人の寿命が見える少女の話
自己紹介をしよう。
と言っても私は語ることもないどこにでもいる平々凡々な一般女子高生である。
あえて他人と違うところを一つ上げるとしたら、人の寿命が見えることぐらいだろうか。
どこが平々凡々なのだろうか、と思っただろうか?
少なくともここ最近までは私にとってそれは普通のことで当り前のことだったのだ。
当り前のことなので、特に他言することもなかったし、他人も自分と同じように見えていると思っていた。
誰が言ったか、自分が見ている青が他人とみている青と同じ色に見えているとは限らないとはよく言ったものだ。
だが、気づいてしまった。
親や友人たちとの関係も少しぎくしゃくして、今は思春期特有のなんたらかんたらだと勘違いしているみたいだけれど。勘違いしているうちに何とかしないと、と思うとため息が出てくる。
「にゃー」
何やら足元からかわいらしい声が聞こえてきた。猫だった。
よう、嬢ちゃん。そんな憂い顔でどうしたんだい? せっかくのかわいい顔が台無しじゃないか。と励ましてくれているのだろうか? きっとそうなのだろう。
夕暮れ時にフィッシュバーガーを食わえて、黄昏ているせいでは決してない。と思いたい。
「なんだね。猫さんや。どうしたね?」
どこかの家猫なのだろう。首輪がしてある。おそらく御主人様のところでもその愛らしい姿で同じように催促しているのだろう。
人の寿命は見えるがそれ以外の動物の寿命は見えない。自然と少し心を許せるような感覚になる。そうだな、ペットを飼うというのも一つ選択肢なのかなぁとぼんやり考えていた。
「あのー、猫、好きなんですか?」
その声は少し上ずっていた。緊張したようなそんな感じだ。
声をかけてきたのは制服姿の男子だ。顔はイケメン、ではなく。あえて言うなら普通。
中肉中背、本当に特に語るべきところもなかった。
普通じゃないのはいつも見えている寿命が見えなかったことくらいだ。
もしかしたらこの男子も私と同じように人の寿命が見えるのかもしれない。だから、同じ能力者同士の寿命は見えない。とかいう設定なのかもしれない。
確かそんなのがどっかの漫画にあった気がする。漫画侮れず。
「僕も猫好きなんですよー」
男子はにかりと笑った。どうにも悪意があって、近づいてきたようではないように思える。
それからどうでもいい話をした。好きな猫の種類とか、猫の豆知識とか、最近暑いねとか、本当にどうでもいい話だけをして別れた。
次の日、同じ時間、同じ場所に行くとまた彼と会った。偶然にもだ。
それから、またどうでもいい話をした。通り雨は困るとか、お気に入りの傘をなくして悲しいとか、好きな色とか、折り畳み傘で気に入ったのが見つからないとか、そんな話をした気がする。
そのまた次の日・・・
それから幾日が過ぎた。
フィッシュバーガーのタルタルソースの重要性を語っていた時だ。
彼が「そろそろ」少し申し訳なさそうに「お別れだね」と言った。ああ、少し熱く語りすぎた「もう戻らないとだから」かと思った。「・・・そう、じゃあ、また」彼は首を振った。
彼はやはり少し申し訳なさそうに笑った。私は泣いた。
泣いて、それから一人になって、いや初めから一人だったのだろうけど、また来年。
またお盆が来たら、また会えるのかなと少し思って、また泣いた。
こうして私の初恋は終わった。