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鬼っ娘温泉へようこそっ! ~ 高校生若ダンナとオニヨメ候補たちがナンバーワンへ成り上がります!  作者: Swind/神凪唐州
第二章 ユウマ、鬼っ娘たちと宿の営業を準備する

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3 仕事をみんなに割り振ります

 お吸い物のお代わりを運んできた俺は、配膳をしながら三姉妹に声をかけた。


「さて、すっかり料理が盛り上がっちゃったけど、改めて旅館の仕事について説明しますね。

 旅館の仕事を大きく分けると仲居、調理、営繕、帳場、そして営業の5つ。

 まずは、仲居の仕事。こちらはお客様のお出迎えからお見送りまで対応する、宿の顔ともいえる仕事です。たぶん一番イメージがしやすい仕事じゃないかな?

 お客様への料理の配膳はもちろん、うちみたいな小さな宿の場合には部屋作りや布団の用意をするのも仲居の仕事の範疇になります」


「まぁ、何となくは分かる話ね。ただ、部屋作りって要するに片付けとか飾り付けのことでしょ? それも仲居の仕事になるの?」


 ユモトの疑問に、俺は首を縦に振って答える。


「大規模なホテルや旅館などはそれぞれに専門スタッフを配置することが出来るけど、うちみたいな小さな宿では一人で何役もやらないと回んないのよ。それに、仲居の仕事は『お客様へ居心地の良いおもてなしを提供する』ということって考えれば、部屋作りから責任を持って自分でやった方がいいというのがうちの古くからの考え方ってのもあるんだよね」


「なるほどねーっ。で、次は?」


「次は調理。これは分かりやすいですね。朝・昼・夜の食事の用意がメインの仕事です。外から料理人を招いていた頃はお着き菓子やお土産品も作っていたりしました」


「おつきがしって、おつきさまのおかしなのですー?」


 今度はミササが田楽(あまりに美味しそうに食べているので自分のを1本分けてあげた)を頬張りながら質問してきた。

 可愛い発想だ。うんうん。でも、残念ながら……俺は、首を横に振りながら説明する。


「うーん、それとはちょっと違うんだなー。お着き菓子というのは、お客様が到着されて、お部屋に入った時にお出しするお菓子のこと。お饅頭とか、ちょっとした和菓子とかが多いかな?」


「おまんじゅう……私はケーキのほうがすきなのです……」


 まぁ、仕方が無いかな。ケーキも美味しいけど、やっぱり和の雰囲気は大事にしたいしね。

 でも和洋菓子とかだと面白いかもしれないな。よし、今度考えてみよう。


「まぁ、お着き菓子をどうするかはまた改めて相談するとして。

 3つめの仕事は営繕。お部屋以外の館内の掃除や、いろんな設備の点検なんかがメインかな。うちも人を入れていた時はお風呂掃除も営繕の仕事にしてたらしいよ」


「裏方のお仕事ですわね。でもこういうところが大事なのですわよね?」


 俺の話を静かに聞いていたアワラが、つぶやいてきた。

 まさにその通り。目立たない仕事だが、実はこの部分が非常に大事なのだ。

 さすがはお姉様、わかってらっしゃる。


「その通りです。営繕が行き届いている宿はやっぱり気持ちいいですしね。ただ、脚立に上って電球を取り替えたり、重い荷物を運んだりすることも多いので、やっぱり体力がいる仕事かなー」


 そう答えながら、俺は何気にユモトへ視線を送る。

 いや、別に深い意味はないぞ?


「4つ目は帳場。入口のカウンターでのフロント業務だったり、帳簿付けやお金の管理を担当するこれまた大事な仕事だね。うちの場合には、予約の受付も帳場の扱いだったかな。

 で、最後が営業。いろんなサービスを考えたり、イベントの企画、宣伝なんかが主な仕事かな。旅行代理店さんとの折衝も営業の大事な仕事になるね。うちのクズオヤジなんかはこれをメインに担当してたかな」


 とはいっても、営業と称して旅行代理店の連中と呑み歩いてただけだがな!

 あ、リューオウのオヤジさんとはそん時に知り合ったのかな?


