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white note  作者: camel
 
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 期末試験もあと1日を残すのみとなった。肌寒さに堪えきれずに押入れから出したハロゲンヒーターが首を振る中、最後の追い込みに義時はかかる。とはいえ、希恵の教えもあってかこれまでよりも習熟の進んだ箇所が非常に多く、先日よりの試験の内容も手応えのあるものだったと思っていた。教え方1つでこうも理解度が変わるのであれば、毎度希恵の世話にもなりたい所だが、彼女も彼女で忙しい身である。義時の持つ大学生というイメージはどこか中途半端に遊びながら学んでいるというようなものであるが、実際は希恵のように必死に自らの学ぶべきものを学んでいるのだろう。その片手間を取らせるのも忍びないというものだった。

 ランダム再生を続けるコンポがアンプを経由して底深い音色を流す室内。ふと思い立って、義時は携帯電話を手に取り、電話帳を検索する。2つほど呼び出し音が鳴ったところで、電話は繋がった。

「はい」

 すぐに聞こえてきたのは、どことなく警戒する様な響きの、か細い声。

「ええと。井波さんの電話番号で間違いないでしょうか」

「あ、麻績くんですか」

「良かった。間違ってなかったか」

「はい、すみません。見慣れない番号で、つい」

「いやいや」

 指に挟んで弄んでいたシャープペンを机に放り出し、椅子の背凭れへ体を預けた。奈子の声を聞くのはあの日、本屋で出会って以来である。

「こんばんわ。どうされましたか」

「いや、そろそろ試験、終わる頃でね」

「そういえば、そんな時期ですね」

「そろそろ休もうと思って、ちょっと」

「そうですか。どうです、大変ですか、高校生のテスト」

 平均よりもゆっくりとした語り口で、奈子はそんな事を問う。伝わるだろうか、と微妙な気持ちになりつつも今勉強している科目について口にしてみると、驚いたことに彼女は打てば響くように相槌を返してくれる。

「こういう言い方はアレだけど、よく解るね」

「まあ、やっぱり私は暇人ですから、勉強という程ではないにしろつい学んでしまって」

「いや、凄いよ本当に」

 しなくても良いと言われれば今この瞬間から学業など放り出したいと心底思うのが一般的な10代の正しい姿である。それを、頼まれもせず学んでしまっているとのたまう様は、義時からすれば空恐ろしい。

「で、そうそう。良かったらまた話し相手になって貰えないかって」

「私に?」

「うん」

 電話口でそう言っているのだから奈子以外に誰も居ないのだが、なんとなくそう聞き返していた。自分にしては随分と踏み込んだ物言いではあったが、別段不快にも思われなかったようで、明るい返事をしてくれる。

「それは勿論構いませんよ、はい。というか、私は年中暇ですし」

「そっか、良かった、有難う」

「こちらこそ、誘って貰えて嬉しいです」

 当たり前のように、喜びを口にする奈子の言葉遣いは、ともすれば義時の方が気恥ずかしいという気もした。

「あ、俺の番号出たよね?」

「はい、携帯電話の。すみません、まさか本当に連絡下さると思ってなくて」

「寂しい事言うねえ。とりあえず、試験終わったらまた連絡するからさ。何時ごろが都合いいかな」

「大抵私は部屋に篭ってますからいつでも。寝てるのも、夜と朝だけです」

 説明の仕方が可笑しく、小さく噴出しながら了解を伝える。ただ言われて見れば、朝と夜に一般的な生活をしている人間は寝ているのだと、妙な感心が義時の中に沸いてきた。

「井波さんは面白いな」

「は、面白いですか」

「そういえばあれ、知り合いに借りられたよ。ラッセル集」

「本当ですか? どうです、読んでみて」

 彼女も読書家だというのは先日の会話の中ではっきりと解った事だったが、やはりこの手の話題への食いつき方はこちらが嬉しくなる程である。

「その辺りも、当日にね」

「楽しみにしてます」

 まさか眠くなったので投げ出したと正直になるわけにも行かずにお茶を濁し、通話を終えた。参考書に目を戻し、傍らに鎮座するラッセル集とちょっとにらみ合ってから、義時は勉強へ手を戻した。


