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4 オニヨメを選べといわれました

 宿を続けさせてほしいという願う俺の目の前に、厳しい現実を突きつけられる。

 至極真っ当な正論に、俺は全く言い返すことが出来なかった。

 こうなれば仕方がない。所詮17歳の高校生である俺に、今すぐこの現実を打ち破る力はない。

 まぁ、管理人としてここで暮らしてもいいとは言われているし、現実を受け入れるしかないのか……。

 

 そう諦めかけていた俺に、リューオウが思いがけない言葉を投げかけてきた。


「でも、ワテ、あんさんのこと気に入りましたで。 そやから、こないなのはどうでしょ?」


「え?な、なんでしょう?」


「あんさんの話を聞いて、ここをワテらだけの別荘とするのは確かにもったいない話やなと思いましたんや。

どうせワテらはたまにしか使いまへんし、普段は開けっ放しになってしまうということやろ? そしたら、普段から温泉宿としてやっておいてもらっておいたほうが、儲かるチャンスがあるかもしれないっちゅーことですわ」


「そ、そうです! それなんです!」


 を、リューオウさん、意外と話が分かるじゃないか。俺は胸を弾ませる。


「ただな、ワテもいろいろ商売はしとりますが、残念ながら温泉宿の仕事はしとりまへんのでノウハウがありまへん。それなら……」


「それなら??」


「それなら、ノウハウを持ってる人にこの宿をやってもらえばええっちゅう話になりますわな。あんさんは、あれほど言い切るぐらいなんやから、ここの切り盛りには自信があるっちゅーことでっしゃろ?」


 リューオウが口角をニヤリと持ち上げながら俺を見据える。

 ヤバい、ガチの視線だ。目が全然笑ってねぇ……。


 しかし、ここで気おくれしてはダメだ。

 俺はありったけの勇気を振り絞って、顔を上げてリューオウに言葉を返した。


「ええ、生まれ育ったこの宿のことは隅から隅まで理解しています。それに、うちのダメ親父のせいで小さいころから散々手伝わされましたし、なんとかできると思います」


「よっしゃ。その言葉をまっとりましたで。では、ワテからからあんさんにこの宿の運営を委託する形をとらせていただきましょ。 そうすれば、ワテは別荘代わりの自由になる宿が手に入りますし、あんさんは宿を続けられる。これでどないでしょ?」


「ええっ!? 本当ですかっ!」


 一瞬俺喜びの声を上げる。

 確かに魅力的な提案だ。今の状況を考えれば、委託でも何でも、宿を続けられるチャンスがあるだけで十分だ。

 しかし、先ほど見せつけられた“厳しい現実”が俺の心の中に引っかかる。

 宿を営業するための人の問題や、お金の問題をクリアしなければならないことには変わりがない。

 そう考えると、しゅーんとトーンが下がってしまうのだ。


「……俺にとってすっごく有り難い話です。ただ、人のこととか、お金のこととか……」


 目の前の魅力的な提案に素直に堪えられないもどかしさに堪えながら、俺は何とか言葉を絞り出す。

 しかし、そんな俺の心配は、リューオウが続ける言葉に吹き飛ばされた。


「お金のことは心配あらしません。この宿のオーナーはワテになりますさかい、必要な資金の融通はちゃんとさせてもらいます」


「ま、マジっすか! そしたら必要なものを仕入れたり、人を雇ったりするお金を用意してくれるってことですか!?」


 俺の言葉に、リューオウが首を縦に振る。そして、言葉が続けられる。


「ただ、その代り、儲けは基本ワテのもの。しっかり頂くものは頂かせてもらいます。とはいっても、あんさんがちゃんと暮らしていけるぐらいは取り分を用意するんで、その点は安心しなはれや」


「本当ですか! それなら願ったりかなったりです!」


 お金さえ何とかなれば、人も雇えるし、宿を回すことはできるだろう。

 これなら何とか宿を続けられる。 そして頑張っていればいつの日かこの手に取り戻すチャンスが巡ってくるかもしれない!

