第四拾伍話 白蓮の決意
女嫌いの白蓮にとっては最悪の組み合わせ───彼は明凛と対峙していた。
「よくもお気に入りの衣装を焦がしてくれたね! くらえっ!」
明凛は以前、白蓮の雷撃を間一髪のところで避けた代償に、衣装をボロボロにされたことがある。その恨みかやたらと攻撃的だった。毒針を飛ばし、毒霧を撒き散らすのを繰り返している。
「あまいあまいっ、これでもくらえっ!」
「風伯召喚!!」
白蓮はお返しとばかりに飛んでくる明凛の毒針攻撃を、突風で弾き飛ばした。
なかなか接近することができずに、時間ばかりが過ぎてゆく。
結子のおかれた状況を考えると、さすがに焦りと苛立ちが隠せない。
(覚悟はできておる……いつまでも長引かせるわけにはいかん)
繭に閉じ込められたままの結子が心配だった。もう、一刻の猶予も許されないのだ。
白蓮は口元を覆うと、覚悟して毒霧の中へと入った。そして明凛の近くへと素早く移動し、背後から腕を伸ばして羽交い絞めにする。
「貴様、離せっ!!」
「離さぬ…地獄の底まで引きずりこんでやるわい。姫殿を害するモノは、この世から消えてもらう。女子は嫌いじゃ」
白蓮のただならぬ気迫を感じて、明凛は暴れだした。
「貴様何をする気だっ、やっ…やめろ──ッ!」
「解!! 水気召喚ッ」
明凛の絶叫と神々しいまでの気に、一瞬、皆が動きをとめた。
「清浄なる水よ、悪しきものを葬り去れ!」
結子は意識が取り込まれそうになるのを、必死になって抵抗していた。
それでも慣れてきたのか……だんだん繭の中にいることが心地よくなってきた。
そんな時だ──見開いたままの瞳に、ぼんやりと四人の姿が見えた。
(左近…万里…天壱………白蓮!?)
結子は何事かと息を呑む。
翠玉が鋭い光を放ち、妖鬼を押さえつけた白蓮の身体は、一瞬にして斑紋に覆われた。
石畳にどこからともなく水が湧き出し、白蓮と明凛のまわりに真っ暗な穴が開いた。
勢いよく流れ出した水は、滝のように穴へと流れ込む。
次第に穴は水で溢れ出し、二人は中へと沈み始めた。
苦しみだした明凛は、本性の蜂としての姿を現した。
天壱、万里、左近が叫ぶ。
「白蓮!」
「やめなさい! 白蓮っ」
「ジジイ──っ!!」
翠色の光が、白蓮をユラユラと陽炎のように包み込むと、腕の翠玉が砕け散った。
(こんなのは…イヤ…イヤだよ)
結子の気持ちに反応して手首の宝玉が、七色の光を放ちはじめる。
「姫殿…最後までご一緒できぬこと、お許しください」
まぶたを閉じたままの白蓮が、結子のほうを見て満足げに笑みを浮かべた。
白蓮は明凛を道連れに真っ黒な穴の中へと消えてしまった。
大量の水も瞬時に失われ、もとの石畳へと戻った。
結子は一瞬、翠の光の中に何か神々しい生き物を見た気がした。
しかし───そこには翠玉を失った銀色の腕輪が残されているだけだった。
白蓮死す……。はたして結子救出はなるのでしょうか。残された三人はいかに。