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8.危険な恋の終わり

 ファミレスから外に連れ出された三田明美は偶然大通りを通りかかったタクシーを捕まえるとあたふたしている聡を押し込み駅前のビジネスホテルの名前を運転手に告げた。わけもわからず明美に押し切られた聡は、きちんと話をしないとこじれてはいけないと諦めて明美のいうとおりにすることにした。話をすれば落ち着くと思ったのだ。だがそれは30数年も思いを貯めた女性には通じない考えだったことをあとで知ることになる。



 ビジネスホテルに行くとあらかじめ予約していたのだろうか明美は直ぐ鍵を受け取ると聡をつれてエレベータに乗り5階の部屋に聡を連れ込んだ。流石にいくとこまでいくしかないかと諦めていた聡は抵抗するまでもなく部屋に入り備え付けの椅子に座った。



 部屋に入って落ち着いたのだろう明美はベッドの縁に腰を掛けるて潤んだ瞳で聡を見つめている。まるで中学生のころの彼女にもどったようにキラキラした瞳だった。





「シャ、シャワーにする?それともワタシ(・・・)?」

「ばかっ」

と聡はチョップを明美の頭にお見舞いする。



「いいか、ここに来たのはおまえを落ち着かせるためだ。考えても見ろ。好きでもない女性を抱いても嬉しくもなんともないぞ」

「あたしじゃダメなの?なぜー。わたしじゃダメなのよー。あなたしかいないのに…」





「昔からそうだった……。皆、真理、真理ってみんな綺麗だ美人だっていうけどあたしじゃなくてもいっつも隣にいる真理だった。大学の時、海にいったときだってあたしだって迎えに着て貰いたかった。それなのにみんな真理を迎えにいってだーれもあたしのことなんて誘ってくれなかった。予備校であった時にボーリングにいったのを真理に自慢したのだってあんたが好きだったからなのに。でもあんたは真理に手を出さなかった。あたしにもまだチャンスがあると思っていたのに。それが、あっというまに結婚してしまった…」



「あたしじゃダメなの?なんでよ?なんでよ?答えてよ?」

「落ち着けって嫌いとか言ってないだろ。おまえは綺麗だ。だから俺以外の男ならいくらでもいい男がいるだろう。俺に執着するなよ」

「そ、そんなこと言われても他の男なんてみーんな嫌いよ。嫌な目つきであたしをなめ回すだけ、あの目が嫌。世の中からあんた以外の男がいなくなればいいと何度思ったかわからないのに、どうしてもだめなの?結婚してくれなくてもいい。今晩だけ、ね。お願い今晩一晩だけあなたの奥さんにして、お願い、お願い、お願い………」


そういって明美は泣き崩れて聡の両膝にしがみついてくる。聡はそっと優しく明美の背中を撫でるしかほかなかった。



聡は考える。

今彼女とそうなったとしても真理に黙って居れば問題ないだろうか?二人の関係に変わりがあるだろうか?それに一度だけでいいなら思い切り抱いてしまってもよいのではないか?このままでは、ここまでこじらせたらいつストーカーになるとも限らない。

 ここで結ばれてもいいのではないか?結婚しているわけでもない。真理とも結婚は口約束だ。だが若い人がする口約束とは重みが違う。真理とその子供との二人に対しての責任があるのだ。



 手を出すことは簡単だろう。黙って居ろといえば明美は黙って居るかもしれない。しかし、なにかの拍子にこのことが表沙汰になれば自分は今度こそ全てを失ってしまうだろう。そのリスクを犯してまで明美を抱くことは無理だと結論づけた。



「いいか、おまえが俺のことをどれだけ好きでも愛してもかまわない。だけど俺はおまえを愛することはできない。すでに心のど真ん中にお前以外の女性がいるからだ。本当に俺のことが好きなら、愛する男を困らせるより笑顔で送り出してくれないか?頼む」



 明美は顔をあげて聡を見つめる。だんだんと落ち着いてきたのろう。目の色が通常の色に戻ってきた。せめて真理とああいうことになる前だったら明美と付き合っただろう。全ては時間の悪戯。だが明美と付き合っても心の真ん中には真理がいるのだ。いずれにしてもいつか破綻していたのだろうと思う。