 チャイムが鳴り響き、教室内のそこかしこから溜息や奇声が上がる。

 期末試験終了の瞬間である。義時は内心の手応えににやつく顔をなんとか抑えながら答案を回し、大きく伸びをした。この分なら今年の冬も遊んでいられそうである。希恵には感謝をしなければなるまい。

「どうだった、義時」

「完璧な仕上がりと言わざるを得ない」

「なんだと」

 声をかけてきたのは、比嘉辰巳という男子生徒。カラオケやらゲームセンターやらで遊ぶ場合、大抵この男と一緒である。そこに、2人3人が増えたり減ったりする事はあれ、辰巳と別行動という事は殆ど無い程度には気の合う男だった。何よりも、お互いに1人で暮らしているという身の上が、助け合ったりふざけあったりする機会の多さに繋がるものなのかも知れない。

 義時の余裕に辰巳は心底驚いて見せながら、長髪をかき上げつつ手近な椅子に腰掛ける。

「最後の問題は?」

「26」

「なんで」

 解をさらりと説明してやる。がくりと項垂れる辰巳。迸る優越感。これが勉強の出来る人間の目線か、と勘違いもしたくなる瞬間である。

「お前勉強してたのか」

「今回は優秀な教師がついてくれたんでね」

「あ、乾先輩か」

「あの人マジ凄いよ、天才過ぎるよ」

「美人教師と2人きりで試験勉強とかお前なんか倫理委員会に規制されろ」

 よくわからない文句を言う辰巳をかわし、教室に入ってきた担任に気付いて自分の席へ。答案返却の日取りなどを連絡し、試験休みの開幕を告げ、それでこの日は解散となった。

「さて、残念会でもやろうか辰巳君」

「うるさい黙れゲーセン行こうボッコにしてやる」

 簡単なやり取りで行き先と目的は定まり、下校。流石に学校最寄のゲームセンターへ入るわけには行かないので、もう少し賑わいのある繁華街へ向けて電車で移動。駅前でたまたま合流できた他の友人らと5人に増えながら目的の店へ入り、暫し遊興。自由を実感する瞬間である。

 筐体を挟んで野次を飛ばしあいながらの対戦ゲームの最中、時間を確認するともうじき15時という頃だった。ちょっと抜ける、と言い残し、外へ出て携帯電話を取る。奈子はすぐに電話に出てくれた。

「もしもし」

「井波さん?」

「あ、麻績くん。こんにちは」

「試験が今日で終わったんでね。ナンパされに」

「あはは」

 笑い声と共に、何か紙を広げるような音が聞こえた。不思議に思っていると、続けて奈子の声。

「そう、麻績くんのご自宅って外川の近くなんですか?」

「そうだね、10分かからないくらいかな」

 外川は義時の実家のある都心から1時間ほどの、郊外と呼ぶべき地域である。学校までは電車で駅2つという好立地であり、この場所を選んでくれた両親のセンスには感謝したものだった。

