4.新しい出会い
去年とはうって変わって寂しい年末年始を一人で迎えた聡は、一人は楽だが寂しいもんだなと独り言を言った。東京に居る娘の泉からは帰省しないとメールがきた。元妻の伸江にあることないこと吹き込まれてしまっているのだろうと思い放っておくことにした。もう大人なのだからあまり干渉しないことにしたのだ。
図らずも去年は激動の年になってしまった。正月明けの3日に今年こそは良い年になりますようにと近所の神社に初詣にいった聡の携帯に佐山真理からメールが入った。4日に里帰りするので会えないかというメールだった。聡は二つ返事でOKを返した。すると4日の夕方、駅の反対側のファミレスで待ち合わせることになった。その返事に了解を返すとやけに心が浮き浮きとしてくる聡だった。
彼女のことが中学の時から気にはなっていた。学年一番の美少女の三田と一緒にいても遜色ない美少女だったのだ。当時わかっているだけで彼女が好きだという男子は両手でも足りなかったのだ。
しかし、聡は隣町の進学校に彼女は遠くの市の県で2番目の女子の進学校にいくことになり離ればなれになってしまったのだ。
それから会うこともなかったのだが、大学生になった夏休みに内山ことうっちゃんから海にドライブに行こうと誘われて待ち合わせ場所に父親から借りた車で行くとそこにいたのは学年一番の美少女だった三田と佐山真理の二人だった。うっちゃんとどういう繋がりがあるのかわからなかったのだが驚いた。
当時ある理由があって聡は真理に告白できなかったのだが心の思いとは裏腹に表面は取り繕わなければならなかったことが聡には苦しかった。
それが今二人っきりで会えるのだ。あの時に時間を戻したと切実に願っている聡だった。
4日の約束の時間にファミレスに行き店の中を見渡すと手を挙げる佐山真理がいた。店員に待ち合わせだと一言声を掛けて真理の待つテーブルへと歩いて行く。大通りに面した一面が硝子張りの見晴らしのよい場所のテーブルだった。
「ごめん。待たせたかい?」
「ううん。大丈夫。私もさっき来たところだから」
聡は水を持ってきた店員がメニューを置くのと同時にドリンクバーを頼んだ。真理は抹茶ミルクティを飲んでいたので聡はドリンクバーにいって自分の飲み物を選んできた。
「早速だけど何か進展はあった?」
「うん。教えてもらったように興信所に依頼して証拠を取って貰った。年末までに3回ばっちりだったわ」
「そうか。それはよかった。弁護士は?」
「それも大宮で直ぐ見つかったのでお願いすることにしたの。女性の弁護士さんだから安心できるしね」
「そうか。気にはなっていたんだがよかったよ」
「ありがとう。そういってもらえるだけで助かるわ」
「それで…離婚できそうか?」
「うーん。厳しい感じね。夫が断固拒否ってるんだ。弁護士さんいれても協議だと無理かもしれないみたい。調停になるかもね」
「何がそんなに反対なんだろうね。もう夫婦としてやっていけないんだから諦めればいいのにね」
「そうよねぇ。プライドなのかしら?」
「うーん、俺のものは俺のものってジャイアニズムかも(苦笑)」
「それはあるかも。我が儘だし、自分がいなかったらお前は生きていけないとかふざけたこといってくるしさ」
「酷いな。録音してDVで訴え出来るんじゃないか?」
「うん、弁護士の先生にも言われてしっかり録音してるよ」
「しっかりした弁護士さんみたいで安心したよ」
「桐山くんのほうはなんかあった?」
「ああ、俺は離婚されたよ」
「ええっ!!本当に?」
「ああ、本当さ。12月に緑の紙を突きつけられて強制的に離婚だって言われてさ。弁護士さんに作って貰ったって言う資産一覧を見せられて家を渡すから現金寄越せって貯金の200万円もっていかれて離婚したんだ」
「それってひどくない?」
「まあ何もなければそれでいいかなと思っていたんだけどさ。実は…妻、おっと元妻の伸江って女は不倫してたんだよ。それで証拠があったから年末に反撃して間男と伸江から慰謝料をがっぽりせしめてやったのさ」
「やったねっ!流石桐山くんだよ。そうこなくっちゃ。昔から一匹狼でかっこよかったもんね」
「何もかっこよくはないだろう。妻に不倫されて捨てられた哀れな男だよ…」
「そんなことないよ。哀れじゃない!私…未だに好きだもん……」
「えっ!まりちゃん。今なんて言った?」
「なんでもないよ。忘れてっ!」
「忘れないよ。中学の時から俺はまりちゃんのことがずっと好きだったんだ。高校が別々になって会えなくなってあの頃はそれが人を好きになるってことだってわからなかったんだ。高校の時、同じ中学から進学してきたきーやんとか森山とか川合とか覚えているかなぁ。あいつら全員まりちゃんのことが好きだったんだよ。ある日、好きな人告白大会みたいになってさ。皆がまりちゃんのことが真剣に好きだっていいだして、俺もっていうのが恥ずかしくて黙っていたんだ。そしたら誰がまりちゃんと付き合っても恨みっこなし。逆に手伝いをするって男の友情ってやつでスクラム組まれて言い出せなくなってさ」
