悩めるサウナ室
店舗別対抗の水泳大会に出ると決まってから、ますます、わたしはプールに通うことが増えてきた。
ごんちゃんに、プールで会うたびに 泳ぎを見せてもらい、練習してる。
…でも実は、そのときの説明が…最近、意味が分からない。
この前何かね?
「泳ぐときは、頭から胸の下までが上半身、その下からは下半身だと思ってね。」
ん?んん?
お腹は?
お腹は、下半身として扱うの? それって背中も下半身に入るの?
あーもー
意味が分からない。キックは、お腹で打つの?
そんなもんだから、ごんちゃんの真似して泳ごうとしても、勿論、溺れる。
見ていたごんちゃんは、笑いながら
「背中で浮力感じて、そのまま浮き上がればいいんだって。」
得体の知れない事を言うもんだから…わたし、なにをすれば泳げるようになるんだろう…
いつしか、わたしは、サウナで練習前のストレッチをするヤマトさんに、相談相手になって貰うのが日課になっていた。
今日もまた、例外に漏れず聞いて貰っている。
「この前、プルブイ渡されて脚が使えないままバタフライやりました。」
あの時ね、ごんちゃんは プルブイとかいう足に挟んで使う白い浮き輪を持ってきて。
「キック、無理して打たないでいいから、泳いでみて」って。
やってみたけど、進むどころか、ますます進まない。ごんちゃんは、「そっからかあ…」と苦笑い。
わたしは、苦笑いの意味も分からず、プルブイを黙って返したのが、一昨日の出来事。
「わたし、運動神経ないのかなあ…泳ぐどころか、次第に沈むんです。」
若干の弱音を、ヤマトさんの前で吐いてしまった。
「…なにか有りました?」
ヤマトさんがふと、ストレッチを止めた。
「いや、ごんちゃんの説明通り泳げなくって…特に、呼吸とかのため身体起こすのが出来なくて…」
ヤマトさんは「なかなか難しいっすよね」と笑った。
振り返ったヤマトさんは…ダンスとかしたら、舞台映えしそうだな…。すらりとした、長い手足。…モデルさんみたいに細過ぎず、レスラーのように太過ぎず。
「ヤマトさんって、何か、他に運動やってるんですか?」
聞いたら、
「ランニング的なものを少々」だって。
陸上部とかだったのかな…自分が高校の時ね、駅伝部がすごく強かったの。
ヤマトさんみたいに、筋肉質で…でも、もっとひょろひょろ立ったけど。
「その身体付きは、走っただけで?」
見事すぎる肉体美だと思う。あのカンナちゃんとごんちゃんも、女子更衣室でキャッキャ言ってたっけ。
「ランニング、だけじゃないッスけど…でも、泳いでて役に立ってる気はしないですよ。」
「そうなんですね。意外…でした。
水泳は…運動は、筋肉が有れば だいたい何とかなると思ってました」
…違う…の?
ヤマトさんを見上げると…言葉を選んでくれてるっていうか…視線の先に泳いでる人を見ながら話し始めた。
「ごんさんは、身体の使い方が半端なく水泳向きなんでしょうね…」
そうなの?
「自分が ごんさんと同じピッチで泳ぐと…沈むんです。」
ヤマトさんが自嘲気味に「自分の場合は、体格とフォームが関係するかもしれませんが…」と笑ってまた話し始める。
「自分も気になってました。何で、あれだけ少ないストローク数で進めるんだろうって。
…ごんさんが教えたいのは、『体育の教科書に載ってないような基礎中の基礎』かもしれませんよ?」
そうなのかな。
ごんちゃんって。水泳って。
手足の力だけで進まないで…それこそ、全身の力を全部うまく使って泳いでるのかな。
そしたら、少しだけ納得できる
「手を前に出すときは、指先の遠心力で戻して。」
「潜る時は、アタマの重さを使って。」
「肩を起こすときは、腹筋と背筋をこき使って。」
「腹筋で身体を後ろに倒せば、お尻が浮くわ。それがそのままキックのスイッチになる」
ああ、だからか。
小さなヒントが、ジグソーパズルのように繋がっていく。
泳いでないから実感はないけど…全身のどこかをうまく使えば、連動して身体はパワーオンするってことなんだ。
「なにか、掴めたって感じですね」
ヤマトさんが笑って続けた。
「1人だけズルいですよ? 自分も気になるじゃないですか」
ふふ、そうだね。
掴んだら、教えてあげるね?
うまく説明できるか、分からないけど。
そうこうしているうちに、それぞれの「お師匠さん」が迎えにきた。
今日のケンさんたちは、「クロールの呼吸」だって。
…うちは…
「今日もプルブイ使うよー。リズムを掴もうね~」
ヤマトさんの思ってること、信じてみようかな。
…ごんちゃんは、ごんちゃんなりに考えてくれてるのかもしれない。
ヤマトさん、ありがとう。
わたし、今日も頑張ってみるから、お互い頑張ろうね




