自覚した先は、なぞだらけ
「痛っ」
それは、突然の痛みだった。
壁を蹴ってキックを打ったとき、足首が外れたかと思うような不安と痛みが走った。
実は、少し前から違和感はあったの。でも、普通にしていると、何もないし。
ただね…バタフライのキックを打つと足首が痛いの。
それが今日は若干ハンパなくて。
コースの端っこで、クリクリと足首を回しては、違和感の元を探してたけど分からないんだよね…なんなんだろ、気のせいかな。
もう一度泳いでみる。
やっぱり少しだけ痛い。練習…出来なくないけど…、不安は残る。
どうしよう、かな…
ウニウニ悩んでいたら、あっという間に、ごんちゃんに見つかってしまった。
こういう時のごんちゃんって鋭い。
「どっか痛めた?」アッサリ指摘され、そのまま言い渡されたのは「当面、練習禁止」
強制的にプールから出させられ「まぁ1週間以上あるから、間に合うと思うけど」とは、言われたものの、強制帰宅。
ジムを出て、ため息をつきながら帰宅して、落ち込んだ気分のまま朝を迎えた時だった。
カンナちゃんから、夜のうちにメールがきていた。
タイトルは「当日詳細」。そしてもう1本「補足」
「当日詳細」には、当日の集合場所と終わった後での打ち上げ宴会の概略が。 一方、「補足」には、「始めての競泳大会参加だと思うから」と、当日のアドバイスが書いてあった。
カンナちゃん、マメだなあ。わざわさ「レース当日の食事について」とか「持って行った方が安心なもの」とか、丁寧に書かれていた。さすが、面倒見いいお姉さんって感じ。
そして、文末には
「泳ぐなと言われた方が焦るだろうから、たまには水に浸りにおいで。
お大事に」
書き添えてあった。
カンナちゃん…
言葉にならない、ぱあっとした嬉しさが広がる。
返事、しなくちゃ!
早速、返信を作り始めていた時だった。
ケータイの通知バーに新着を知らせるアイコンが現れた。誰だろ…見慣れないメールアドレスだった。
タイトルは「大和です」
大和さんといえば、ヤマトさんしか思
い当たらない。
どうしてアドレス知ってるの?!…あ、そうか…昨日のカンナちゃんからのメールで分かったんだ。
本文には、やっぱりカンナちゃんのメールで宛名が分かった旨と
「ごんさんから聞きました。
足首、大丈夫ですか?」
とが書き添えられてた。
嬉しい… やだ、どうしよう。ヤマトさんから連絡貰うなんて。
カンナちゃんへの返信を手早く済ませて、なんとかドキドキを抑えた。
へ、返事打たなきゃ
「ご心配掛けちゃってスミマセン
絶対トレーニング禁止って、ごんちゃんにも言われました。
レース前には、フッカツしますっ!」
可愛い絵文字とか入れれば良かったかなあ。あ、でも、表示されなかったら意味ないか…なくてもいっか。
返信を送って、しばらく。会社に付いたときに ふと返事が来た。
「お大事にしてください
無理、しないでくださいね
いないの、寂しいけど。」
キャーッ!
か、かんちがいしちゃうじゃないのお
はあ。どうしよう
こんなこと言われたら、都合良く考えちゃうよ…
「ありがとうございます
プール、行きたいけど、ガマンします…」
恐る恐る…絵文字を添えてみた
チョット当たり障りなく可愛いやつ。チョットでも、好感度あがって欲しくて、冒険してみた。
どうかな、返事くるかな。どんな返事くるかな…
ドキドキしながら、ケータイを握っている自分がいる。
5分経過。
…返事は…こない…
10分経過。
…こない…
お昼休みにケータイを見たけど、返信は来てない。
はあ…
呆れられちゃったかなあ…
そんな失意の中、メールが届いたけどそれは
「人の身体はね、精一杯頑張ってくれるように出来てる。
どんなに結果が良くても悪くても、今から悪く考えちゃダメだかんね~」
カンナちゃんからの返信で。
嬉しいはずなのに、「なーんだ」と呟いてしまった。ごめんね、カンナちゃん。慌てて心の中でつぶやいた。
わたし、ヤマトさんのこと…好きになってたみたい。
どこで、何の生活をしてて 何歳なのかも分からない人を。