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ふでばこせんそう

「俺が一番だ」


 誰かがそう言ったのが事の始まりでした。


「ならば己の利点や自慢できる部分を各々述べていこうじゃないか。皆を"ははぁ"と言わせた物が一番としよう」


 その案に異議を唱える物はいませんでした。


「よぉし、んじゃまずは俺からだな。見ろよこの三十連式速射砲を! こいつで止められない物なんてこの世に存在しないぜ!」


 ホッチキスはカチカチと言いました。


「なにを言ってるんだねキミは。三十連発できるからといっても毎回一発で決められないじゃないか。そんなのは資源の無駄だ。

 見たまえこの我輩の体を! 我輩はこの世に存在するあらゆる物を正しく測定できるのだよ。正確さにおいては誰にも負けまい!」


 定規はピピーンと言いました。


「はぁ? まったく測るだけの能力なんて不必要よ。ほら見てよ、私の美しい形。

 この体をもってすればこの世に切れない物なんてひとつもないわ。どんなに見栄えの悪い物でも美しくしてみせる自信があるわ!」


 はさみはシャキシャキと言いました。 


「へぇ、切るだけだなんてどうしようもないなぁ。おいらは君が切ったどんな物でも元に戻すことができるんだぞぉ。この世に元に戻せない物なんてないんだぞぅ!」


 のりはペッタペッタと言いました。


「まったく、おまえさんはくっつけたってすーぐにはがれちまうじゃろ? 詰めが甘いわい。

 なんと言っても主役はわしじゃろう。太古から存在する由緒正しき物でな、わしゃ長い間愛されてきた、この世で一番じゃ!」


 鉛筆はカキカキと言いました。


「ヘイヘイ、爺さんよぉ。考えがちっと古いんじゃねーのー? そっちは限界があるだろ?

 オレは最新式でさ、この世で永遠に文字を書き続けることができるんだぜ!」


 シャープペンシルはサラサラと言いました。


「ふん、書けたからってなんだ。あんたらが書いた文字なんてあっしがあっという間に消してみせらぁ。

 この世に消せない物なんて存在しないにちがいねぇ」


 消しゴムはゴッシゴッシと言いました。



「いい加減にしなさい」

 

 突然、どこからともなく声が聞こえてきました。


「あなた達の考え方はどれもこれも自己中心的で愚かしいものです。もっと自分の立場をわきまえ、他の物を讃えなさい」


 謎の声に誰もが耳を疑い、耳を傾けました。


「ホッチキス。この世には止められないものの方が多いのですよ。まずあなたはその傲慢な口を止めなさい」


「は、ははぁ……!」


「そして定規。勘違いしているようですが、この世には測れないものの方が多いのです。まずは自身の力量を測れるようになりなさい」


「は、ははぁ……!」


「それからはさみ。切っても切れないものなんてこの世には山ほどありますよ。あなたはもっと頭が切れるしっかり物のはずです、よくお考えなさい」


「は、ははぁ……!」


「それとのり。一度離れてしまえば二度と元に戻らないものもあるのです。そして闇雲になんでもかんでも元に戻そうとしてはなりません」


「は、ははぁ……!」


「それに鉛筆。あなた程の物なら第一にこんな争いを止めるべきでしょう? いつまでも過去に囚われないようにしなさい。時代は常に流れているのですから」


「は、ははぁ……!」


「シャーペンよ。軽々と口にして良い事と悪い事があるのですよ。永遠なんてものはどこにも存在しないのです。あなたが言っている事はただの妄言です」


「は、ははぁ……!」


「最後に、消しゴム。この世には消して良いもの、ならないもの、自然と消えゆくものがあるのです。一度消したら戻らない、そんな重要な事を担うならばもっと責任をもつべきです」


「は、ははぁ……!」


 こうして誰もが姿のわからない声の主に頭を下げました。


「……まったく。誰もが一番、一番、一番――だなんて無意味な争いです。なにしろあなた達すべてを包容できるこのわたくしがすべてにおいて一番なのですから」


 言いながらついに声の主はゆっくりと現れました。


『は、はは――――ハァ!?』


 次の瞬間、姿を現した声の主は、三十連ホッチキスでところ構わず止められ、定規で何度も叩かれ、はさみでちょんぎられ、のりまみれにされ、鉛筆とシャープペンシルに突かれ、消しゴムのカスだらけにされました。


 こうして、この世で一番傲慢だった筆箱はズタズタにされましたとさ。




 おしまい。

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