「そんなことやってるんだ。男子ってやっぱり馬鹿ね(苦笑)」
「それで大学の時うっちゃん達と海にいく時まりちゃんの家に俺が迎えに行かされたんだけど嬉しかった反面、森山とかきーやんたちと約束を破るわけにはいかなくてさ。まりちゃんに告白できなかったんだ。今は後悔しているよ。あの時俺がもっと強くてまりちゃんにこくっていたらどうなったんだろうかと昔から考えていたんだ」
「なんか複雑だねぇ…」
「会社に入って3年ぐらいしてまりちゃんの妹さんが偶然同じ職場になったんだよ。そのときの飲み会でうちのおねーちゃんは桐山さんのこと好きだったのに-って言われてさ。好きだったってことと【だった】って過去形にまいっちゃってね。そのころはもう結婚しようとしていた時期だったからショックを受けてね。両思いだったらきちんと告白しておけばよかったと後悔したのさ。それで俺はその日の夜どうしたと思う?」
「えっわかんないなぁ」
「夜中に高速道路をかっとばして時速160kmだして警察につかまったんだよ。もうやけくそだった。警察官から160kmは自殺行為だよ、あんた死にたいのか?とお叱りをうけたよ。結局免停180日と罰金9万6千なんぼで裁判所いって支払うんだけど金がなかったんで父親にかりて支払ってきたんだ。それで元妻の伸江と出会って結婚しちゃったんだ。馬鹿な男だろう?」
「馬鹿だよ。きちんと確かめてくれたらよかったのに……そしたら二人とも違った未来があったかもしれなかったね……」
「……ごめんよ。俺がもっと強かったらお互いに厭な思いをしなくてすんだのにさ」
「ううん、それはあたしもだよ。いっつも勇気が無くて声を掛けられなかった。桐山くんがみたんご(三田)と気軽に話しているのをただ側で見てただけだった。あたしだって勇気を出してたらって未だに思うよ…」
「それで思い出したんだけどさ。中学卒業の前に高校受験でお世話になった塾に皆で挨拶にいったよな。その帰りにまりちゃんは道路の脇の小さな縁石にのって両手をこうバランスとるように横に広げて歩き出したんだけどその時俺の手を握って歩いていったんだよな。忘れていたのを今思い出した。もしかしてもうあの頃から好きだったのかい?」
「…言わせないで。わかってるでしょ。」
「・・・あの時もそうだった。みたんご(三田)から聞いたんだけど大学受験で予備校の夏期セミナーにみたんごがいったら同じクラスに桐山くんがいて、よって声かけられたってきいて、自分もいけばよかったって思ったし、大学の時、いろんな人に誘われたけどいつかは桐山くんが声を掛けてくれると思ってずっと断っていたんだ。でも結局きてくれなかった。責めてるんじゃないよ。誤解しないでね。それだけ思っていたってこと。わかってもらえるかな?」
「ああ、未だに心のど真ん中に君がいる。去年の同窓会でまりちゃんを見た時に心の奥が痛くて痛くて仕方なかった。お互いもう結婚して子供も居る年になった。青春の痛い思い出で死ぬまで黙っているつもりだった。だけどもう我慢する必要はないね」
そういって聡はテーブルの上の真理の手を両手で握った。真理はしっかり聡を見返して頷いた。そこから先はお互いにまだ踏み出せないと二人の間に暗黙の了解があった。まずは真理の現状をなんとかしてからではないとダメだと二人とも思っていたのだ。
またメールは必要最小限にして基本的には電話でやりとりをすることと会うのは離婚が成立してからにしようと二人はお互いに線引きをした。
その後はしばらくたわいもない会話をして既に夕食の時間になったで料理を頼んで子供のことや同窓会で知った同級生の話題で盛り上がり20時になったので真理を車で実家まで送り届けて聡は自宅に戻った。
その一部始終をカメラが撮影していたことなど知るよしもない二人だった。
その夜、実家に帰った真理は寝る準備をして客間に用意された布団に入ると今日のことを思い出した。
あんなに好きだった人から自分も好きだといってもらえたのだ。もしがあれば一緒になっていたのは今の夫ではなく彼とだったのかもしれない、そう思うと眠れないほど胸が苦しくなる。
もし、離婚が成立して彼が一緒に住もうといってくれたらどうするか考えてしまう。長女の由佳は離婚すれば自分に着いてくるだろう。特段問題のある母親ではなかったので普通に考えれば父親といるよりは自分のほうにくるはずだと思う。しかしまだ高校2年生だから今いっている学校に行かせてあげたいと思うとしばらくは埼玉の今の住所にいたほうがよのかと思う。自分の仕事は大宮だからよしんば彼の家からでも通うことができる。却ってJRの駅には近いし、JR一本で大宮にいけるのだから便利になる可能性もある。由佳にも埼玉大学あたりに入ってもらえれば余裕で通学できるはずだ。そんなことを考えているとあっというまに睡魔に襲われ、翌日母親に起こされるまでぐっすり安心して眠ってしまったのだった。