第四拾話 暁城へいざ、ゆかん
うっとりしている万里に、三人は半ば呆れ顔をしていた。
話は長かった。やっと終わったのだ……やっと。
今、彼らのいる地はかつて、逃げてきた磨那の民が集落を築いていたところだ。
今では人々が立ち去り、朽ち果てた空き家が点在する荒涼とした土地となっていた。
周囲の薄野原を眺め渡していた左近が、何かに気づいた。
「おいっ、人が倒れてる!」
密集する薄をかき分けていくと、そこには無数の狼鬼の屍が転がっており、その先に貴枝郁巳が倒れていた。
驚いた四人は結子の姿を捜すが、彼女の姿はどこにもなかった。
「姫様はどこです!?」
万里が問いただすと虫の息だった郁巳の口が、微かに動いた。
「すまない…妖…王の…われた…よう…だ」
「てめぇ…俺から奪っておいてっ」
怒り心頭の天壱が郁巳の身体を揺さぶるのを、白蓮が止めた。
「それは確かか?」
「結界の外へ……逃が……し」
郁巳は暁へと送り届けたつもりだった。それなのに結子の気配は……忽然と消えてしまったのだ。
おそらくは二匹の妖鬼と違う別働隊がいたのだろう。
郁巳に悔しさだけがこみあげた。
「結衣姫……結……」
そこまでで、郁巳は沈黙した。
微かに感じた宝玉の気配は、やはり結子だったのだ。
しかし、すぐに連れ去られたのだろう。今では何も感じない。
「結子…」
「行くしかありませんね」
「百年間の鬱憤を晴らすときがきたなッ」
「願いはただ一つじゃ。姫殿をお助けし、妖王を倒す」
四人は無意識に腕の宝玉に触れていた。
あの日──突然の別れが訪れた。
力を得て蘇ったときには、すべてが終わり───守るべき人を失っていた。
守るべき人が転生するのは百年後。
その間、妖を滅しながら《破邪の剣》を探し求めた。
俺たちは──代償と引き替えに力を得た。
「行くぞ」
「あぁ、かつての暁城……妖王の根城へ」
結衣姫との出会いは、もっと前に書こうかとも思ったのですが、話を早く進めるために後回しにしてしまいました。
過去と現在を絡めた話を書くというのは、難しいことですね。