「俺はこれで帰る。今日の事は誰にも言わない。だからお前も誰にも言わずに心の内に仕舞っておいてくれ。わかったな?」

こくこくと明美は頷いた。



「それじゃ俺は帰るから。これ少ないけど部屋代にしてくれ」

そういって聡は財布から2万円をだしてテーブルの上に置くと部屋を後にした。追いかけてくるかと思ったが、明美は諦めたのか追いかけては来なかった。



 聡はホテルを足早に出て大通りまで歩いて行くと空車のタクシーが通りかかったので行き先を告げて自宅に戻っていった。





 家に帰ってシャワーを浴びてからリビングのソファーに座って聡は目頭をもみほぐす。あまりにも強烈な三田明美の告白だったからだ。ストーカー化しなければいいなと思ってみても相手のすることだ、何をしてくるかわからない。しばらく真理と逢うことも控えた方がいいのかもしれない。真理にも三田のことを話しておいた方がいいのかもしれないと思った。真理のことをうらやんでいる発言もあったからだ。そこにきて聡と真理が結婚なんかしたらどう問題を起こされるかわからない状態だった。普段はあの異常な気持ちは上手く制御出来ていると信じるしかなかった。




 その後、三田明美からの異常な行動は何もなかったのでほっとする聡だった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 今回の真理との逢瀬はJRのとある駅だ。真理が普段は利用しない駅という条件で探している。知り合いにはよほど運が悪くなければ逢わないだろうという思惑からだった。



 聡と真理はいつもの如く駅前のラブホテルを選択し部屋に入っていく。シャワーを浴びるが今回は一緒に入ってみた。泡まみれになって二人で笑い転げた。50になってもスタイルの良い真理はとても高校生の子供が居るとは思えない体だった。決して巨乳ではないがそのスタイルと相まって手にすっぽりと収まる揉みごごちのよい胸だった。



 ベッドにいって愛の交換を行う。その後、腕枕をして色々な話をするのが楽しいのだ。真理は頭を聡の胸に乗せて聡の呼吸に自分の呼吸を合わせる。そうすると穏やかな気持ちになれる。前夫とは決してそんなことにはならなかった。嘘か本当かはわからないが、今お互いに苦労を乗り切って幸せになろうとしているのだ。野暮なことは言うまいと黙って背中をさする聡だった。



「それでね、先週うっちゃんとか森山と俺の離婚祝いってことで○○ってレストランで食事をしたんだよね。そこに三田もきていてさ。解散したあとファミレスで色々話を聞いたんだけど凄い話でね。驚かないできいてほしいんだけど。三田は俺のことが好きだったみたいだ。真理ちゃんは知ってた?」


「うーん、なんとなくそうかなぁとは思ってたけどはっきり聞いたわけじゃないよ。一応親友だと思って付き合ってきたから色々な話は聞いてるけど、がんとして好きな人のことは言わなかったからね。人間嫌いな人だとは思っていたけど好きな人まではわからなかったかなぁ」



「そうなんだ。それで今日一日だけでいいから奥さんにしてくれて言われてさ。断ったんだけどどうしてもって泣きつかれてね。話を聞いてあげてなんとか俺の事は放っておいてくれって頼み込んで帰ってきたんだ」

「えっー、みたんご(三田)が?酔っ払ってたんじゃないの?聡さん!ま、まさかやってないよね?」

「やってねーよ。何いってんだよ。俺は真理ちゃん一筋だっていってるだろう。三田は好きか嫌いでいえば好きな人間だけど、愛する人ってのとはちょっと違うんだよな。俺の心のど真ん中には真理ちゃんしかいないのに…」



「うん、そ、それはわかるけど、ほんっとにやってないよね?」

「やってないよ。本人にきいてみてもいいよ。指一本触れてないよ」

「よかった。聡さん。浮気は許さないからね。ダメよ。私以外の人とそういうことしちゃ。いい?したくなったらいつでもワタシに言うのよ?わかった?」

「わかったよ。真理ちゃんに連絡していつでもセックスしてって言うから(苦笑)」

「わかればよろしい。本当に嫌なんだからね。もう離れたくないんだから…」

「ごめんよ。まじ、本気で俺は真理ちゃんだけだ。わかってくれよ」

「ゆるすのはもう一回してからかな?(笑)」

「わかりました。アム○いっきまーす(笑)」

そうして二人は部屋の時間延長をするのだった。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 今年の年末年始は、去年同様一人きりではあったが去年の離婚騒動で打ちのめされた時とはまったく違って、心に明かりが灯り、来年になったら真理と入籍できるんだという希望を胸に抱いているせいか世間の風の冷たさにもめげない時間を過ごせている聡だった。



