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獣の烙印  作者: 日野枝 弥
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第伍拾壱話 巫女の目覚め

 結子の双眸(そうぼう)は焦点の合わないまま彷徨(さまよ)っている。

 その脳裏には前世のさまざまな記憶が蘇っていた。



 木の上に登って暁の城下を眺める子供たち。それは幼き結衣姫と、守護四家の五人だ。

 庭園で手鞠をついて遊んでいる。

 その近くで万里が本を読み、白蓮が琵琶の練習をしていた。

 左近は猿と遊んでいて、木の上では天壱が昼寝をしているのだ。

 結衣姫はそこへ向かって笑いかける。


 十六歳へと成長すると、天壱にひかれて野山を駆けていた。大勢の追っ手から逃げている。

 そして、妖王の襲撃───。

 炎に包まれた城で、郁巳によって殺されたという結末───。

 すべてを思い出したとき……結子の身体にも斑紋が現れていた。


 ああ、そうだ……私も四人同様に願ったのだ。




『生きたいか』


 七色の光の渦の中、誰かが訊ねた。

 自分の上にのりかかるようにして力尽きたはずの天壱は、姿を消していた。

 仇を討ちたかった。巫女として国を守れなかったのだ。

 そして大切な人を失った。


『おまえの守護四家たちは、獣となることを誓った』



 我らの肉は人にあらず。

 我らの(こころ)もまた人にあらず。

 されど、この想いははつることなく…。

 愛するあなたのためならこのすべて。

 獣の業火(ごうか)に投じましょう。



『暁の巫女よ。お前はどうする?』


 迷いなどなかった。

 天壱の代償の一つが結衣姫としての記憶の封印であることは……天壱らしいと思った。

 彼の優しさだ。

 おかげで結子は恨みや憎しみといった感情に縛られることなく転生することができたのだ。



 孔雀明王よ、ならば百年の後。私も獣となりましょう───。



 守護四家同様、結衣姫も獣としての力を得ていたのだ。

 ただ、天壱の代償によって、そのことは、思い出の記憶ごと封印されてしまっていた。





 


 次回が最終回となる予定(?)であります。

 ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございます。

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