それは白く
人は幼い頃、よく空を見上げるものだ。
だが人は、いつしか足元ばかり見るようになるものだ。
人は幼い頃、よく夢を見るものだ。
だが人は、夢を追いかけるあまり、時折へんな方向に走ってしまうものだ。
たとえそれが遠回りであろうと、一度決めた方法で、人は夢を叶えようとするのだ。
そして夢が叶うとなれば、人は、どうなったってかまわないと思うようになるのだ。
哲学者 キシャー・ポッポー
◇
白い雲はいつ見たって美しい。
……でも、本当にあのような白なのか? 濁りなき、純白なのだろうか?
思春期に浮かんだ僕の疑問はそのまま夢となり、僕の人生を変えることになった。
それを確かめる方法は、中学校の頃に思いついた。今まで誰も試みたことがないであろう、とんでもない名案だったが、心が躍った。
ノーベル賞という言葉を知った高校時代、僕はそれがとれるんじゃないかとさえ思っていた。秘密のノートに設計をして、ほくそ笑んでいた。
僕は夢を叶えるために努力を続け、かなり有名な理系大学に入った。ここまでくれば夢を叶えられそうだ、と自信に満ちていた。
大学では特に流体力学をよく学び、サークルは人力飛行機を造るところに入った。鳥人間コンテストでは見事入賞し、モチベーションが更にあがった。
四年次には小型の風力発電機を造る研究室に入り、流体のことだけでなく機械のこともよく研究し、実験装置を何台も造った。成果を発表した学会では拍手喝采だった。
教授に推薦されたこともあって、内定はすぐにもらえた。流体機械系じゃ有名どころだった。もうすぐだった。
僕は会社で仕事をこなしつつ、自分の夢を叶えるための研究を怠らなかった。
――――そしてついに、僕の夢を叶えることができる装置は完成した。
小さなプロペラのついた、手のひらサイズの機械。
それは今まで僕が学んできたことをすべて積み込んだ結晶だった。最高傑作だった。
早速、僕はその装置を持って、最寄駅に出かけた。
人混みの中、僕は人の足元ばかり見ている。
マークしていたひとりの女子高生が階段を昇り始めた。
僕はその子の後ろにつき、手を伸ばして装置を構え、起動した。
――――あぁ、白かった。
夢は叶った。
僕は逮捕された。
天才は時折馬鹿をやる。