 去年、同窓会をやった影響かもしれないが、年明けに内山ことうっちゃんから新年会のお誘いが聡にあった。



「あけましておめでとー。今年も宜しく。ということで4日に飲み会やるからおいでよ」

「あー、うん、誰が来るのさ?」

「今度は男だけだよ。森っち(森山)ときーやん(菊池)とひーちゃん(白川)かな」

「そっか。なら行くよ。場所は?」

「駅東の○○って居酒屋でよろしく!」

「りょーかい、皆に宜しく」



 こんな感じでのんべぇで酒好きのうっちゃんから聡には毎度の如くお誘いがくるようになった。

 30数年一度もなかったことが同窓会をきっかけに色々動き出したみたいで少し楽しくなったのは事実だった。



 家に帰っても一人の寂しさは未だに独身のうっちゃんも自分と同じようなもんかなぁと漠然と思っている聡だった。






 4日の夕方、指定された駅東の居酒屋にいくとおもったほかに盛況でほぼ満員の状態だった。誰でも考えることは同じなのか。6日の仕事が始まる前に楽しく最後の休みを過ごしたいのかもしれなし、親戚や遠方に居る家族がきて飲みに来ているのかもしれないなどとあれこれ想像して楽しむ余裕ができた聡だった。



「では、かんぱーい!!」

そういってうっちゃんが音頭を取って飲み会が始まった。最初はたわいのない話でお互いの近況を話していった。



 もりっちこと森山は去年の同窓会で聡の隣に座ったN協の課長さんだ。相変わらず勤勉に働いているらしい。冬にオートバイで顧客巡りをするのは流石にしんどくなったといっていた。



 きーやんこと菊池は聡と同じ高校だったが卒業してからはほとんど交渉がなく現在何をしているのかも聡は知らなかった。大学卒業後、東京で働いていたが数年前にリストラで地元に戻ってきて今は営業をやっている。奥さんと大学生の子供がいるとのことだ。



 ひーちゃんこと白川は、昔はよく家にいってギターを弾いたりして遊んだが、高校が別の区域の工業高校にいったためまったく聡とは没交渉だった人間だ。うっちゃんは付き合いが広いせいか、社会人になってからもつきあっていたようだった。彼は結婚が遅く子供さんはまだ中学生と高校生らしかった。いつ自分が死んでもいいように多額の保険金にはいっているといってた。これから二人を大学生にするには大変だろうと他人事ながらため息が出てしまった聡だった。





 そんなこんなで話があちこちに盛り上がったなかでたまたまうっちゃんと聡と二人きりになった時に聡はどうしても謝りたいことがあったのでそれとなく他人は聞こえないように内山に話しかけた。



「なあ、うっちゃんよ。実はさ…謝らないといけないことがあってさ」

「なんだい。きりちゃん」

「社会人になって3、4年目ぐらいのときにうっちゃんが一緒に遊びに連れてきた○○市の女の子いただろう。もう名前も忘れちゃったけど」

「あーいたねぇ、佳子よしこちゃんだよ」

「実はうっちゃんに内緒で一時期付き合ったんだけどさ。結婚する人じゃないと思って別れたんだよね。あのときうっちゃんが狙ってたと思ってたからいつか謝りたいとずーっと思ってたんだ。ごめんよ」

「なぁんだそんなことかぁ。佳子ちゃんはさぁ。自分も結婚する女性とは思えなかったから結局付き合わなかったんだ。気にしないでいいよ。縁がなかった女性だと思っているしね」

「そ、そうか。やはり誰でもそう思うんだな。一緒にいて面白かったんだけど、家庭に入る女性とは思えなかったもんなぁ」



「うん、うん、それよりきりちゃん。三田さんとなんかあった?」

「いや、特にはなにもないけど、どうして?」

「今日も誘ったんだよね。そしたら行かないっていってきたからさ。去年のレストランで二人っきりで残ったじゃないか。多少は気になってたんだよね」

「ああ、あれね。ほんっとに何もなかったよ。ファミレスで昔話して三田さんが泣いちゃったからね。それで直ぐタクシーで帰ってきたし」

「そっか、三田さんあのあとすっごく落ち込んでるっていってる人がいたからね。ちょっと気になってさ」



「ああ。それはそうと、思い出したんだけど昔、大学生の頃、三田さんとか佐山さんとかと皆で海にいったよね?その時うっちゃんの指示でなぜ俺が佐山さんの迎えばかり行かされたんだ?」

「それはぁ…三田さんに頼まれたのさ。佐山さんがきりちゃんのこと好きみたいだから便宜を図ってくれって言われてさ。確かあのころ森っちやきーちゃんも佐山さんを好きっていってたから悩んだんだけど自分から見て似合うのはきりちゃんだと思ったからそうしてみたんだけど何か問題でも?」

「い、いや。それならいい。」



「去年の同窓会で佐山さんと話してたみたいだけど何かあった?」

「いや何もないよ。あの頃の俺は佐山さんとはどうやっても付き合えなかったからね。ちょっと気になってさ…」

「なーんか隠してるっぽいけど。まぁいいや。いずれきちんと話しておくれよ」

「ああ話せるようになったちゃんと報告するよ」



 そんな約束をしながら新年会はお開きとなった。


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