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1 鬼っ娘たちが引っ越してきました

 俺の名は草下(くさか)有馬ゆうま。クサシタではなくクサカだ。ここは試験に出るから注意な。


 さて、昨日はいろんなことがあった。


 朝起きて、風呂掃除をして、なぜかやってきた命の危機を乗り越えたと思ったら、俺の実家である温泉宿が身売りされるという笑えない事態が待っていた。

 しかも、張本人のオヤジはその金を持ったままおふくろを連れて逃亡ときたもんだ。

 何が異世界一周旅行だ、あのくそオヤジめ。


 話しはそれだけで終わらない。

 うちの宿の買い手となったリューオウのオヤジさんは、なんと“オニ”の一族だというのだ。

 最初は何をおかしなことと思ったのだが、強面の顔に筋肉ムキムキの肉体、それに頭から角を生やしたその姿を見せつけられては受け入れるしかない。

 というか、マジでオニって実在するんだ……。 おとぎ話の世界じゃねえぞ?


 しかし、リューオウさんが本当にオニなのかどうなのかは俺にとっては今やどうでもいいこと。

 むしろ目の前に突き付けられた実家の廃業、すなわち人生路頭に迷う大ピンチをどう乗り越えるかが大事な問題だ。

 とはいえ、実家はものの見事にあっさり売られてしまったわけで、出来ることは限られている。


 そこで俺は、買い手であるリューオウのオヤジさんに直談判を持ちかけた。何とか宿を続けさせてほしいと。

 最初は渋い顔を見せていたリューオウさんだったが、何とか想いが通じたのか、最後には宿を続けることを認めてもらうことができた。

 それも運転資金も人手も助けてもらえる、さらに将来的には宿を買戻すチャンスついているという破格の条件だ。

 俺にとってこれほどありがたいことはない。うちのオヤジよりも本当に頼りになる。


 ……とはいえ、喜んでばかりはいられない。

 なぜなら、宿の買戻しには実質的に一つの条件が付いているからだ。

 その条件とは、“リューオウのオヤジさんの三人娘のうちの一人を娶る”というもの。

 つまり、俺にオニの一族をヨメにしろと言っているのだ。

 リアルオニヨメとか、もうマジでわかんねぇ……。


 さらにそれだけではない。

 リューオウのオヤジさんは、「住み込みで宿を手伝え」と三姉妹に移り住むように指示をしたのだ。

 オニの世界のしきたりは良く分からないが、リューオウのオヤジさんの言うことはどうやら絶対らしい。


 ということで、今日この後から、俺はオニヨメ候補の三姉妹と一つ屋根の下で一緒に暮らすということになったのだ。

 

 朝のうちから三姉妹が住まうための部屋を準備していた俺は、三姉妹の到着を待って引っ越しの手伝いへと取り掛かっていた。


「しっかし狭い部屋ねぇ。こんなにいっぱい部屋があるんだから、一人一部屋ぐらい用意しなさいよっ!」


 ピーチクパーチクとわめいているのは、部屋の中へ大きな竹行李(こうり)を軽々と運びいれた三姉妹の真ん中、ユモトだ。


 二本角にロングの黒髪を巻きつけてツインテール風している彼女は、一般的な水準でいれば元気が良くてかわいいと言われるであろう……あくあでパッと見だけならばだが。

 しかし、その中身はまさに“鬼”そのもの。

 三姉妹の中でも最も凶暴であるこの女は、昨日は二度も俺の人生をシャットダウンさせようとしたのだ。ああ、思い出すだけでも身が震える。ぶるぶる。

 

 リューオウのオヤジさんがどこまで本気か測りかねてはいるが、万が一将来誰か選ばなきゃいけないとなってもコイツだけは勘弁してほしい。


「ねぇ、やっぱり私、あっちの部屋がいいわ! 荷物運んでいい?」


 ユモトの言葉を黙ってスルーしていた俺だったが、あまりに頓珍漢なことを言われ、思わず怒鳴り返す。


「だから、あっちの部屋はお客様をお招きするための客室だっていっただろ!?  そもそも、この部屋だって、居住スペースでは一番広い客間をあてがってるんだから、これでなんとかしてくれよ! そもそも、お前も荷物解くのぐらい手伝えよ!」


「何言ってんのよ! お客様を招くのも、宿の仕事なんでしょ! ほら、ちゃんと私たちを出迎えられるようにちゃちゃっと片付けちゃいなさいっ!」


 そう言い放つと、ユモトは腕を組んでフンっとそっぽを向いた。見事なまでに可愛げがない。


 ああ、これからコイツと一つ屋根の下で暮らさなきゃいけないのか……。かなり憂鬱な気分にさせられる。


 そんなユモトの様子を見かねたのか、荷解きをして片づけをしていた素敵なお姉様がユモトをそっとたしなめた。

 三姉妹の長女であるアワラだ。

 

