第四拾弐話 結界を解け
かつて暁城が存在したところは荒地となっていた。
あまりの変わりように四人は言葉がない。そもそも建物自体が見つからなかった。
「ここ……だよな?」
「微弱な妖気を感じる。おそらくは結界で隠しておる」
白蓮は盲目なだけあって、人間や妖の放つ気には敏感だった。
「では、私が」
万里が背負っていた箱の中から、独鈷を取り出した。そして荒地を囲むよう、等間隔に独鈷を地へと投げ込んでいく。
(姫様……必ず、お助けいたします)
「解!! 雷気召喚っ!!」
万里が叫ぶと天から雷が落ちてきた。独鈷で囲んだ土地の中を稲妻は放電し続け、なにか重量感のあるものとせめぎあっているように見える。
力を解放した万里の顔に、天壱の腕に似た斑紋が浮かび上がった。それについて、もはや誰も追及しなかった。
やがて──幼き頃より慣れ親しんだ暁の城が現れた。今では魔物の巣となっている。
妖王の根城とはいっても、人間の姿も妖の姿もなく閑散としていた。
「こいつは……妖王の趣味か?」
幾つも建てられた楼閣、繋ぐように架けられた渡り廊下に天壱はあきれ顔だ。
「趣味悪いし、薄気味わりぃ〜」
左近がうんざりした口調で言った。
「妖鬼の姿がねぇな…」
「本来、妖鬼は統率するとか、されるといった概念をもちませんからね」
「側近たちが例外ってことじゃな」
「行くぞ」
ドン!! という衝撃波と共に妖王の城は揺れだした。
一所に集っていた側近たちは、結界が破られたことをすぐには理解できなかった。
「なーんか揺れたねぇ…」
血を思わせるような紅を唇へと塗っていた明凛がのんびり言った。
「来たな」
香頭羅だけが椅子から立ち上がり、肩に武器を担いだ。
戦うことが好きな妖鬼は、骨のあるヤツと戦うことを心底楽しむつもりだった。
「来たって何が?」
「ヤツらがお姫様を奪還しにきたのさ」
「もしかして…私の衣装を焦がしてくれた方たちのことかしら?」
「なんだって!? あの二人組…絶対に許さない、行くよ芙蓉!!」
以前対峙したことのある女妖鬼たちは、鼻息荒く室から出ようとしていた。それを蛆理が引きとめる。
「何人いるか知らねぇが、俺ひとりで十分だ。お前らは祭壇を見張れ」
「……ではそうしましょう」
あれから香頭羅は、主殿へとやってきた。
ひとり不服そうな顔をしたままの妖鬼は、ふと立ち止まった。
岩壁に連なった繭の中に、暁の巫女の姿がある。
結子は繭の壁に両手をかけたまま──硬直していた。瞳は見開かれたままだ。その瞳にもはや生気はない。
生け贄を捧げてアムリタを作り出す。それで妖王・朱羅は復活する。
香頭羅は祭壇の最上階を見上げる。
そこに現れた巨大な襖は──開かれていた。
ぼちぼち終盤に近づけていかねばなりません。
しばらくは戦闘が続きそうなので、テンションあげて書かないと。がんばれ私〜!