「そうなんですか。いえ、あの本屋でお会いしましたから、もしかしてと思って。私も同じくらいの距離です」

「ああ、それじゃあ駅前とかに集合するのが便利かね。何をするにも」

「そうですね、日取りは」

「明日でもいいよ」

「じゃ、明日いいですか? お昼ぐらいに」

「そうしようか」

 辰巳に加え奈子とも、性別こそ違うものの、気の合う友人をやっていけそうではある。そういう存在に出会えるのは幸せな事なのだと、何故か不意に祖父の言葉を思い出した。

「じゃあ、明日。連絡、有難うございました」

「いやいや俺こそ、遊び相手になって貰えて嬉しいしね」

「と、とんでもないです、無理言って引っ張り出してしまったみたいで、本当に」

 勢い良く恐縮し始めた奈子に苦笑しながら、再度翌日の予定を確認し合って、電話を切った。何か充実し始めている自分に気付き、溜息。

 そろそろ店内に戻ろうかと思って振り向くと、辰巳。

「うおっ」

「……」

「なんだよ」

「テストだけじゃなく、何? 交友関係まで俺を出し抜こうとかそういう? そっち系?」

「どっち系だよ、いやお前聞いてたの今の」

「なんかアレだよね、義時最近俺に冷たいもんね。そうか女かクソァ!」

「キレるなよ、別にそういうんじゃないって。友達だから」

「お前女友達って響きの9割は嘘だからな」

「残りの1割は?」

「偽善」

「全部嘘じゃないか」

「解ってるじゃないか」

「いやでも本当に、浮いた話じゃないと思うよ」

「と思う」

「しつこいな!?」

「これは緊急麻績会議を開かないといかんな、カラオケ行こうぜ」

 そうして他の面子も集まり義時の電話の相手についての詮議がカラオケボックスで行われる羽目になった。友人であるというそれ以上の説明の出来ない中の審問は苦痛以外の何物でもなかった。


 翌朝、癖というのは恐ろしいもので、もう少し寝ていても良いのにも関わらず義時はいつも通り目を覚ました。昨晩の惣菜の残りを朝食に充て、外出の用意をしても十二分に余裕がある。天気予報がにわか雨の危険を訴えてくるのを横目に、折角だからとラッセル集を開いた。

 書籍の内容は、ラッセルの生涯や、発表した論文などをいくらか解り易く説明するようなもので、おおまかに分けてラッセルのパラドックスの発見とその解決法、それに伴うゴットロープ・フレーゲについての記述から、世界五分前仮説、名言集、などというものが列挙された形となっている。

 そのどれも、目新しすぎて理解が及ばないが、何度も読み返すうちに、少なくともどういう目的で哲学というものに足を踏み入れていったか、という程度のものは理解できた。

 奈子も口にしていたが、ようするに思考実験の連続である。こうではないか、と考え、知識を並べ、仮定を作っては自ら論破していく。禅問答のようなものではあるがそれこそが論理の根幹でもあり、分析哲学という、ジャンルとは呼べないような、しかし徹底した明晰性を追求する学問となる。

 自分には全く縁の無い、本当に知識欲のある人間のする事だと、投げ出すような気持ちにならなかったのは、やはり奈子や希恵という存在がこの書籍に付随していたからだろう。確かに難解ではあるものの、回答を求めてうんうん唸るというのは苦手な行為ではない。

 思わず食い入るように読み耽っていると、折り良く待ち合わせの時間が近づいてきていた。彼女はきっと、ラッセル集についての感想を楽しみにしているだろうから、今付け焼刃のようにしてでも内容に触れられたのは悪い事ではなかった。

 手荷物を揃え、表へ出る。雨の予感は確かに雲から漂い、肌寒さもそれを助長させてくる。マフラーを一応鞄の中に入れてきたが、早くもそれを取り出して巻き、駅へ。

 奈子の姿はすぐに見つかった。同年の女性としては小柄な方になるだろう背格好に、ちんまりとしたショートダウンが覆うように着られていて、いくらか微笑ましい。しかしながら腕時計を手首を返して確認し、落ちてきた横髪を首を振って払う仕草は、女性らしいものであった。

「井波さん」

「あ、こんにちは」

 声をかけると、気をつけをするように背筋を伸ばし、奈子は顔を上げた。前髪の下で眉と目尻が微かに下がり、笑顔を作る。

「さて、どうしようか。俺井波さんが行きたいような所とか、実はちょっと想像つかなくて」

「お昼はもう食べられました?」

「軽くね」

「じゃ、お茶でも飲みながら、考えませんか。というか、そういうのに私が憧れてるんですけど」

「いいよ、無闇に歩き回るのも辛そうだし」

 マフラーをちょっと掴みながら言うと奈子は笑って頷いた。少し見回して、駅ビルの中にある喫茶店に腰を落ち着けることにした。主にケーキ類などをメインにした店で、全席禁煙となっている店内には完全に女性客しか見当たらないという有様であり少々尻込みもしたが、奈子の先導に引きずられる様にして中へ。義時はホットティーを、奈子はケーキセットを手に席へついた。