「しかし、こうやって並べてもらうと、めっちゃくちゃ仕事多いわね……とても身体が足りないんじゃない?今までどうしてたのよ?」


「少し前までは調理とか設備の方はスタッフを雇ってたんだけど、ここ2年ぐらいはオヤジと俺の二人で何とかやってたよ。といっても、客が少ないからこそ、かろうじて何とかなってたってレベルだけどね」


「というか、アンタが仲居までやってたの?着物着て?」


「そんなわけない。俺は主に設備や調理の裏方仕事。接客関係が必要な時には一応オヤジが担当してた。まぁ、接客と言っても常連さんと呑んでただけって説もあるけどな」


 ちなみにおふくろは役場で仕事をしていたからうちの手伝いはほとんどしていなかった。

 むしろ、おふくろの給料がうちにとっての貴重な生活収入だったのかもしれないな……。


 そんなことを思っていると、ユモトが感心した様子で声をかけてきた。


「はー、アンタ苦労してるのねぇ……」


「まぁ、実家を売られた人生は伊達じゃないかな。

 で、ここからが本題。折角営業を再開させてもらえることになったし、俺としてはやっぱりこの宿を精一杯盛り上げていきたいと思ってる。もちろんお客さんも増やしたい。そうなると、やっぱりある程度4人でさっきの仕事を分担する必要があると思うんだよね。

 ただ、たった4人しかいないわけだし、まして三人は宿の仕事は未経験。フォローし合うにも限界はあると思うんだ。でね、俺としては三人にどんな仕事を割り振るのがいいのか、適性を見極めさせてほしいと思ってるのよ」


「えー、めんどーい。私、一番楽なところがいいー」


 俺の話にユモトが不服そうな声を上げる。

 ほらね、やっぱり予想通りだ。


「こういう人がいると回らなくなるから、最初のうちにしっかりと役割分担したいんだよね。ということで、アワラさん、ミササちゃん、協力してもらえませんか?」


 そういって俺は頭を下げる。

 実際、4人が本当に効率よく動かなければ営業は厳しい。

 そのためにも、最初に仕事の分担をちゃんとしておかなければならないのだ。


 どうやら、その辺の機微は年長者であるアワラが一番よく分かってくれたようだ。

 アワラはうんと、一つ頷いてから言葉を返す。


「結構ですわ。 ユウマさんがこの宿を仕切る番頭さんなのですから、お任せいたしますわ。ユモトもちゃんと言うこと聞くのですのよ」


「はぁい、分かってますってー」


「わたしもがんばるのです!」


 アワラの言葉に残る二人も素直に従う。

 やっぱりお姉様は偉大だ。うんうん。


 さて、食事を終えたらいろいろやってもらおう。

 何とか形にしなければ……逸る気持ちを抑えながら、俺は最後に残しておいたそば米のつゆをずっと啜るのだった。




―――――



 食事を終えた俺たちは、食器の片づけがてらキッチンへと場所を移した。

 まずは一番“技術”が必要なところからのチェックだ。


「じゃあ、早速だけど、最初は料理の腕のチェックから。それぞれ何か一品作って欲しいんだけど、できる?」


 俺の言葉に、アワラとミササの二人はコクコクと頷く。一方、ユモトはうーんと一瞬悩んだ後、質問で返してきた。


「材料は何でもいいの?」


「ここにあるものなら何でも使ってもらって構わないよ。とはいってもあり合せのものしかないけどね」


「でも、それじゃあ比較が難しくない? 焼き魚とグラタンで比べるとかだと大変よ?」


「そうですわね。少しテーマを絞ってもらった方が何を作ればいいかはっきりしますわ」


 ユモトに続けて、アワラも言葉を続ける。

 確かに二人の言う通りかもしれない。そうなると……。


「そうだね。じゃあ、お題は『卵を使った料理』ということで。いける?」


「たまごのりょうりならいろいろばりえーしょんがあるのでちょうどいいとおもうのです。 ミササもがんばるのですっ!」


 ミササが元気よく言葉を返してきた。後の二人も頷いている所を見るとよさそうだ。


「じゃ、それで決定ということで。調理器具の使い方が分かんなかったら聞いてちょうだい」


 ということで、三人に食材の場所や調理器具の基本的な使い方を説明したところで、調理スタートだ。

 業務用のキッチンということもあり、通り一遍の説明だけではなかなか勝手がつかみにくいようだ。

 三人とも苦戦をしながら調理を進めている。

 俺は調理器具の使い方を中心にフォローに入りながら、それとなく三人の手さばき見ていった。


 アワラさんは玉子をボウルに割り入れて、菜箸でちょんちょんちょんちょんとかき混ぜている。

 他に材料も見当たらないし、たぶん玉子焼きかオムレツといったところだろう。

 ちょっとペースはゆっくりめだが、丁寧に仕事をしている感じかな?イメージは悪くなさそうだ。


 隣で作業しているユモトは……、うーん、ずいぶん力んでるね。

 手つきもおぼつかないし、料理の経験はあまり多くはなさそうだな。

 あっ、卵を割るだけでそんなに力入れたら……ほら、殻が砕けて中に入った。

 うーん、これは正直厳しそうだなぁ。


 さて、ミササちゃんはどうだろうか?

