたのだ。
しかしそんなことはなかった。
あれはそう、確か高校2年の春の事。
僕は気づくことになる。
一目惚れというものが、本当に存在するのだということを。
一面桜色に染まる校庭と、ヒラヒラと風に流され教室の机の上に落ちる桜の花びらと、そしてその桜色に包まれたサラサラと靡く黒髪と。まるで絵画のような、美の全てを詰め込んだかのようなその様相に、心を奪われることになることを。
◇
「ごめんね、逢人。私ね、彼氏居るの」
幼馴染の少女から告げられたその言葉を聞き、僕、羽山逢人の脳内に最初に浮かんだものは、悲しみではなく疑問であった。
何故、断られたのかという疑問だ。
別に彼氏が居るという事実を告げられ、それを受け入れることができないというわけではない。
ただ単純に疑問なのだ。
幼馴染で何年も一緒に居て、笑って、泣いて。数日前には僕に好きと言ってくれて。
だからこそ、今回の告白は絶対に成功すると思っていたのだ。
「彼氏がいるって…だって、この前僕のことを好きって…」
「うーん、確かに逢人のことは好きだけど、それは友達としてだよ。ただそれだけ」
「そ、そんな…」
好きなのは友達として。
その事実に、僕はショックを受けると共に、彼女に、いや女性に何か言いようのない恐怖を覚えた。
例え彼女にその気がなかろうと、僕は騙されたのだ。
それがたまらなく恐ろしかった。
その後、一言二言話した後、彼女は彼氏との約束があるからと帰って行った。
彼女のいなくなった後、僕はその場で1人呆然と立ち尽くした。
「だって…好きだって…」
そして、ポツリとそう言葉を漏らす。
いつの間にか僕の目には涙が溜まり、ポツリポツリとまるで僕の内情を表すかのように地面に落ちた。
彼女のいなくなった今も、悲しみと恐怖の感情が脳内を支配し、グルグルと回る。
吐く息が白くなる程のその寒さも相まって、僕の心は酷く冷え切っていた。
──これが、僕の初めての恋であった。
悲しいほどに呆気なく終わった一つの恋。
そして、この日から2年近く僕は恋愛をすることがなかった。
女性への恐怖心、そして断られることへの恐怖心に心が参ってしまったからだ。
もう一生恋愛などしないと、そう考えながら生きる日々。
しかし、そんな日々はあの日、あの出会いをもって終わりを告げることとなる。
そう、桜舞う季節に教室に佇むあの少女との出会いによって。
1話投稿遅れています。申し訳ございません。
どうにも話が長くなりそうで、恐らく5000文字を超えてきます。
本日17日の朝8時には投稿できるようにしますので
よろしくお願いします。
第2話の投稿は18日にできると思うので、そちらもよろしくお願いします。