夜に追うヒト、逃げるヒト
「奥に逃げたぞ追え!!追うんだっ!!」
「さっさとしろよサム!!」
「わーってるよスコット」
「コリンズ・サム・スコット!!お前達、あの化け物共を逃がすんじゃないぞ!!他の者も我らに続けぇぇぇぇ!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」
闇夜に森の中をトーチを持った甲冑を着た一団が駆けていく。
疾走するかがり火に辺りを照らしながら行軍はまるで獣道を地ならししていくかのように強く大地を踏みしめて確実かつ速く進んでいる。
その中でもあきらかに他のものとは違うしっかりとしたつくりの甲冑に身を包んだ男が叫んだ。
「我らの護りし領主様の土地に我らの大切な領民に成りすまし領民に恐怖を与えし化け物共を我らが討伐するのだ!!」
領主のお抱えの近衛兵団「銀剣団」の団長「ケヴィン・エル・フィリアレンス」の劇が飛ぶ!!今は領主のお抱えだが過去の大戦では「百人長」にまで上がった男だ。
しかも団長は平民から騎士にまでなれた叩き上げの逸材、その為か他の団員からの支持は高く本人もそれにあぐらをかかず切磋琢磨と日々の鍛錬も怠ったことがないほどの人格者だ。
一般的に騎士の階級は平時と違い戦時は、元の階級とその戦時中の功績により階級が上がっていく。
下から「十人長」「百人長」「千人長」とわかれているが百人長ということは最低でもその隊だけの討伐で100隊以上の魔族を討伐したという証である。
その誇るべき団長の檄に呼応するように整列して行軍している団員達が高らかに叫んだ。
「「「我々の気高き領主様のために!!」」」
「で、申し訳ありませんがイマジン様は容姿を変更できる事の出来る神ですか?」
近衛兵団が”彼ら”を追いかけている最中の”さまよいの森”での出来事に戻る。
突風とともに現れたイマジンの見た目と言動のギャップに軽くびっくりしながら俺はイマジン様へ遠慮がちに聞いてみる。
そんな事か、といった感じで目の前の黒づくめの幼女「イマジン様」が答える。
「そうだな・・・大体この姿も合わせて2形体だな、もう一形体も見てみるか?」
「いえそんな、滅相もない・・・えっ!?」
俺が答えるよりもイマジン様が姿を変えるのが早かった。
またしても突風が吹き木の葉が舞った。
突風がやみ俺が目を開けると”それ”がいた。
その目の前には高さで言えばゆうに30mはあろうかといった、地球ではファンタジーの創作物であるあの伝説的存在の姿に変わったイマジン様がこちらを覗き込むようにしてたっていた。
その存在感に息を呑みつつも俺の口からとっさにポロリと一言だけ漏れてしまった。
「黒いドラゴン・・・」
「どうじゃ、かっこいいであろう?」
黒いドラゴンとなったイマジン様が俺にえっへん、といった感じで誇らしげに語る。
はぁ。という言葉しか出なかったがその迫力に今までで一番胸が躍った。
「イマジン様はそのお姿が真なる御姿なのですね!!」
「そうじゃ、いかんせんヒトに合わせるとなにぶん不自由するのでな先ほどの人型も覚えたわい。」
ドラゴンの時のほうが幼女状態より口調がしっくりくると思ったのは口に出すのは失礼だなと思い俺の心の中だけにとめておいた。
「さてナナシ、今から貴様に神の力の使い方を教えてやる。まずは頭に”メニュー”と思い浮かべてみよ。」
一瞬とまどったがイマジン様・・・神の言うことだおとなしく従おう。
頭の中で”メニュー”と思い浮かべるとRPGに良く出て来るメニュー画面が目の前に浮かびあがった。
メニューには個人ステータス・箱庭ステータス・神の力・他の神への連絡の4種類があった。
そのメニュー画面の下に結構大きい数字・・・8桁の数字があった。
うん、たぶんあれだなと思いつつイマジン様に聞いてみる。
「イマジン様もしかしてメニュー右下の数字はお「金ではなく神の力の元、カルマじゃな。」」
こちらの言いたいことを察してかイマジン様が途中で俺に説明してくださった。
イマジン様いわくどうやらカルマというのは普通のお金とは違って獲得方法に大きな問題があるらしい。
獲得方法もすぐに教えてくれるといい、そこまで説明してイマジン様がまた突風とともに幼女の姿に戻った。
「とりあえず支度金替わりに1千万カルマ用意しておいたわ!!まぁよい、そろそろあやつらが来るころじゃろ。ナナシよ”神の力”でこの森の”ゲート”を開くのじゃ!!」
何がくるのか不安に思ったがイマジン様に言われた通りに”神の力”を使い”ゲート”を開いた。
その時メニューには”神の力””ゲート開放100カルマ”と浮かんでいた。
使用しますか?しませんか?と書かれていたのでその下にある記号のうち×ではなく○の方を押した。
するとすぐさま黒いもやもやの塊が前方に広がったと思ったらそれが扉の形になった。
自分で扉を作っておいてびっくりしつつも注意深くその様子を観察する。
