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2.突然の離婚

 同窓会のあった次の日は日曜日だったため聡は心置きなく寝ていることができた。妻の伸江は仕事にいったようで聡がおきると朝食の用意がしてあり既に家には誰もいなかった。


 聡は昨日の真理の話を思い出す。夫に浮気され困っている真理。彼女に対してなんとか役に立ちたいという思いと、30年ぶりにあった真理の昔と変わらない姿に改めて心の中を占めている真理という女性との思い出に胸が苦しくなってくる。



 もしあの時自分がもっと強気で真理を押し倒していたら、真理と結婚していたらどうなっていただろうかと考えると胸が苦しくなってくる。人生にもしもはないが、もしも彼女と結婚できていたら人生はまた違ったものではなかったのだろうかと思うと涙がでてくるのだった。



 聡にも浮気について思い当たることがあるのだ。それは妻の伸江が数年前から浮気をしているのではないかという疑惑だった。だがなんの証拠もなく疑うことしかできなかった。

 そんな自分と真理を重ね合わせて見てしまうのだった。今の聡なら100万円ぐらいの調査費用だったら支払いできる。思い切って調べ見る必要があるのではないかと食事をしながら漠然と思っていた疑惑に対する回答を得たような気がしたのだった。





 妻の伸江は短大を卒業して地元の会社に就職してOLとして働いていた。会社の先輩の合コンで知り合いになり、1年間付き合って聡からプロポーズして伸江が23歳の時に結婚した。一年後に娘の泉が産まれ会社は退職してしばらくは専業主婦をしていたが、子供が小学校にあがってからパートに出るようになり10年前38歳の時に今の化粧品販売会社に勤めだした。



 娘は自分の子供だと思えるしあの頃のラブラブっぷりは嘘でも浮気なんてできない状態だったと思えるのだが、化粧品販売会社に勤めだしてから数年して夜がレスになってからどうもおかしいと思える行動が増えてきたのだ。



 妻の伸江は40歳を過ぎた辺りから子宮内膜症と言われ治療を1年ほどしていたのでその時はレスだった。それまでは週に2、3回あった夜の生活もまったくなくなっった。病気なのだからと諦めて治るのをまったのだが、治療が終わっても行為をすると次の日あそこが痛くなるからやだと言われてそれ以来セックスレスが5、6年続いている。



 もうすぐ50になる聡も若い頃のように毎日求めるわけではないが、しなくても一緒に抱き合って寝たいという欲求はあるのだが、妻の伸江からは完全に拒否られている状態だった。



 そして疑惑は下着にあった。やけに薄手のハデな下着が増えたのだ。昔はおばさん用のブラとパンティだといって笑っていたのだが、疑惑以来、下着を聡に見せることはなくなったし話題にもでなくなっているのに、下着入れには新しい下着が増えていっている。

 またここ4、5年は仕事だといって夜遅くに帰ってくることも増えた。特に娘の泉が大学を終わって家を出て夫婦二人きりになったのに聡よりも仕事を優先にしている伸江の態度に不信感を持っているのだった。



 同窓会で真理と話していて男と女が逆ではあるが、真理の夫の不倫と自分の妻の不倫がクロスして他人事とは思えなくなっている聡だった。



 その日の夜も妻の伸江の帰りは深夜1時を過ぎていた。販売会社の仕事が21時まであり終わってから片付けをしたり明日の準備をしたりすれば遅くなるのは理解できるが、なぜ深夜1時過ぎるのか理解できない聡だが、敢えて今は何も言わずに泳がせることに決めたのだった。


(今に見ていろ。目に物見せてやる!)

そう決意して聡は決して伸江に悟られないようにあいつらに制裁をする固い決意をするのだった。



 人口6万人の小さな地方都市の田舎では都会と違って簡単に興信所も見つけられないしましてや弁護士などもおいそれとは見つけられなかった。なんといってもまずは証拠がないと話が進まないと相談にいくまえから分かっていることであったが、仕事の合間に興信所を探すというのは結構労力がいることで聡は半ば諦めている状態だった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 同窓会があってから3ヶ月ほど過ぎてその年も終わろうかという12月の最初の休みの日のお昼過ぎに妻の伸江から聡は離婚を切り出された。


「あなた、これを書いてください」

と家のリビングのテーブルで突きつけられたのは緑の用紙だった。


「なんで離婚届なんだ?」

「あなたの不実にはいいかげん厭になったのよ。これですっきりお別れしましょう」

「不実ってなんだよ。浮気したわけでもあるまいし、何を根拠に離婚なんだ」

「色々あります。弁護士さんをはさんでもいいのですが、それだとあなたに不利になりますからお情けで協議離婚にしてあげるのですから、文句を言わずにさっさと書いてください」

「おまえ。何をいってるんだ?ばかじゃないのか?いきなり離婚て言われてはいそうですかと判子をつけるか!」

「理由は沢山有りますよ。まずはセックスレス、もう5年近くなりますからこれも拒否されている証拠がありますのであなたの不利になります。さらに家事と育児の不参加。料理洗濯子育て全部私がやってきました。あなたは何もしていません。それらの証拠は私の日記に全部かいてありますので例え裁判になっても私の有利は変わりませんので、いい加減諦めて記入してください」

「なんだよ日記っておまえ嘘ばっかりいってるんじゃねーよ」

「ちゃんと弁護士さんにも相談してOKもらっていますので裁判になってもいいんですけどあなたが可哀相だから、おなさけ(・・・・)で協議離婚にしてあげてるのに。いい加減諦めなさいな」