「そんなことをいってはいけませんよ。私たちはお客様じゃなくて、これから一緒に力を合わせていくんですからね。あ、こちらの拭き掃除終わりましたわ」


「すいません、どうもありがとうございます。あっちのうるさいだけの妹さんと違って本当に助かります」

 

「本当にごめんなさいね。後でよく言い聞かせておきますわ」


 アワラはそういうと、紫がかった長い髪をすっとかき上げながら微笑んだ。

 何気ない仕草の一つ一つに大人の女性の魅力が溢れている。

 素敵だ、素敵。


 ぼーっとアワラを見つめていた俺に、今度は舌ったらずの調子で声がかけられた。


「ミササもおてつだいがんばったのですー! ほめてほしいのですー!」


 声がした方に顔を振り向けると、そこには大きな箒を抱えるように持っていた三姉妹の末っ子が満面の笑みで立っていた。


「おー、ミササちゃんは掃き掃除してくれたのかー。ありがとうねー」


 俺が言葉をかけると、ミササは邪気のない屈託のない笑顔を見せる。

 んー、ちびっこはやっぱり可愛いなぁ。俺って自覚してなかったけど意外と子供好きなのかも。


 そんなことを思っていると、ミササが俺の方に頭を向けてきた。

 ふむ、これはアレか。頭ポンポンのリクエストか。

 ミササの頭に引き込まれるかように手を差し出す俺。

 しかしその手は、例の凶暴女(ユモト)によってパーンとはたき落とされた。

 

「ってぇ! テメェ! 何すんだよ!」


「そっちこそ何してんのよ! あんた、もうミササに手を出す気なのっ!」


「ふざけんな! 普通に頭をポンポンしてあげようとしただけじゃねーかっ!」


「そんなこといって、ミササの角を触ろうとしたじゃないのっ? こんな小さい子にそんなことするなんて……はっ、まさか、ロリコン?」


 興奮したように一人でわめきたて、ミササを抱えるようにして引き寄せるユモト。


 何を言ってるんだコイツは。俺はいたって健全な17歳の男子だぞ!

 確かにミササちゃんは妹みたいで可愛いけど、今のままじゃあそういう目ではさすがに見られねぇぞ。


 俺とユモトがしばらくの間ギャーギャー言い争っていると、それを横目で見ていたアワラが突然ポンと手を打った。

 俺もユモトもキョトンとした表情でアワラを見つめる。すると、アワラがいつもののんびりした調子で話しかけてきた。


「あ、そっか。ユウマくんはご存じないのですよね」


「へっ?何がです?」


「私たち鬼族にとって、ツノはとっても敏感で大切なものなのです。身内以外の異性に角を触らせることはありません。 もし意図的に触るようなことをするのなら、それは“身内になるつもりがある”という意思表示ということになりますわ」


 ふむふむ、そんなルールがあったのか。というか、角って敏感なんだ……。


 ん? ちょっとまて? 身内になる?


 その不穏な言葉の気配に、冷や汗がダラダラと流れてくる。


「えーっと、それって……」

 

「そうよ。 ツノを触るということは、プロポーズするってことなのよ!」


 やっぱりそういうことですよねー。


 危ない危ない。いきなり華麗な人生ボレーシュートを決めてしまうところだったぜ。


 俺は額の汗を拭いながらミササへと顔を向ける。

 すると、ミササは小声で何やらブツブツと言っていた。


「むぅ、そっこーせんで決められるところだったのに、ゆもとねーたまのてっぺきのディフェンスにさえぎられたのです。ガッツがたりなかったのです。でも、まだチャンスはあるのです。これから策をろうしていけばいいのです。ミササがんばるのです」


 ……計算通りかよっ!この幼女様、油断ならねぇ!


 さて、話ばかりしていてはいつまでも片づけが終わらない。

 俺は廊下に置いてあった彼女たちの荷物を取りに行った。


 彼女たちの荷物は先ほど運びこんだ竹行李が一人一つずつに、別にそれぞれボストンバック1つずつといったところ。引っ越しと言っても部屋も狭いし共用になるしということで、荷物は最小限にしていたようだ。


 三人前の荷物をひょいっとかついだ俺は、部屋の玄関を潜りながらユモトに声ををかける。


「なぁ、荷物はホントにこれだけでいいのかー?」


「うん、持ってきたのはそれだけ。 あとはこっちで繋いで入れるから」


「ん? こっちで繋ぐって?」


 荷物を置きながら様子を見ていると、ユモトは縁側の端に備え付けられている扉に何やら護符のようなものをペタペタと貼り付けていた。

 確かあそこは、ただの和風クローゼット(押入れ)だったはずだが……。


 そしてユモトは引き戸の前に立つと、何やら印を結んで呪文のようなものを唱え始めた。


「むにゃむにゃむにゃっ……えいっ!」


 何て言ってるかは分からないが、真剣な表情を見ると大そうなことをしているのだろう。

 そして、ユモトが最後に気合を入れながら印を結んだ手を突き出すと、護符を張った扉がパーッと輝きだした。


 なんだこりゃ!?魔法か??