「あ、やっぱり井波さんは甘いのがお好きか」

「そんな、大好きって程ではないですけど。どちらかというと和菓子派です」

「和菓子とな」

「すあまが好物で」

 餅を甘く味付けたもの、という極めて簡素な和菓子である。それを嬉しそうに食べる奈子を想像して、聊か吹き出した。

「お、おかしいですか?」

「いや、いいセンスだと思う」

 納得の行かなさそうな顔で首を捻りながら、奈子はショートダウンを脱いで背凭れへ引っ掛けた。義時も同じようにしながら、両手でカップを掲げて指先のかじかみを癒す。

「そういえば、ちょっとだけど読んだんだ、ラッセル集」

「そう仰ってましたね。どうですか?」

「やっぱり難しいけど、でもおおまかにどんな本なのかは理解したのかな。読んでるうちに今までの前提がどっちに行ってるのか解らなくなったりちょっと複雑だけど」

「ですよね。パラドックスってそういうものだという事ですけど」

「井波さんはもう全部?」

「はい、家でやる事と言ったら本を読んだりするぐらいなもので」

「凄いな」

「時間があれば、誰にでも。それに、理解が出来ているかというと少し怪しいです」

「パラドックスも?」

「それは、説明出来ます」

「出来れば俺の脳に直接届くようにしてもらえると助かるな」

「あはは、いいですよ、ええと」

 ハンドバッグを手に取り、奈子は以前も見た手帳を取り出して、ページをパラパラとめくって行った。随分と使い込まれている事が、くたびれたレザーの表紙から解る。

「自分自身をその要素として含まない集合、と定義していますね。解り易く仮定するなら……そう、クラスとか」

「クラス? 学校の?」

「はい。生徒の集合です。これは、集合自体は生徒ではなく、生徒が集まっているものです。これをA集合とします」

「ふむ」

 右手のひらをぱっと広げて、奈子は続ける。

「次に自分自身をその要素として含む集合。これは逆に、職員室というのはどうでしょう。つまり、生徒ではないものの集合。生徒ではない、先生方の集合は生徒ではない集合、と定義出来ます。こちらを、B集合」

「うん」

 続けて左の手のひら。交互に見やり、奈子の顔に目を戻すと、真剣そのものな双眸がこちらを見ている。

「背理法によって、集合というのはAかBの条件を必ず満たすものです。自分自身を要素として含むか、含まないか。では生徒の集合の全てを集合させた場合、これをNとしたら、AとBのどちらになるでしょうか?」

「それは、Aの集合だからAになるんじゃなくて?」

「では、Aと仮定します。するとNは、自分自身をその要素として含まない物となりますね」

「そういう条件だったね」

「ですが、Nとはつまり、生徒の集合が集まったもの、差し詰め学校という所でしょうか。とすれば、Nは集合として学校であるという要素、学校を満たす生徒の集合という条件を満たしてしまいます。A集合として分類するには、自分自身を含まない、という条件に矛盾してしまうわけですね」

「おお、なるほど。じゃあBだと?」

「Bは自分自身を要素として含むものです。つまり、NはNの要素とならなければなりません。生徒ではない集合、という定義になりますが、NはA集合の集合である以上、A集合の条件が先に来てしまい、Bとなる事はありません。生徒の集合が集まって、教師の集合にはなりえませんよね?」