 何をいってもこういう状態の伸江には無理だと長年つれそった聡は理解している。しかし、いきなり離婚だと責めだしていったい何があったというのだろう。


「おまえ、いきなり離婚ってなぜ今なんだ?理由をいえよ」

「もう何年も前から我慢していたんです。子供が生まれてすぐからもうあなたとの結婚を後悔していたんですよ。逆に今まであなたの面倒をみてあげていたのですからこちらがお礼を言われたいぐらいです!」


 そういって伸江は弁護士と協議したらしい我が家の資産一覧をテーブルにだした。そこには家の評価額から車の査定、銀行口座の残高など家の資産が一覧となっており財産分与の金額が最後に記入されていた。それによると家は聡にあずけローンの残りを聡が支払うことにしても資産とローンの返済残高と銀行の貯金を差し引くと妻の伸江へ最低でも200万から300万円を支払うことになってた。


「これで間違いないのか?なんでおまえにお金を支払わなくてはならないんだよ!」

「私とあなたで資産を二等分しても家は分けられないからあなたが取るとした場合です。私に家をくれるならこれは逆になりますけどね」

「ふざけんな。この土地は両親の残してくれた土地だ。上物は俺たちが立てたから理屈はわかるが、あきらかにおまえに有利に書いてあるじゃないか」

「じゃあ、これをもって弁護士さんにきいてみてごらんなさいな。どこにいってもこの通り支払いなさいっていってくれます。既にいくつか聞いて作って貰ったんですから間違いありませんよ」

「……」


「じゃあ、明日出しに行きますから今夜きちんと記入してくださいね」

「内容をきちんと確認するから待ってくれ。離婚するのは構わないが内容が確認したい」

「わかりました。来週まで待ちますのでなるべく早く記入してくだださいね」

そう言って伸江はリビングから二階の自分の寝室へと去って行った。



「くそ。先手を打たれたか…」

妻の伸江の不貞を暴くつもりが先に手を打たれてしまったことに聡は諦めそうになる気力を奮い立たせてイエローページから近場の弁護士を探し出して電話をしだした。しかし、今日は日曜日で弁護士事務所は休みなのだろうどこに電話しても留守電だった。今日は諦めて明日電話することにした。



 その日の夜からは冷戦状態になったので妻の伸江は一切家事をしなくなった。自分の洗濯だけをして食事の用意も聡の分は用意しなくなった。そんな中、聡は必死で弁護士を探しなんとか火曜日の夕方時間をとってもらって職場近くの弁護士に内容を確認したのだが、いい顔をされず、奥様の日記という証拠がある以上調停や裁判になったら勝ち目はないので今のうちにこの内容で協議離婚したほうがよいですというなんともやる気のない回答をもらって気落ちして家に帰ってきた。


 弁護士が言うのだからしかたないという諦めの気持ちで緑の用紙に記入して財産分与についての同意書を記入して妻の伸江に渡すことにした。


 最後の足掻きでゆうちょの貯金300万円ではなく200万円に減額をお願いしてみたところ二つ返事でそれでよいとの返事が伸江からきたのでその旨用紙を書き換えておいた。既に伸江はこの家では寝泊まりをしていない。どこかに部屋を借りたのだろうか。まったく妻がなにをしているのか行動がわからない聡だった。



 結局、家は聡の名義になりローンの残りも聡が支払うことになった。有価証券などはないため問題なし。車はお互いの今使用している車をもつ。家具は伸江が嫁入りで実家から買って貰った洋服ダンスなどは全部持って行く。家電もパソコン以外は冷蔵庫に電子レンジに42インチのTVなど全部持って行く。流石に家に備え付けのエアコンは諦めたようだ。そして肝心の郵貯の貯金は現金で200万円支払うことになった。これで残金は80万ぐらいしかない。来年の固定資産税などの支払いに必要な分は確保してあるが当初の通り300万と言われたらそれはどこかから借りてこなければいけなくなったお金であった。全て妻の伸江に押さえられているので今更聡がどうあがいても全て妻の思惑通りにしかならなかったのが現実だった。



 そしてその週の金曜日に休みを貰った聡は、伸江と二人で市役所にいって離婚届を提出しはれて独身になった。なんともすっきりしない別れであった。反対に浮き浮きと今にも天にも登りそうなぐらい満面の笑みで伸江は最後の一日を過ごして夕方には手荷物を乗せられるだけ自分の車に載せて自宅を去って行った。



 別れる前に聡が長女の泉にはなんていうんだと問いただすとあっけらかんとして、もう泉は知ってるから大丈夫よ、大人だし、と笑って手を振って去って行った。



 そして次の日曜日既に手配してあったのだろう引っ越し屋が自宅に来ると二階の寝室にあった伸江の荷物やあらかじめ決めておいた電化製品を根こそぎトラックに積んで嵐のように去って行った。残った荷物はゴミの日にだしてくれと伸江の伝言と沢山のビニール袋に入ったゴミだけが寝室に残されていた。


 ここで悔やんでいても仕方ないと聡は気力を振り絞り、隣の市の家電屋にいってもっていかれた冷蔵庫や電子レンジなど当座の生活に必要なものを購入して生活を安定させることに全力を注いだ。


 しかし、日に日に気力が失われ仕事場でも元気がないがどうしたんだと上長に気を遣われてしまったので、言いたくなかったが、離婚したことを報告して総務の事務処理をしてもらった。長年いる職場のため表だっては何も言われなかったが、お局さんをはじめとする女性陣からは影でひそひそ話をされているのは直接聞かなくてもわかってしまう自分に嫌気がした。



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