 

 ユモトが輝く引き戸をガラガラっと引くと、その本来あるはずの押入れ棚が消えていた。

 その変わり見えたのは、何やら広い廊下のようなところであった。


 何が起こったか分からず、あっけにとられる俺は。

 いかん、全く思考がついていかない。


 口をポカンと開けて呆然としている俺のことは完全にスルーして、ユモトはゼーゼーと息を切らしながら姉妹に声をかける。


「ふぅ、繋いだわよー。空けられるのは1時間ぐらいしかないから急いで荷物運びいれてねー」


「ユモトねーたまっ、おつかれさまなのだー」


「荷物は部屋にまとめてあるのね?私が代わりに持ってくるからユモトはここで休んでいらっしゃい」


「ありがとー。助かるわー」


 そんなやりとりをした三姉妹をぼけっとみていると、ミササの手を引いたアワラが輝く引き戸を通、向こう側の廊下へと歩いて行った。へ


 一方のユモトは部屋に備え付けてある座椅子にどっかりともたれかかる

 背もたれに身体を預け天井を見上げるその姿は、どこかオッサン臭く感じるのは気のせいだろうか?

 あ、でも、この姿勢だとなかなかに胸のふくらみが強調されて……。


 その視線に気づいたのか、ユモトがかったるそうに声をかけてくる。


「……なによ?エロい目でみてこないでよ。 あんたにはわかんないかもしれないけど、アレやるとものすごい疲れるんだからねっ?」


「い、いや。別にいいけどさ……。てか、あそこって確か物置か押入れだったはずなんだけど、なんで廊下に繋がってるんだ?」


「あー、あれは私が繋げたのよ。臨時の鬼門ってところね」


「鬼門ってあれか?鬼がやって来るって言うアレ?」


 疑問符だらけの俺の言葉に、ユモトがだるそうに頷く。


「そそ、それそれ。私たちが住んでる鬼の世界と、あんたたちが住んでいるこの人間の世界を繋ぐのが鬼門ね。私たちオニが何かの都合で人間の世界に来るときは、その鬼門を通って来てるってわけ。この近くだと、ここの裏山にもあるのよ?まぁ、人間が迷い込まないように特殊な結界で隠してあるんだけどね」


「……またおとぎ話の世界になって来たな。まぁ、鬼もおとぎ話のキャラだから正しいっちゃあ正しいんだけど……」


 どうにも目の前の現実がファンタジーに感じられて仕方が無く、俺は眉間を抑える。

 そんな様子でも、ユモトはお構いなしのようだ。


「でも、引っ越しで荷物がいっぱいあるのにいちいち山を昇ったり下りたりするのはかったるいでしょ?だからちょうど丑寅の方角にあったここの扉を使わせてもらって、鬼門を繋がせてもらったってわけよ」


「すっげえ話だな。じゃあ、ここはずっとこのまま……てか、これがあるなら引っ越してくる必要なくね? 狭い狭いっていってたし」


「そうしたいのはやまやまなんだけどねー。 鬼門繋ぐのってすっごい体力と精神力がいるのよ。

それに、私の力じゃ1時間ぐらいしか鬼門を開けていられないの。この護符だってものっすごい高いしね。今日の1回分で10万円以上してるはずよ?」


「マジかよ!じゃあ、裏山の鬼門ってやつを通って通うのはダメなのか?」


「それも難しいわ。あっちはあっちでそれなりにお金かかるし、そもそも1か月ごとに利用できる回数も決まってるのよね。だからうちの郷から毎日通うってわけにはいかないわけなのよ。ま、オヤジの言いつけもあるしね」


「ふーん、難しいもんだなぁ。良く分からんけど、分かったことにしておこう。ところで、お前そのままでいるつもりか?」


「ん?なんかまずかった?」


「いや、その、汗でTシャツがぴっちりと……」


 そう、先ほどの“鬼門を繋ぐ”というがよほど大変だったのか、寒い時期というのにユモトは大量の汗をかいていた。

 そのせいで、着込んでいたTシャツが汗でぴちっとなり、ボディラインが露わになっている。

 そしてTシャツの下に隠された下着の色と形が、はっきりと透けていたのだ。


「……!! ふ・ざ・け・る・なーーーーっ!」


 数秒後、いらんことを言った俺は見事な壁画レリーフとなっていたのであった。


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