 俺の胸ががぜん高鳴った。


 しかし、その胸の高まりは、一瞬にして止まることとなる。

 その後に続けられたリューオウの“条件”が、予想をはるかに超える衝撃的なものだったからだ。


「あと、人のことについては、経費節減も兼ねて、うちの三人娘に宿の仕事を手伝わせるちゅー形でやらしてもらいたいと思ってます。これならあんさんもて人件費を浮きますし、助かりますやろ?」


「へっ?」「あらあら」「えっ!ちょっ!?」「うにゅー?」


 俺はもちろん、リューオウの横に並んでいた三人娘からも驚愕の声が上がった。

 三人とも全く予期していなかったのであろう、その言葉に三者三様の表情で固まる。


 しかし、リューオウは娘たちのことなど全く意に介さないような調子で、同じトーンで話を続けた。


「もし、あんさんの取り分からしっかりお金を貯めて、将来ここを買い戻したいっちゅー話をするんであればそれはそれでちゃんと考えさせてもらいます。ただ……」


 何やら含んだような言い方をするリューオウに、俺は首を傾げながら次の言葉を待つ。

 一拍置いた後に発せられた言葉は、とんでもないものだった。


「ただ、その前に、うちの娘のことが気に入ってもらえるんやったら、どれでもええから一人娶ってもらうんちゅーことでも構いまへんのや。 もしもコトがうまいこと成就して本当にそうなったら、その時点でこの宿を嫁入り道具につけさせてもらいましょ。ほら、温泉宿には『オカミ』がつきものでっしな?」

 

 リューオウはそう言い放つと、カッカッカと高笑いした。


 あまりの話の展開に、俺の思考が着いていかない。 みっともなく口をパクパクさせるのが精いっぱいだ。


 先に我に返ったのは、さっきまで固まっていたオニの三人娘だった。

 父親の勝手な話に三者三様に言葉を上げる。


「あらあら、急なおはなしねぇ」「ちょ!なにいってんのよ!」「およめさんー?」


 おっとり長女(アワラ)ちびっ子(ミササ)の答えは呑気なものだった。


 しかし、血気盛んな凶暴娘(ユモト)だけは違う。

 今にも立ち上がってリューオウに掴みかからんばかりの様相を見せていた。


 そんなユモトに、リューオウは笑顔のまま、しかし、強烈な眼光を放ちながら話しかけた。


「なんや?どうせお前もいつかは旦那をとらなあかんやろ。そもそも今の段階でお前に決まったわけでもあらへん。この兄ちゃん、ワテの見立てではなかなかの有望株や。今からツバつけとくっちゅーのも損はないと思うで?」


「それにしても、こんなド変態なんて勘弁だわ! 私にも選ぶ権利ってのがあるわよ!」


 顔を真っ赤にして父親に詰め寄るユモト。

 なるほど、俺に対する印象は最悪ってわけね。そりゃそうか。というか、俺も勘弁してほしい。


 表情から気持ちを悟られないように成り行きを見守る俺。

 すると、リューオウはユモトの態度に動じることなくどしっと構え、真面目な表情で説得を始めた。


「なんや、お前は俺のやることに不満があるんか? よー考えや。今この瞬間から、ここで温泉宿をやるっちゅーことがワテらの家業に加わったっちゅーことなんやで。いわばエムアンドエーでの事業拡大や。オニの一族たるもの、家族が家業を手伝うのは当然のことっちゅーのは、お前が一番分かっとるはずやないか?」


 リューオウはそう言い放つと、ギラリとユモトを睨み付けた。

 眼力が半端ねえな……。


 その視線に気圧されたのか、それとも痛いところを突かれたのか、先ほどまでとは打って変り、ユモトはしゅんとしおれたようにすっかり大人しくなった。


 っと、そうそう、そういえば今の話の中で俺自身の意思はどこへ行ったんだろう……。

 つい見とれてしまった俺は、そーっと手を上げながら恐る恐る口を開いた。


「あ、あのー、それって実質的には俺に三人の娘さんから一人選べっていってる気がするんですが……。も、もし、もしですよ?もしも俺が誰とも一緒にならなかったら、その時はどうなるんでしょう……?」


 俺の質問に、リューオウは二カッと笑顔を見せる。


「そんときは、この宿の買戻し値段が天井知らずのうなぎ上りになるっちゅーことですわなぁ」


 ……えーとすいません、それって、買戻しできなくないですか?

 それに、そもそも娘さんたちが俺のことを選んでくれないという可能性だって、十分あると思うんですが……?特に真ん中なんて……。

 

「あの、もし ――」「それとも、ワテの娘たちでは不満があるとでも?」


 俺が確認を取ろうとした瞬間、リューオウは言葉をかぶせてきた。屈託のない朗らかな笑顔、しかしその目元だけは一つも笑っちゃいない。

 うん、これは逆らったらヤバいやつだ。俺は慌てて首をブンブンと横に振った。


「ほな、契約成立ってことでよろしいですな。細かいことは追々つめていきましょか」


 有無を言わさぬ迫力で、リューオウがずいっと右手を差し出す。

 戸惑っている俺に、ユモトが横から耳打ちする。


「オニ族の約束(契約)は、こうして握手を交わすことで成立なの。もちろん細かいことは文書で交わすことも多いけど、仁義を重んじるオニ族の様式美ってところね。そうそう、もし握手を交わした約束を裏切ったら、その時は容赦ない仕打ちが待ってるから覚悟することね。逃げるなら今のうちよ」