黒い扉が音もなく静かに開くとその先からこちらに走ってくる、たくさんの影があった。
「えっ、獣人?」
頭の中で「チャリーン」という音を聞きながら、扉の向こうからやってきたのはおおよそ30人ほどの獣人達だった。
「イマジン様・・・私達にご加護をお授けください・・・」
「はやくしなさい、アイナ!!すぐ近くまできてるみたいだから!!」
お母さんにあわただしく言われて私はすぐに用意していた荷物のなかにお守りをいれて家を出た。
村の他の家からも同じように家の中から外に出てきているヒトが多い。
「ケインおじさん達またせてすいません。」
「よし、アイナちゃんたちもそろったな。ダジン村長みんな出てきましたよ!!」
他の人達もいそいで出てきたようだが全員そろっているようだった。
そして村長の言葉を待っていた。
「みな、東の森にむかえ!!そのままオリシラ伯領内まで逃げるんじゃ!!」
ダジン村長がとなりの領まで行けとみんなに言っている。
けれどもそれが解決策じゃない事くらいみんなわかっているだろう・・・私達はどこに行っても迫害されるんだ。
そう思いつつも私も他のみんなのように獣人化して森の中に入っていった。
しばらく森の中を走っていると前から誰かがびっくりした声を上げた。
「なんだありゃ?」
「魔物じゃないみたいだが・・・」
「おいみろ!!扉みたいだぞ!!」
私達の前方に黒い扉がみえる、森の中には似つかわしくない黒檀で出来ている様なその扉にみんなの視線が集まる。
「後ろからやつらがきてるみたいだぞ!!」
「一番後ろにいたチビが追いかけられてるみたいだ!!」
「相打ち覚悟で子供は助けるべきだ!!」
「どうして目を離した!!」だの「近衛兵団に対して応戦するべきだ!!」だのみんなでざわざわしていると扉が音もなく開いた。
と、同時に凄い速さでこちらに扉が移動してきた。
「なんだ?やつらはどこに消えた!!探せまだ近くにいるはずだ!!」
追っていたはずの化け物が消えケヴィンは団員に捜索命令を出した。
けれども朝方までの捜索にかかわらず領地の境界まで捜索したがアイナ達が見つかる事はなかった。
「えっ、夜だったはずなのに・・・明るい?」
扉が迫って来たところまでは覚えているが目の前が急に明るくなった事に疑問を隠せないでいるとポツンと立っている青年と少女が目にとまった。
「貴様らは何者だ?我らをどうするつもりだ?」
獣人化して口調の荒くなったダジン村長の質問にみんなの疑問がつまっている。
特に青年の方はいたって普通の格好をしている。隣の少女は貴族のような高級そうな衣装に身を包んでいるが。
少しの沈黙が場を支配したがすぐさまそれが壊された。
「我らが信徒よ!!良くぞ無事で逃げ切った!!ここがお前達の安住の地となるじゃろう!!我らは貴様達を迫害する事はありえない!!なぜならば、私こそがお前達の神「イマジン」であるからじゃ!!」
疑問に答えてくれたのは意外にも黒ずくめの少女のほうだった。
力強く澄んだ声で私達の耳に声が響き渡った。
しかも、とびきりのサプライズつきで。
「あなた様がイマジン様なのですか?」
おもわず、誰よりも先に声をあげてしまった。
「そうじゃ、なんじゃったら変化して竜神の姿の方がよいかの?」
「すまない、イマジンさま。あの扉もあなたが開いてくれたものだと理解ができる。感謝する。」
獣人化してうまく丁寧な言葉を言えないダジン村長がびっくりしつつもイマジン様に感謝を告げる。
村長をかわきりに村の人達からの質問がイマジン様に押し寄せる。
少しも嫌な顔をしないイマジン様を村の人達が続けざまに質問していくが内容が頭に入ってこなかった。
ざわざわする中で私は感激に震えていた、「神はこの世にいるんだ」と。
「さて、お前達がここで生活をしていくのじゃが見ての通り今のここには森しかないんじゃ。生活していくために家も建てねばならないじゃろうし。食料も集めればならんじゃろう。そこでこのナナシの出番じゃ!!」
えっ、そこで俺ですか・・・まぁ大体理解はできますが。
さっき”神の力”使ったときに”ゲート”の近くに”建設”や”創造”って書かれてましたし。
これはあれですね、管理人=「リアル・シ○シティ(中世版)」をしろって事ですね。
わかります。
「ナナシにはお前達の手助けをしてもらうつもりじゃ。みな、ナナシの言う事を聞くように。」
そこまで言うと「ほれ」といった感じでこちらに丸投げしてくるイマジン様。
よく聞いたら彼らは「ライカンロープ」の一族らしく獣人ではないらしい。
「ちなみにこのナナシは私の眷属じゃ!!ナナシ、ライフラインの整備と他もろもろよろしくたのむのじゃ」
「イマジン様の眷属のナナシです・・・っていきなりですか大事な事はきちんと先に教えてくださいよ。(泣)」
こうして俺、イマジン様の眷属”ナナシ”による”箱庭開拓作業”が始まった。
後から1・2話については修正するかもしれません。