第伍拾話 獣気召喚!
傷口をそのままに天壱は宣言した。
「解! 獣気召喚っ!!」
「獣気ぃ!?」
結子は思わず耳を疑った。
その瞬間、天壱の全身が斑紋に覆われて、宝玉から青い光がゆらりと立ち昇った。やがて神々しい光に包まれた彼の肉体が───四足の獣《白虎》へと変化した。
ヴオオオオッッッ!!
銀色の毛並みをした獣は咆哮すると、朱羅へと挑んでいった。
(銀色の獣…トラみたいな…本当に天壱なの? そういえば、夢で見た獣に似てる)
朱羅が銀虎の背に鋭い爪あとを残した。
ドウッ! と転倒した銀虎はすぐさま起き上がると、敵の脇腹に噛み付いて肉を食いちぎった。
緑色の血が噴出しても、朱羅は倒れない。
互いに血だらけになりながら、一歩も引かない。
戦いの最中、銀虎がちらりと結子を見た。
加速をつけると、朱羅の首筋に食らいついて押さえ込む。
「ぐあぁぁ…っ!」
朱羅が絶叫する中、グルルルッと咽喉をならした銀虎が何かを目で訴えている。
剣をかまえたまま結子は震えていた。
「ダメ……出来ないよ。だって天壱も巻き込んじゃう……ッ!」
拒絶しても無駄だった。
銀虎は朱羅を銜えたまま破邪の剣へと突っ込んできた。
「いや───っ!」
グサッ、という音と、何かに剣がめり込んでいく生々しい感触。
破邪の剣は天壱ごと妖王・朱羅を貫いていた。
魂消るような悲鳴をあげながら、朱羅が自ら剣を引き抜いた。
緑色の血と、天壱の赤い血が飛沫をあげて滴り落ちる。
「天壱、天壱! しっかりしてっ!」
血まみれの銀虎に駆け寄った結子は信じられない言葉を聞いた。
「結子…」
「虎になっても…話せるの?」
「もう一度……俺が突っ込む。いいな、………もう一度だ」
泣きながら頭を振っても、天壱はよしとしなかった。
もう一度、自ら犠牲となって朱羅ごと破邪の剣に貫かれるつもりなのだ。
「天壱が死んじゃうっ……、どうしてっ、なんでここまでするのよ!」
「俺の……願いだから」
大切な人を守るために───四人は獣の烙印を受けた。自ら神獣の力を得ることを選んだのだ。
朱羅は、よろめきながらも立ち上がろうとしている。結子は戦慄した。
(破邪の剣で刺したのに……効いていない!?)
銀虎は朱羅の毒気を全身に浴びながらも、再び首根っこを押さえつけた。そして──。
破邪の剣に再び貫かれて二人は倒れた。それでも朱羅は滅せられなかったのだ。
「どうして!? 私は破邪の剣をふるって妖王を倒す巫女じゃないの!?」
結子は、泣きながらひれ伏した。小猿が慌てて駆け寄ってきて心配そうに覗き込む。
銀虎は結子の傍へ行こうと身をよじるが、瀕死の身では動けなかった。
『巫女よ──願ったであろう』
またあの声がした。小猿が突然、結子の額に触れる。すると腕の宝玉が再び輝きだした。
「あっ…あ…ああ…ああぁぁっ」
『思いだせ』
記憶の封印が、神通力を持つ小猿によって───解かれた。
今回は長めとなっております。がんばりました。(笑)
花粉症の季節となりましたが、皆様は大丈夫ですか? 私はかなりヤバイです。(泣)