第四話 異形ノ者
「…すでに九百と九十九年──」
闇の中からくぐもった声が響いた。
「まだ一年ございます。我らが必ずや手に入れますれば…」
「どうか、どうか我々にお任せくださいませ」
祭壇の最上段へむかい四人の異形のモノが跪いている。
最上段には開かれた巨大な襖。
しかし、その向こうはただひたすら、暗黒の空間が広がっているだけで声主の姿は見えない。
「我が死ぬようなことがあればどうなるか、わかっていような? すべてが無駄になるのだぞ。お前達の妖力も途絶えよう」
「忌々しい…ッ! 下等な人間どもめッ!! 百年前を思い出すだけで虫酸が走るっ」
「我らに面とむかって歯向かえる者など、この世にはおりませぬ」
「朱羅様、居場所は突き止めてございますれば、必ずや期待に応えてみせまする。娘は間違いなく、こちらへ参っております」
返答に満足したのか、やがて声は途絶え、巨大な襖は音もなく消え失せた。
四人の異形のモノたちは祭壇から階段を使わずに下階へと飛び降りる。
この建物は主殿であるわけだが、石の床と石柱があるだけで左右は剥きだしの岩肌となっている。
俗にいう室とは異なる異様な空間。そこには岩肌にそって無数の白い糸でできた繭が数珠繋なぎに連なっていた。
繭の中には何かがいるらしく、呼吸するかのように脈うっている。
天井までつながった繭を、満足げに眺めながら一人が言った。
「鏡から娘を引きずりこむことには成功しましたの。昔のように娘を守る者はいませんし、人間どももあれほどの抵抗はできぬはず」
「さっさと拉致って、朱羅様に献上しようぜ」
「女かぁ…ククっ、人間は柔らかくていいよなぁ」
「…あんたは女といえば見境なく囲いやがる!! 朱羅様への献上品に手出しは無用!! まずはあたしが行く」
互いの視線を合わせると一同は無言で頷いた。