 コールドテーブルの高さの関係で、台に乗って作業をしなければならないからそれだけでも大変そうなんだけど……を、思ったよりも手際がいいぞ。

 しかも、二人とは違って材料に肉や野菜も用意してるし、包丁を扱う手さばきもいい。

 これは相当期待できそうだ。


 俺が三人の様子を観察していると、ユモトがクレームをつけてきた。


「ちょっと! あんまりじろじろ見ないでよ! やりにくいじゃない!」


「そんなこと言っても、こっちもある程度作業の様子見ないと判断できないっつーの」


「それでも、あんまりじーっと見つめてたら意識がそっちに行っちゃうっての! 見ててもいいけど、もっと視線を感じさせないようにしててよ!」


 あー、いちいちうるさいなぁ。でも、様子は大体分かったし、まぁいいか。


「はいはい、わかったよ。 じゃあ、あっちのテーブルのところから眺めさせてもらうわ」


「ったく、気が利かないんだから……。あ、姉さん、ミササ、ガス台先に使わせてもらうわね」


「分かりましたなのです! その次は私が使わせてほしいのです!」


「良いわよ、じゃあ私が最後ということね。味付けはどうしようかしら……」


 三姉妹が仲良く話しているのを横目に、一人離れたテーブルで出来上がりを待つ俺であった。 




―――――




 最初に料理を運んできたのはユモトだった。

 ユモトは平皿を俺の前に置くと、自信満々な表情で宣言する。


「トップバッターは私よ! さぁ、食べて驚きなさいっ!」


 俺は、目の前に置かれた皿をマジマジと見つめた。

 うん、シンプルなオムレツ……のようなものだ。


 ただ、なんというか、その……ある意味予想通りの出来栄えだな、こりゃ。

 形はいびつだし、ところどころ焦げている。ケチャップの適当にどばっとかけただけ。

 うーん、全然美味しそうに見えないぞ!


 黙って料理を見つめている俺の様子が不安だったのか、ユモトが覗き込むようにして話しかけてきた。


「……何よ、冷める前に早く食べなさいよ!」


「なぁ。お前、これの出来栄えでよくそんなに自信を持って出せるな」


「きょ、今日はたまたまよ! いつも使っているフライパンと違うから、ちょっと崩れちゃっただけ! 慣れればちゃんと、出来る……わ……。あ、味はちゃんとしてる……と……思う……かわよら……」


 ユモトの声はだんだんと尻すぼみに小さくなっていった。

 まぁ、自分のことだ。自分が良く分かってるってことだな。


 とはいえ、折角頑張って作ってくれたんだ。ちゃんと味を見ないとな。

 俺はやや崩れたオムレツをフォークで一口大に切り取ると、口の中へと放り込んだ。


 評価が気になるのか、ユモトが目を泳がせながら様子を伺ってくる。


「……ど、どう?」


「うーん。思ったより悪くはない」


「えっ? そうしたら美味しいってこと!?」


「そんなことは言ってない。まぁ、こんなもんだよねってレベルだな。ほら、自分でも食べてみな」


 そういって俺はユモトに皿を差し出す。ユモトは恐る恐るオムレツを掬い取り、自分の口に入れた。

 しばらく味わったのを確認してから、改めて声をかける。


「どうだ、自分で食べてみて?」


「うん、味は変じゃない……と思う。でも……なんか硬い」


「そうだな。要するに、火にかけすぎたってこと。 さっき様子を見てたけど、卵をフライパンに流してから形を整えるまで相当時間がかかってただろ? アレで卵に熱が入りすぎたんだな」


「そっか……、じゃあ、火が強かったってこと?」


「いや、違う。一言でいえば手際だ。卵を割る手つき一つとってもそうだけど、料理の経験がまだまだ圧倒的に足りない。だから、時間がかかり過ぎて、上手く行かないってことだな。でも、味付けのバランス自体は悪くないから、これから料理に馴れてこれば多少良くなるんじゃねーのかな」


「そっかー……まぁ、及第点には届いてるってことね!」


 お前、人の話の何を聞いてた? 

 俺はダメ押しの言葉をかけようとするが、新しく運ばれてきた料理によりそれが遮ぎられた。


 二番手として運ばれてきたミササの料理。

 その出来栄えに俺の目は釘付けとなったのだった。


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