 耳元で話しかけてくるユモト。距離が近すぎて吐息がこそばゆく感じる。

 アカン、違うところが返事しそうだ。

 

 俺が吐息のかかる方向を向くと、言いたいことだけ言って満足したのか、ユモトはプイッとそっぽを向いて頬を膨らませていた。

 なんだ、ふくれっ面も可愛いじゃないか。


 ……って、今はそんな場合じゃない。俺にとっては人生がかかった一大事の場面だ。


 相手はオニ。もし意に沿わないことをすればどんな仕打ちが待っているか分からない。

 万が一にでも約束を違えることになれば人生サヨナラホームランが待っていることは間違いない

 その姿を想像した俺の喉が思わずゴクリと鳴る。


 しかし、俺は改めて思い直す。 そもそも俺はなんでこんな話を持ち出したんだろうと。

 そう、俺はそこまでしてでもこの宿を手放したくないのだ。


 生まれ育ったから? 先祖代々続いてきたから?


 違う、そうじゃない。俺はやっぱりこの宿が好きなんだ!


 俺は、リューオウの大きくてごつい手をしっかりと握り返し、目を見つめながらこう言い放った。


「必ずご期待に添います。よろしくお願いいたします」


 後は野となれ山となれだ。握りつぶす勢いで目いっぱいの力を込めて、俺はリューオウの手を握り締める。

 

 すると、リューオウはニヤッと笑顔を見せ、力を入れて……くぁwせdrftgyふじk。

 すいません、オニの本気の握手舐めてました。勘弁してください。


 ともあれ、どうやらこれで契約は成立のようだ。

 解放された手にふーふーと息を欠けながら、俺はほっと一息を付く。

 

 気づけば、お姉様(アワラ)は、微笑みながらパチパチと手を叩いてくれていた。

 それにつられてちびっ子(ミササ)も小さな手を一所懸命パチパチとしてくれている。

 

 こうしてみると姉さん女房のオカミサンに、娘一人ってのも幸せな温泉宿ライフを送れるのかもしれないな……。


 一方のユモトの方にチラリと視線を移すと……ああ、やっぱりふくれっ面のままだ。

 しかし、家長が決めた以上は従わなければならないのだろう。

 渋い表情のままではあるが、パチ、パチと気のない拍手を送ってくれていた。


 俺の身の安全的にも、やっぱりコイツがオカミという線はないな。うんうん。


 しかし、リューオウが次に発した言葉が、俺たちののんびりした雰囲気を一変させた。


「ほな、早速引っ越しの用意をせならんな。客室以外で空いている部屋ってどないでっしゃろ?」


「へ?」「あら?」「えっ!?」「ほにゃ?」


 俺と三人娘の目がそろって点になった。 

 

 何?引っ越し?え?こっちに住むの???三人と??え?ええ!?!?


 混乱する俺に構うことなく、リューオウは話を続ける。


「そりゃ、宿の手伝いするんやさかい。いちいちこっちに帰っとれへんやろ? せやからお前たちがこっちに引っ越してくるんや。あんさん、いや、ユウマくん、不束な娘たちだが、どうか一つ屋根の下でよろしゅう頼んます」


「「「「え、え、ええーーーーー!!」」」」


 4人の絶叫する声がこだましたのは、ほんの一瞬後のことであった。


【次章予告】

ひょんなことから鬼っ娘三人娘との同居生活が始まった。

宿の営業を再開すべく、奔走する四人。

一つ屋根の下、間違いが起こらないとは限らない!?

そして、ユウマに忍び寄る怪しい影……。

果たして、ユウマたちは無事に宿を再会することはできるのか?


次章『ユウマ、鬼っ娘たちと宿の営業を準備する』 この次もお楽しみにっ!


===


ということで、第1章完結です。

まずはここまでお読みいただきましてありがとうございました。


現代日本を舞台にした『鬼っ娘温泉へようそこっ!(通称おにおん)』。

第二章もますますパワーアップしたドタバタ劇をお届けいたします。

果たしてふじこは何回出て来るのか!? 乞うご期待!


ブックマーク&評価&感想&読了ツイートなど、ご声援はいつどのような形で大歓迎です。作者と三姉妹が踊って喜びます。

それでは、これからも引き続きご愛顧いただけますようよろしくお願い申し上げます。

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