「うわ、凄いな。よく解った。と、思う。うん」

「ごめんなさい、私もちょっと説明は苦手かも」

 苦笑いをしながら奈子は眉の辺りをちょっと掻いて、ケーキにフォークを入れた。ラッセルのパラドックスというもの自体にそれ程これから先縁があるかどうか義時には解らないが、何かとても大きな理解を得たような気分である。

「まあ、哲学とは少しずれるような気もしますけど、というか、これは数学で言う集合論ですね。でも分析哲学ってこういうものなんじゃないでしょうか。つまり、禅問答」

「禅問答だって印象は俺も真っ先に行き着いたな。しかし凄いよ、かなりハッキリ解ったと思う」

「きっと数学を専攻するようになったら、これも学ぶのかも知れませんね」

「そうなったら、井波さんには感謝だな」

「そんな」

「しかし、君は凄いよ。こういう事を言うと失礼かもしれないけど、学校を辞めちゃったのは勿体無かったのかも知れない」

 そこまで言うと、奈子はちょっと目を泳がせてから、微かに頷いた。やはり言うべきではなかったのかとも思いながら、同時に希恵の部屋で見たものの存在を思い出す。

「ごめんね、気悪くしたかな」

「いえ、とんでもないです。そういう風に言って頂けるのは、凄く嬉しいですから」

「失礼ついでに、ひとつ尋ねても? これも、井波さんの昔の事だから、嫌だったら嫌って言って欲しいんだけど」

「昔ですか?」

「中学生の頃。どうも、俺の従姉が君の中学の先輩だったみたいなんだけど」

「そう、なんですか?」

 きょとんとし、目を丸くしながら、奈子は次を待つ。これは踏み込んでも良さそうだと確信して、義時は続けた。

「うん。乾希恵っていってね。今はうちの高校に居る。滅茶苦茶頭いいから、もしかしたら知ってるかな」

「はい、知ってます、乾先輩ですね。天才だ、ってお話と一緒に」

 大きく頷き、紙ナプキンで指を拭い、奈子は手帳を膝の上に戻して、身を乗り出すように答える。やはり希恵の伝説は高校だけのものではなかったらしいと呆れたように感心しながら、頷き返した。

「そう、ラッセル集は従姉に借りたものなんだ。その時井波さんの名前を聞いて、バスケ部の寄せ書きで見かけた名前だって思い出して」

「す、凄いですね」

「頭の作りが常人とは少し違うからね。それで、井波さんバスケやってたのかなと」

 微かに考えるような仕草をしてから、奈子は2度小さく頷き、口を開いた。

「はい、中学校ではバスケットやってました」

「やっぱりそうなのか。ホラ、これも失礼な話なんだけど、井波さんのイメージってやっぱりどうしても入院していた人っていう方が強くて。驚いたというか」

「いえ、失礼とかそういうのは。でも確かにそうですね、私とバスケはちょっと似合わないかも」

「そんな」

「でも、今でもきっと負けませんよ」

 しょげられてしまうかと思っていた義時に、奈子は取り繕った様子もなく、笑顔で言う。

「本当に?」

「あ、もしかしたら麻績くん勘違いされてませんか。私、病気で入院してたんじゃなくって、事故なんですよ」

「事故」

「はい、交通事故です。頭を強く打って長い間眠ってて」

「そうだったのか」

 色々と前提が崩れた瞬間である。何かと気を回してやらなければならない事もあるだろうなどと、どこか痛ましいような気持ちがあった事に気付き、義時は内心猛省した。言われてみれば、最初の印象もそうであったように、重い病気の影らしいものも無い。祖父が日に日にやせ細りながら不吉なものを感じさせつつ亡くなった事を思えば、今だから解るとはいえ、そういうものに合致する雰囲気は彼女には全くと言っていい程無かったのだ。

「いや、勘違いしてた。申し訳ない。本当に」

「とんでもないです、こちらこそ、変に気を使わせてしまったみたいで」

 ぺこぺこと頭を下げ合う2人。やはり日本人らしいやり取りであった。

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